110721bs002.jpgフォルクスワーゲンの魅力はたくさんあります。とくに、他の輸入車よりも身近に感じることや、それが信頼や安心につながっていることがいちばんの特徴ではないでしょうか。


フォルクスワーゲンが身近に感じる理由。そのひとつが車名だと思います。ルポ、ポロ、ゴルフ、ジェッタ、シロッコ、パサート・・・。フォルクスワーゲン車にはすべて名前が付けられていて、それぞれにはきちんとした由来があります。ユーザーの方々はもちろん、販売店の方々の会話を聞いていると「うちのポロは...」とか「綺麗な色のゴルフだね...」とか、無意識のうちに会話のなかに車名が出てきます。なんでもないことのようですが、これが重要です。
たとえばアウディの場合は「うちのA1が...」とか「綺麗な色のA5だね...」となります。BMWの場合は「うちの120iが...」とか「綺麗な色の318iだね...」。メルセデス・ベンツの場合は「うちのAクラスが...」、「綺麗な色のCクラスだね...」。
いかがですか? ずいぶんイメージが違いますよね。フォルクスワーゲン以外のドイツブランドはみな、アルファベットと数字を組み合わせた記号のような車名です。もちろん、それは決していけないことではありませんし、そのほうがクールでカッコいいと思う方も少なくないでしょう。しかし、フォルクスワーゲンのようなフレンドリーで生活に密着するブランドの場合は、きちんとした車名があるほうがより愛着が生まれるのです。人間関係でもそうですが、相手の名前を呼ぶことでより身近になり、愛情も深まっていくのです。クルマだって同じですよね。

フォルクスワーゲンの名前の由来を振り返ってみましょうか。このサイトでも何度か話題にあがっていると思いますが、おさらいとして。

まずは、フォルクスワーゲンです。これは「国民車」という意味なのですが、なぜ国民車を説明するには、今から80年近くも以前に遡る必要があります。当時ドイツの政権を掌握していたナチス党の党首アドルフ・ヒトラーは、以前から「一部の特権階級の持ち物である自動車を、広く一般の国民にも解放しなければならない」という構想をもっていました。それが世にいう「国民車構想」であり、その結果誕生したクルマがフォルクスワーゲン、つまり日本語で「国民のクルマ」なのです。

110721bs003.jpgこうしてお馴染みの「ビートル」が生まれたのですが、ビートル(かぶと虫)は愛称です。その姿かたちが似ていることや、上流階級の贅沢品であったクルマのなかに国民車として参入したフォルクスワーゲンに対して少し冷やかしの意味も込められていたようです。しかし、その「ビートル」という愛称が今でも日常会話のなかに登場し、老若男女どんな方でも実際のクルマをイメージできるということは素晴らしいことだと思います。

そのほかフォルクスワーゲン車のネーミングは、風に因んだものが多いことも特徴です。ゴルフ、ボーラ、ジェッタ、シロッコ、パサートなどです。ゴルフは、かつてGTIにゴルフボール型のシフトノブを採用したことがあります。そんなこともあってスポーツのゴルフが名前の由来だと思っている方が少なくないようですが、じつはそうではありません。ドイツ語でGolfとは「湾」や「入り江」という意味があります。そう、西ヨーロッパに穏やかな気候を与えてくれるGolfStorm(メキシコ湾流)に由来しているのです。
そのGolfstormにより発生する貿易風がPassat(パサート)で、アドリア海沿岸を吹き抜ける爽やかな風がBora(ボーラ)、サハラ砂漠を吹き荒れる嵐がSirocco(シロッコ)です。Jetta(ジェッタ)はジェット気流の意味で、Vento(ヴェント)はイタリア語で「嵐」を意味しています。このように由来を振り返ってみると、それぞれのモデルのキャラクターをうまく言い表していると思いませんか?

皆さんも、愛車をぜひ名前で呼びましょう。「うちのクルマは...」ではなく「うちのゴルフは...」。どうです? 今まで以上に愛着が湧くはずです。

(Text by S.KIKUTANI)


菊谷 聡(きくたに さとし)
輸入車最大手ディーラー勤務後、CARトップ編集部副編集長を経て現在は自動車専門コンサルティング会社を経営するかたわらエディターおよびライターとして活動。また、自動車を絡めたライフスタイルを中心とした講演、自動車メーカーのセールス研修コンサルタント&インストラクター、企業オーナーのパーソナルコーチとしても活動中。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。伝説のVWバイブル"BREEZE"誌においても、生方編集長の元寄稿をしていた経歴をもつ。

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