ID.4が登場したとき、後輪駆動であることにびっくりしました。確かにVWの歴史を紐解けば、Type1やType2は後輪駆動でした。けれどもGolfからこっち、フォルスワーゲンはFF車を作り続けてきたのです。それがなぜRRに先祖返りしたのでしょう。
今回ID.4をテストコースでじっくり試乗することができたので、そんなID.4の疑問を実際に走って試してみようと思います。
ブレーキテスト
ID.4はブレーキペダルを踏んでも0.3Gまではリヤの回生ブレーキによって制動がかかり、前ディスクブレーキや後ドラムブレーキは使っていないんだそうです。実際に50㎞/hからの減速で試してみても、信号のために減速する程度だと回生ブレーキで減速できてしまうのです。減速の様子もリヤブレーキを利かせたクルマ独特の減速感があります。感覚的にはアウディR8でブレーキをかけたときのような印象があります。
セレクターはDとBが選べ、Dはアクセルを戻しただけでブレーキを踏まないとコースティングモードになっており、抵抗感なくタイヤが転がっていきます。
Bはアクセルオフで回生ブレーキが利くモード。基本的には下り坂で使うモードです。
低ミューブレーキ路
ここではブレーキではなく、0.3ミュー路面でのパイロンスラロームを試しました。ここで実感できたのは、フロントタイヤのグリップの良さとリヤのトラクションの強さです。
当たり前の話ですが、ID.4はRRとはいえバッテリーを搭載している関係で前後重量配分はほぼ50対50。滑りやすい路面でスラロームしてみると、前輪に適度に荷重が乗っているうえに駆動負担がないので、ハンドルの利きが良い。しかもアクセルを開けると、スッと素早く荷重がリヤに乗ってトラクションがかかってくれます。
もちろんアクセルを踏みすぎればリヤタイヤは滑ってしまいますが、FF車のようにだらしなくタイヤが滑り出したりしないし、滑り出してもモーターとESCの相性の良さから、素早く駆動制御が効いてクルマの姿勢の乱れを収めてくれます。特にESCの制御の応答の良さ、制御のち密感はEVならではのものです。
もう一つ感心したのは、曲がりたくてハンドルを切りアクセルを踏んでいると、ちょっとお尻を滑らせながら曲がってくれるところ。
ドライバーがハンドルを切ってアクセルを踏んでいるときは、曲がりたいというドライバーの意図を汲んで、駆動トルク制御やESCを駆使してクルマを曲げる方向に制御してくれること。滑りを止め減速だけに注力してしまうとクルマが曲がりにくくなってしまう、ということを考慮したセッティングになっているのも好ましいところです。
ハンドリング路(ドライ路面)
ハンドリング路での注目ポイントは、2t超の重量級ボディ、しかもSUVがどんなふうに走るのか、あるいは走らせることができるのか、という点です。
結論から言ってしまえばほぼ違和感なく、普通に操縦性のいいクルマとして運転することができました。バッテリーをホイールベース内の床下に搭載しているため重心が低く、SUVの腰高間を感じるどころか、重心の低くコーナリング中びっくりするくらい安定している。前後重量バランスが良いことも手伝って、旋回中は腰を落としたようにドシッとした安定感があります。また、コーナーからの立ち上がりでアクセルを踏み込んでいくと、ググッとリヤに荷重を乗せてしっかりとリヤのトラクションを利かせて加速します。
基本的には弱アンダーの安定した操縦性で、車速が増すと徐々に旋回軌跡が大きくなっていきます。その際、ハンドルの手応えがしっかりしているのも安心感を高めてくれます。
コーナー立ち上がりで、アクセルを深く踏み込んだ場合は、一瞬リヤが滑る(テールアウトする)動きを見せますが、すぐさまESCが働いで駆動トルクを制御してくれます。たぶんブレーキ制御を行っているはずですが、過度な減速せず、軽微なリヤスライドを伴いながら、あたかも限界コーナリングをしているように曲がってくれました。
気になったのは、直進状態からカーブに入るとき、つまりターンイン初期にクルマの重量感が強めに感じられたこと。それから強いブレーキング時にクルマの慣性重量を感じること。ありていに言ってしまえば、走りが良いのでつい忘れがちですが、車重は重量級なので止まりにくいということです。この点は注意が必要だと思います。
スキッドパッド
RRの面白さとそれを実現している制御の緻密さはスキッドパッドで確認できました。
このコースは半径50mのスキッドパッドの外周部に、車線幅約1車線(約3.5m)、路面μ0.3のタイルが敷かれています。
ESCはカットできず、トラクションコントロールのみオフできます。まずはすべてonにして走行してみました。
印象的なのは、前後のグリップバランスが良く、4輪のグリップ限界が現れる直前までフロントの舵が利いてくれることです。
徐々にアクセルを開けていくとリヤタイヤがツツッと滑り出す兆候を見せますが、その直後にESCが介入して過大な駆動トルクを抑え、旋回を維持してくれます。
制御の介入の大きさはハンドルの舵角に大きく影響します。ハンドルをこじると減速してしまうので、なるべく必要以上にハンドルを切らないのが正解。なるべく大きくハンドルで切ったり戻したりしないようにするとスムーズに走ることができます。
トラクションコントロールをオフにすると、舵角をゼロにするとスリップ率20%くらい(感覚)まで滑りを許容する感じ。ただ滑りすぎると制御が働いてタイヤの空転を抑えてしまいます。握りこぶし1個分くらいハンドルを切ってアクセルを徐々に踏み込んでいくと、軽くリヤが滑ってくれます。
自由自在に操れるほどの滑りを許容していないのが個人的には不満なところですが、市販車でありファミリーカーであることを考えれば、タイヤが滑ることにあまり慣れていないドライバーにとってはこちらの方が安心感が高いと思います。パニックを起こしたり破綻をきたすということもなさそうです。
だいぶ以前からフォルクスワーゲン車はGolf Rを除き、Golf GTIでもESCの完全オフにならない。これは大衆車を作りメーカーにとって決して悪いことではないと思うのだが、後輪駆動が主力プラットフォームになるのであれば、ESCオフ、あるいはTiguanで採用していたスリップ率を50%程度まで許容といった制御あってもいいのではないかと思います。
まとめ
GKNのテストコースではこんな具合にたくさんのカリキュラムを体験することができました。で、冒頭に書いた「なんでRRなの?」という疑問についてですが、モーターはその特性上、発進時に最大トルクを発揮します。一方タイヤはあるレベルまでは、荷重がかかるほどグリップが高くなっていきます。加速しようとしたとき駆動輪の荷重が少なくなるFFよりも、荷重が増す後輪駆動のほうが理にかなっているのが分かります。しかもリヤエンジンだと加速時のリヤの沈み込みでタイヤのグリップが増してくれるため、タイヤのグリップ力を余すことなく路面に伝えることができるわけです。
後輪がグリップを失うと、真っ直ぐ走らないという操縦性の難しさもあるのですが、モーターはESCが文字通り瞬時に反応するので、姿勢を乱す前に車を安定させてくれます。
理屈ではわかっていたことですが、実写に試乗して改めてそれを体験すると、EVの面白さやポテンシャルの高さに改めて感心させられます。
個人的にはすべてのクルマがEVになることには賛同できませんが、数あるパワーユニットの中の一つとして選ぶことができるのは楽しいことだと感じました。
今回の動画
●Volkswagen ID.をテストコースで試してみた「Volkswagen ID.4 tried out on the GKN test track.」
https://www.youtube.com/watch?v=wjfKcMS1GrU
(Photo & Text by Satoshi Saito)