フルモデルチェンジにより、精悍なデザインを手に入れた新型「ティグアン」に試乗。まずは"テクノロジーパッケージ"を装着した「ティグアンTSIハイライン」を試す。
※2017年1月の記事を再構成して掲載しました。
2007年のフランクフルトショーで登場したティグアンは、ドイツのSUVマーケットで9年連続のナンバーワンとなるとともに、日本でも輸入コンパクトSUV市場をリードする存在として重要な役割を果たしてきた。これまでに280万台以上が世界で販売され、日本でも約1万5000台がお客さまのもとに届けられている。
その人気モデルがフルモデルチェンジして2代目へと生まれ変わり、日本でも発売になったことは、ニュースでお伝えしたとおりだ。新型は、ゴルフ7やパサート、ゴルフ トゥーラン同様、フォルクスワーゲングループのモジュールコンセプト「MQB」を用いて開発されたモデルである。
新型ティグアンの概要については前述のニュースをご覧いただくとして、今回試乗したのは先進装備を充実させた「TSIハイライン」。さらに試乗車には、ダイナミックライトアシスト、ヘッドアップディスプレイ、パワーテールゲート、アダプティブシャシーコントロール"DCC"がセットになった「テクノロジーパッケージ」と、「レザー&パノラマルーフパッケージ」が装着されている。
さて、2015年の東京モーターショーでジャパン プレミアを果たしたティグアンだが、鮮やかな"カリビアンブルーメタリック"をまとった試乗車をあらためて眺めると、初代とは打って変わり、ロー&ワイド化したプロポーション、シャープなラインで構成されるボディパネル、水平基調のフロントグリルと薄いヘッドライトなどにより、実にシャープで精悍な印象に仕上がっていた。
ティグアンというモデル名とコンパクトSUVであること以外は、すべて新しくなったといってもいいほどだ。旧型に比べて全長が70mm、全幅が30mm拡大されたボディが、数字以上に大きく見える。
インテリアも水平基調の直線的なデザインを採用する新型ティグアンだが、そのせいもあって横方向にゆとりが感じられる。それでいて、センタークラスターがドライバーに向けられた、いわゆる"ドライバーオリエンテッド"なコックピットのおかげで、ナビゲーションのモニターが見やすいだけでなく、タイト過ぎず、ユルすぎずという居心地の良い空間に仕上げられているのがうれしい。
このティグアンTSIハイラインでは、液晶メーターの「アクティブインフォ ディスプレイ」が標準装着となる。すでにパサートに搭載されるこのメーター、使ってみると案外見やすいし、表示できる情報が多彩というメリットはあるけれど、アナログという選択肢を残しておいてもよかったのではないだろうか。
全長が70mm大きくなり、そのぶんがホイールベースの拡大に充てられただけに、リヤシートの余裕はたっぷり。旧型同様、リヤシートにはシートスライドとリクライニング機能が備わり、シートを後ろに下げればゆったり足が組めるほど広い。反対に、一番前でも大人がなんとか座れるスペースが確保されている。
フロントシートの裏には、リヤの乗員用に格納式のテーブルが用意される。新型ではドリンクホルダーを内蔵。また、テーブルを斜めの角度で固定できるので、タブレット端末などを置くのに便利だ。
エアコンはリヤの温度調整が可能な3ゾーンタイプ。TSIハイラインではフロントシートに加えてリヤシートにもシートヒーターが備わる。12V電源ソケットはフロント、リヤ、ラゲッジルームに用意。リヤ用のUSB端子は充電だけでなく、"MEDIA-IN"としてスマートフォンの接続にも対応する。
ラゲッジスペースは、リヤシートを後ろに下げた状態でも、奥行きが80cm以上確保されている。荷物が多いときにはリヤシートを最大18cmスライドすることが可能で、その状態での容量は615L。これは旧型に比べて145Lも広い。
"モビリティタイヤ"を採用するTSIハイラインにはスペアタイヤもパンク補修キットも車載されないので、ラゲッジフロア下も収納スペースとして活用が可能だ。地上から開口部までの高さは70cm弱とSUVとしては低いため、荷物の積み降ろしも楽になった。
もちろん、リヤシートを倒せば荷室を拡大することが可能。その場合、奥行きは140cm以上になる。さらに助手席を倒せば250cmほどの長尺物を収めることができる。
リヤシートはラゲッジルーム内のレバーでロックを解除することができるので、操作は簡単。ラゲッジルーム内のAC100Vのソケットは全車に標準装着となる。
このように、細部にわたって機能性が向上した新型ティグアン。さらに、「Volkswagenオールインセーフティ」に則り、プリクラッシュブレーキシステム"Front Assist"やポストコリジョンブレーキシステム、アダプティブクルーズコントロール"ACC"などを標準装着。TSIハイラインでは、レーンキープアシストシステム"Lane Assist"や渋滞時追従支援システム"Traffic Assist"も搭載され、その商品力を高めたのは確かだ。
そうなると気になるのが新型ティグアンの走りということになる。さっそく、ゆったりとしたレザーシートに陣取ると、エクステリア同様、インテリアの変貌ぶりに驚く。初代ティグアンのコックピットは、「ゴルフプラス」に似た丸いエアベントが上下に2つ並ぶデザインが特徴だったが、新型は直線的なデザインに一新されている。一見、ゴルフ トゥーランに似ているが、よく見るとティグアン独自のデザインとなっており、よりシャープでスポーティな仕上がりになっている。
運転席からの眺めは、ゴルフよりも少し高めのアイポイントのおかげで開放的で、見通しも抜群。それでいてシートポジションは高すぎず、乗用車の感覚が失われていないのが絶妙である。その存在感のあるデザインとともに、SUVを選ぶ理由のひとつがここにある。
さて、新型ティグアンには「TSIコンフォートライン」、「TSIハイライン」「TSI R-Line」の3グレードが設定されるが、いずれもパワートレインは150psの1.4 TSIと6速DSGの組み合わせで、駆動方式はFFである。つまり、どのグレードを選んでも、基本的には同じ加速が味わえることになる。
組み合わされるトランスミッションは異なるものの、すでにパサートやゴルフ トゥーランで実績がある1.4 TSIは、車両重量が近いこのティグアンのFFでも十分なパフォーマンスを見せてくれるだろう......。事実、新型ティグアンはそんな期待を裏切らないクルマだった。
従来の"ツインチャージャー"、すなわち、ターボ+スーパーチャージャーから、ターボのみの過給に変更となった1.4 TSIだが、出足がもたつくことはなく、スムーズな動き出しを見せる。低い回転でもアクセルペダルに載せた右足の動きに素早く反応。まるで2Lオーバーの自然吸気エンジンを扱っているような感覚である。
常用する2000rpmあたりの回転域ではさらに活発になり、1.6トン弱のティグアンをストレスなく走らせるには十分なトルクだ。一方、アクセルペダルの踏み込みが浅くなると、メーターに「ECO」のマークが表示される。これは、4気筒のうちの2気筒を休止する"2シリンダーモード"に切り替わったことを示すもので、これにより瞬間燃費の数字が跳ね上がり、より少ない燃料で走行していることがわかる。
6速100km/hの回転数は2000rpmとやや高めだが、高速道路を流れにまかせて走っても、JC08モード燃費の16.3km/Lを上回るのは2シリンダーモードのおかげ。試しに左車線を控えめに走ってみたら、19km/Lオーバーの燃費をマークした。
もちろん、アクセルペダルを強く踏み込めば5000rpm代の後半まで素早い加速を見せるから、追い越しや本線への合流などの際に躊躇する必要はない。
オプションのDCCが装着される試乗車は、ピッチングやロールをうまく抑え込みながら、硬さを感じさせないしなやかな乗り心地を示す。おおむね快適だが、235/55R18サイズのタイヤとホイールの重さからか、道路の継ぎ目などを通過したときに、ショックを遮断しきれないのが惜しいところだ。
コーナーでは、SUVであることを忘れさせるほど軽い身のこなし。ボディの剛性感も十分に高く、安心してステアリングを握ることができた。旧型ではボディサイズのわりに小回りが効かなかったが、新型ではそれが気にならなくなったのもうれしい点だ。
ところで、試乗車にはオプションのダイナミックライトアシストが装着されていたが、夜のドライブをより安全・快適にしてくれるものだった。先行車や対向車の存在を確認し、自動的にロービームとハイビームを切り替える機能をさらに一歩進め、ハイビームの照射エリアを細かく調整することで、まわりのクルマに迷惑をかけることなく、広い範囲を明るく照らしてくれるというライティング技術だ。
アウディの"マトリクスLEDヘッドライト"に比べると反応速度や照射エリアのきめ細かさでは及ばないものの、それでも実用性は高く、とくに夜間に照明の少ない高速道路を移動するにはとても重宝した。
ダイナミックライトアシストは単体のオプションとしては用意されず、ヘッドアップディスプレイ、パワーテールゲート、DCCとあわせたテクノロジーパッケージとして提供されるが、もしも予算に余裕があれば、これは選んでおいて損のないオプションである。
それはさておき、新型ティグアンはSUVとしての運転のしやすさや機能性を維持しながら、先代以上にゴルフに近い運転感覚を実現するモデルに進化。しかも、最新のMQBモデルの例に漏れず、そつのない仕上がりの新型ティグアンは、安心してお勧めできるクルマとなっている。
現時点では4WDは用意されていないが、オンロードがほとんど、あるいは非降雪地区に住むという人なら、この1.4 TSIを積むFFモデルでもその魅力を十分に楽しむことができるはずだ。
気軽につきあえるSUVとして、新型ティグアンは幅広いユーザーに支持されるに違いない。
(Text by Satoshi Ubukata)