ポルシェに乗ってみたい。できれば911が良い。そう思う人は少なくないでしょう。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回は「Panamera GTS」の試乗記……の前に、このクルマの魅力について語ります。
しかし、いざ購入を検討しはじめると、多くの人は現実に引き戻されます。
家族を乗せる機会がある。休日には旅行にも出掛ける。ゴルフバッグも積みたい。仕事でも使いたい。そもそも奥様を説得する自信がない(ここ重要ww)。こうした"諸般の事情"を並べていくと、2枚ドアの911は候補から外れ、今やクルマの主流となったSUVのMacanかCayenneに目が向くことになり……。
MacanやCayenneも良いクルマです。高い実用性を備えながら、走らせればしっかりポルシェです。乗り降りは楽で荷物も積める。家族から不満が出ることもない。「ポルシェに乗りたい」という“夢”と、“厳しい現実”を上手い具合に折り合わせた、最良のモデルと言えるかも知れません。

2代目Macanはフル電動化された。

7月24日〜26日に東京ビッグサイトで開催されるABB FIAフォーミュラE世界選手権「2026 TDK Tokyo E-Prix」において、日本で初めて一般公開される新型「Cayenne Electric」。
実際にポルシェのSUVはよく売れています。2025年の世界販売では、Macanが8万4328台、Cayenneが8万886台と、両モデルだけでポルシェ全体の販売台数のざっくり6割を占めています。今やSUVはポルシェという会社の経営基盤そのものと言える存在です。
2002年にCayenneが登場した当時、「スポーツカーメーカーがSUVを作るのか」と批判の声が上がりました。しかしその挑戦は会社に安定した収益をもたらし、その後のMacanとともに現在の強固な経営基盤を築き上げます(最近になり例の“EV問題”でいろいろ大変みたいですが、それはまた別の機会に)。

2002年にCayenneがデビューしたとき、批判的な意見があったことも事実。しかし実際は……。
経営という観点から見れば、SUV路線は大成功でした。
会社は儲かり、顧客は大満足。普通に考えれば、ポルシェはこの2車種をさらに磨き続ければ良かったはずです。「売れるカテゴリーへ経営資源を集中させる」。それが企業としてはもっとも合理的な選択です。
ところがポルシェは、そうしませんでした。
Cayenneの発売から7年後の2009年、新たな4枚ドアモデルを世に送り出します。
それが今回試乗した「Panamera」です。

2009年にデビューしたPanamera。
すでにCayenneがある。しかも「ガッツリ」売れている。“4枚ドアのポルシェ”という役割は、十分に果たされています。それなのになぜポルシェは不人気のセダンに手を出したのでしょう。と、自分で言っておきながらアレですが、この問い立て自体が少し間違っているのかもしれません。ポルシェは決して“高級セダン”の市場へ参入したかった訳ではないからです。
メルセデス・ベンツSクラスやBMW 7シリーズのように、“後席の快適性”を最優先したクルマを作ろうとしたのでもありません。スポーツカーの着座位置や操縦感覚を保ったまま、ドアを4枚に増やし、後席と荷室を与えたクルマ。Panameraの主役は、あくまでステアリングを握る人です。

Panameraの主役は、あくまでステアリングを握る人。
CayenneはSUVという器に、ポルシェらしい走りを持ち込みました。一方のPanameraは、スポーツカーの走りを出発点にして、そこへ実用性を加えています。
外から眺めれば、どちらも家族で使える4枚ドアです。しかし運転席に座ると、両車の成り立ちの違いはハッキリ分かります。視線は低く、身体は包み込まれるように車体の“奥深く”へ収まります。長いボンネットの向こうに道が延び、路面との距離が一気に近づくのです。

スポーツカーの走りを出発点にして、そこに実用性を加えたのが「Panamera」というモデル。
SUVの高い視点は、周囲を見渡す安心感があります。対してPanameraの低い視点は、路面やクルマの動きを近く感じさせる。これは優劣の話ではなく、「クルマに何を求めるか」の違いでしょう。
実用第一ならMacanやCayenneを選ぶのが自然でしょう。一方で必要なのは4枚ドアと荷室であり、車高の高さは不要という人もいる。
家族を乗せたい。旅行の荷物も積みたい。それでも低い運転席に身を沈め、クルマを操る歓びは手放したくない。そんな欲張りな人のためにPanameraは存在するのです。
では主たる顧客は「911を欲しいと思いながら、“諸般の事情”に押し切られた人」なのか?
否。“敢えて”Panameraを選ぶ人は、目的地だけでなく、そこへ向かう時間にも価値を見出す人ではありますまいか。

家族を乗せたい。旅行の荷物も積みたい。それでも低い運転席に身を沈め、クルマを操る歓びは手放したくない。そんな欲張りな人のためにPanameraは存在するのです。
まったく当たり前の話ですが、ゴルフ場へ着けばゴルフがはじまります。
温泉宿へ着けば、風呂と食事が待っています。しかしクルマ好きにとっては、“そこへ至る道中”も楽しみの大きな一部です。山道でステアリングを切る時間。高速を淡々と走る時間。
Panameraは、そうした移動の時間を単なる空白にしないのです。
もちろんMacanやCayenneは背の高さを意識させないほど巧みに仕立てられています。
それでもPanameraには背の低いクルマにしか出せない身のこなしがあります。
当たり前です。車高が低く重心が低いのですから。どんなにポルシェが偉くても、物理法則には抗えません。
ステアリングを切ったとき、車体が大きく傾いてから向きを変えるのではなく、4つのタイヤが路面を捉えたまま、全体がすっと旋回へ入っていく。ブレーキを踏んでも前のめりになりにくく、加速しても姿勢が乱れない。速いか遅いかではない。操作に対する反応が素直なのです。

SUVが主流となった現在でも、背の低い4枚ドアを必要とする人は確実に存在します。
ドライバーの意思とクルマの動きの間に、余計な「間」がない。
これこそが、SUVではなくPanameraを選ぶ理由なのでしょう。
ポルシェはSUVの成功によって、多くの顧客が求める利便性に応えました。ですが、それだけでは満足できない人がいることも十分に理解していた。
Panameraの2025年の世界販売台数は2万7701台。MacanやCayenneには及びませんが、大型で高価な4ドアGTが年間3万台近くも売れている。決して小さな数字ではありますまい。
SUVが主流となった現在でも、背の低い4枚ドアを必要とする人は確実に存在するのです。
今回の試乗車は、そのPanameraの思想を、さらに運転する側へ振り切った「Panamera GTS」です。なぜ最上級のTurboではなく、GTSを選んだのか。

「Panamera GTS」の試乗記は、次回じっくりお伝えします。
その話は、次回じっくりお伝えしようと思います。
(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi & Toru Matsumura & Porsche AG)


