憧れの空冷ポルシェ購入を目指し、識者の見解を伺い回っている訳ですが、調べれば調べるほど怖い話しか聞こえてこない。正直、かなり腰が引けています。
今までは「乗る側」ばかりにお話を伺って来ましたが、それでは「売る側」の意見はどうか。宮崎県の名店。スーパーカー乗りの聖地。F.PAZUの福島茂樹さんインタビュー続編です。
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前号では旧来の空冷乗りなら当たり前に行っていた「タペット調整」のお話まで伺いました。
福島(以下、福):先にお話した通り、ポルシェは964から販売台数が世界的にドカッと増加した。それは日本でも同じことです。前モデルの930までは、純粋に走りを楽しむ所謂「マニア」の人が乗っていたのですが、964からはそうではない。ポルシェがカッコ良いから、オシャレだから乗ってみるか…そんな乗り手が増えたんです。そのような人は日常のメンテナンスもお座なりです。当然トラブルは多くなる。で、ポルシェは壊れる、故障する、と。
964のタペット調整。これは本来20,000キロに一回はやっておきたい基本的なメンテナンスです。でもほとんどの人がやってこなかった。当然調子は悪くなりますよね。
フェル(以下、F):最後の空冷である993はどうですか。あれもタペット調整は必要ですか?
福:993はその必要がないんです。もちろんクリアランスの調整は必要ですよ。でも993はそれを自動で行う機能が付いている。「ラッシュアジャスター」というのですが、オイルの圧力で自動的にタペットクリアランスを調整するものです。20,000キロに一回エンジンを開けての結構な作業がなくなったのですから、この機能は革命的です。ポルシェは993からメンテが一気に楽になったんです。
F:つまり、空冷を買うなら少しでも新しい方が良いと。
福:一概にそうとは言えません。新しくなればなるほど、電子制御の部分が増えてくる。部品点数も増えてくる。パーツが増えれば増えるほど、イコールで故障が発生する可能性が増えるということです。“新しい方”と言ったって、最新の空冷は993のファイナルで1998年。四半世紀以上の前のクルマです。当然「経年劣化」が発生する。特に電子部品なんかは置いておくだけでも悪くなる。
だから部品点数の少ない930の方が逆に壊れにくい、なんてことも事実としてあるんです。もちろんキチンと定期的にメンテナンスをしているという前提の話ですが。
F:並行車ってどうですか?空冷は三輪自動車ではない並行モノも多いですよね。
福:うーん。あまり気にする必要はありませんよね。特に964くらいならほとんど関係ない。それよりもキチンと整備されているかどうかのほうが重要です。
え?走行距離ですか?距離に拘る人は多いですよね。確かに中古車市場では走行距離が少ないほうが高く評価されますが、ハッキリ言ってポルシェに関しては意味がありません。放ったらかしの低走行車より、定期的にメンテされた多走行車です。私はそう思います。
F:そうなるとやはり整備記録簿の有無が重要になりますね。
福:整備簿も「あったらあったほうが良い」程度と思ってください。それよりも実車です。大切なのは現物。書類よりもモノをよく見るほうが何倍も大切です。モノを見れば良し悪しが分かります。
僕は九州の外へはクルマを売りたくないんです。自分の手の届く範囲でクルマを扱いたい。売った後もずっと自分でメンテをさせてもらいたい。東京や大阪のお客様からお声がけをいただくこともあるのですが、基本的にはお断りしています。
「クルマ選びは店選び」とはよく言ったものです。
福島さんありがとうございました。大変勉強になりました!
(Text/photo by Ferdinand Yamaguchi)