先日、フォルクスワーゲンがヨーロッパで限定車「ID.3 GTX FIRE+ICE」を発表しました。フォルクスワーゲンは過去にも限定車「Golf2 Fire and Ice」を発売したことがあります。それだけに気になるのが“Fire and Ice”のこと。そこで、あるモノを購入して、その伝説に迫ってみました!

2025年7月9日、ドイツのフォルクスワーゲンが限定車「ID.3 GTX FIRE+ICE」の発売を発表しました。ID.3 GTX FIRE+ICEは昨年9月にスイスのロカルノで開催された「ID.TREFFEN」(IDミーティング)でショーカーとして初披露され、これが約1年の時を経て市販に漕ぎ着けたのです。
ちなみに、ショーカーおよび市販版のID.3 GTX FIRE+ICEには専用デザインのアルミホイール“ロカルノ”が装着されます。ID.TREFFENの開催地の名前がつけられているあたりに、フォルクスワーゲンがID.TREFFENをいかにリスペクトしてるかが伝わってきます。

市販版のID.3 GTX FIRE+ICEは、ID.3のスポーツモデルであるID.3 GTX(210kW)と、その高性能版のID.3 GTX Performance(240kW)をベースに、特別な内外装を与えたものです。

たとえば、エクステリアでは新開発の“エレクトリックバイオレットパールエフェクト”のボディカラーをはじめ、FIRE+ICEのパターンが施されたCピラー、フレームレッドのルーフフレーム、FIRE+ICEのロゴなどが、このクルマの個性を際だたせています。
またインテリアも、FIREを表すファイアレッドと、ICEのクールブルーの2色により、FIRE+ICEを表現しています。



ID.3 GTX FIRE+ICEは1990台の限定販売。これは、「Golf2 Fire and Ice」が発売された1990年にちなんだものです。Golf2 Fire and Iceは当初10,000台の販売を予定していましたが、あまりの人気に16,700台が生産されたといいます。少数ではありますが、日本にも正規輸入されました。

それほど人気の“Fire and Ice”とは、いったい何でしょうか? 私は知りませんでしたが、「Fire and Ice」は、1986年、当時の西ドイツで公開され、大ヒットしたスキー映画でした。その続編が「Fire, Ice and Dynamite(邦題:サマーシュプール)」で、Golf2 Fire and Iceは「Fire, Ice and Dynamite」とのコラボレーションモデルとして誕生しています。
オリジナルの「Fire and Ice」は、プロスキーヤーのジョンとスージーによるラブストーリーで、ウィリー・ボグナー(Willy Bogner Jr.)が制作・監督・撮影・脚本を担当したのも見どころのひとつです。
ウィリー・ボグナーはドイツの高級スポーツウェアブランド「BOGNER」を創業したウィリー・ボグナー(Willy Bogner Sr.)の息子で、アルペンスキーの元オリンピック代表でした。選手として活動したのちは、スキー撮影の第一人者として名を馳せ、「白い恋人たち」や「007」シリーズなどの撮影を手がけました。
1980年代はドイツでもスキーは非常に人気があり、ウィリー・ボグナーの「Fire and Ice」は、全編にわたり繰り広げられる圧倒的なスキーシーンとそれを際だたせる音楽が、当時の若者を魅了したのでした。
日本でも1988年秋に「白銀の恋人たち」として公開され、読者のなかにはご覧になった人もいるでしょう。残念ながら私は見るチャンスを逃してしまい、ドイツでそれだけの人気を誇った伝説の映画をひと目みてみたいと常々思っていました。しかし、DVDやネット配信で見つからずに諦めていたところ、たまたまVHS版(もちろん中古品です)を入手することができました!

さっそく、ここ何年も使っていなかったビデオデッキを引っ張り出し、無事動くことを確認したあと、「Fire and Ice」を見たのですが……。たしかにスキーシーンは素晴らしく、それだけで楽しめるのですが、肝心のラブストーリーはほぼないに等しく(!?)、あくまでビジュアルとミュージックを楽しむという内容でした(笑) スキー映画といえば、日本では1987年に公開された「私をスキーに連れてって」が一世を風靡しましたが、正直なところ、ストーリーも含めて楽しめるのは、断然「私を……」のほうですね!
それでも、「Fire and Ice」が、当時若者だった多くのドイツの人々の心に生き続けているのは事実ですし、「Fire and Ice」に熱狂した人にとってID.3 GTX FIRE+ICEは、当時の思い出とともに大切にしたい一台なのかもしれませんね!
(Text by Satoshi Ubukata)