画像1: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

前回はID.4のインプレッションと後輪駆動という駆動方式にフォーカスしてみました。結論を急げば、最大トルクが300Nm以上ある駆動モーターを搭載すると、前輪駆動だとホイールスピンが大きくなりすぎてトラクションコントロールなしに操縦性は成立させにくく、後輪駆動により良いバランスがあることが明らかになりました。

【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Volkswagen Tech Day:ID.4をテストコースで試してみました
https://8speed.net/vw/17647241

画像2: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

ID.4もA4 e-tronも後輪駆動ゆえの雑味のないすっきりとしたステアリングフィールと、前輪駆動よりもはるかに大きな駆動トルク許容量を持っていました。かつて室内のスペース効率の優位性でFFが合理的なレイアウトとされていましたが、EVでは駆動トルクの許容量の点で後輪駆動が合理的だということが明らかになったのです。

先日、中国のEVメーカーBYDのスポーティセダン「SEAL」に試乗してきたのですが、このクルマもベースモデルは後輪駆動でした。

BYDは中国のEVメーカーですが、SEALの後輪駆動モデルは、すっきりした雑味のないステアリングフィールを、後輪がクルマを前に押し出す後輪駆動ならではのドライブフィールをちゃんと作り出していたのです。

このクルマに試乗して、もはやEVに関しては、欧州メーカーだから優れていて、中国メーカーだから劣っているとは言えなくなったと強く感じたのでした。

他方、容易にパワー(トルク)アップが可能なのもEVの特徴です。前後輪に強力なモーターを取り付けてしまえば、比較的イージーにハイパフォーマンスモデルを作ることができるからです。

ただし、4WD化によって安易にドライビングプレジャーを高めることができるのかというと、必ずしもそうとも言えないのです。

画像3: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

例えばQ8 e-tronの前身であり、アウディ初の量産EVとなったアウディe-tronを今の視線で評価すると、ただ強力なパワー(トルク)を出しているだけで「速いけれどただそれだけのクルマ」でした。もちろん、当時はハイパフォーマンスなEVであるだけで魅力があったわけですが、アウディはQ8e-tronへの変更でいち早くアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りに取り組んでいたのです。

Q8 e-tronは実質的にはマイナーチェンジなのですが、実はサスペンションの味付け躍動制御を徹底的に見直しているのです。

画像4: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

試乗してまず感じたのは、トルセンAを使ったクワトロの頃の乗り味に味付けしているのです。これは4輪の駆動力制御を“意図的に行っている”ということなのです。

4WDの安定性は、4WDならどれでも一緒というわけではなく、前後輪の回転制御が大きく関わっています。物理的に駆動力が前後でつながったメカニカル4WDは、センターデフの差動制限を強くしていくと4WDは安定性が強くなり、同時にアンダーステア傾向が強まっていきます。逆に差動制限を弱めていくと安定性が薄れる代わりに曲がりやすくなります。

画像5: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

オンロードでスリンプしない高μ路であればどんな味付けでも問題なく走ることができますが、雪道や凍結路だと前者は安定性が落ち着きになり、後者は不安定さが強まる傾向になります。特に路面のグリップが一様でない場合は、グリップの低い路面に接地しているタイヤがスリップしようとするので、まっすぐ走りにくくなってしまうのです。

前後の駆動輪が物理的につながっていないモーター4WDはこれが顕著になります。

画像6: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

アウディは長く4WDを作り続けてきたことで得た4WDの駆動に関する深い知見を持っています。その結果、いち早くモーター4WDが抱える駆動制御の難しさに気いたのだろうと思います。さらに、アウディe-tronではあまり手を入れていなかった4輪駆動制御をQ8 e-tronへモデルチェンジ(実質的なマイナーチェンジ)を機に4輪の駆動力制御…特に前後輪の駆動力(車輪速?)制御に取り組んだことにより、アウディらしい乗り味を作り出しているのだろうと思います。

実際アウディの開発エンジニアはトルセンLSDの頃の走りをイメージして制御をしているということでした。

モーターによる4輪駆動力制御の大切さと難しさは、ある国産4WDの開発エンジニアに話をお聞きして、それまでのモーター駆動4WDで感じていた違和感がスッと飲み込めたような気分になったのです。しかしアウディでは、さらに緻密に前後輪の制御を行うことで、4WDのドライブテイストまで作りだしていたのでした。これには驚きました。モーター駆動の4WDの制御で安定性や俊敏性を作り出せるところまではいっているメーカーもありますが、ここまでドライブテイストを作り出せるとは思ってもみなかったからです。

画像7: 【斎藤聡の「一緒に走ろう」】Audi Q8 e-tronとアウディらしい「4WD=クワトロ」の走りの関係とは?

アウディのエンジニアに関しては、これまで歴代のクワトロモデルに乗るにつけ、そのシステムに可関係なくトルセンA、あるいはトルセンCセンターデフのクワトロの操縦性を規範にして味付けしていると感じられることが多くあったのですが、EVにおいてもそれを可能にするだけの4WDに関する制御に関する知見を持っていたのです。それを実感して、今後出てくる「アウディのEVと4WDの組み合わせ」がちょっと楽しみになってきました。

(Photo & Text by Satoshi Saito)

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