「現代のクルマに慣らし運転は必要なのか?」

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回、横浜〜宮崎まで1,340km&15時間を費やし「ポルシェ 911 Turbo S(992.2)の慣らし運転」を行いました。
諸説飛び交うこの命題に対し、高須院長ばりに「YES!」と言い切ったポルシェジャパン広報部長の黒岩真治さん。
クルマが本来持つ性能を完全に引き出すためには、しっかりした慣らし運転が必要です。

ポルシェジャパン広報部長 黒岩真治氏。
慣らし運転の良し悪しで、その後のクルマの運命が決まると言っても過言ではありません。しかもそれは、後になってやり直しの効かない大切な作業。
今号は、その大事な大事な「ポルシェ911 Turbo Sの慣らし運転実践編」であります。
慣らし運転の要諦は「なるべく止まらずに長距離を走り続ける」こと。チョイ乗りを繰り返すのなんて最悪です。その点、今回の慣らしは振るっています。何しろ走行距離は軽く1,300kmを越えてくる。クルマを慈しみ育むのに、これ以上の条件はありますまい。
が、その分人間の身体はキツい。何しろ1,300kmですからね。腰とか肩とかヤバそうです。休憩をたくさん取り、ムリのないペースで、クルマと対話しながら焦らず慌てずノンビリ行きましょう。
横浜で受け取ったときのポルシェ911 Turbo Sのオドメーターが示す数字はわずか194km。新車も新車。お尻に卵の殻を付けた生まれたてのヒヨコのような状態です。ヒヨコにしては、最高出力711PS、最大トルク800Nm、0-100km/h加速2.5秒と、いささか物騒な子ではありますが。

走行距離わずか194kmというポルシェ 911 Turbo S(992.2)のキーを受け取り、いざ1,340km向こうにある宮崎フェル宅を目指します。
早速ナビに宮崎フェル宅を入力します。Googleマップ上の距離は約1,314km。走行時間はおよそ14時間30分。もちろんこれには給油時間も休息時間も含まれていません。実際はプラス1時間くらいになりましょうか。
ポルシェ911 Turbo Sの受け取り場所である横浜を出発したのは13時06分。第三京浜から東名へ入り、新東名、新名神、山陽道、九州道、東九州道へと駆け抜けるルートです。最大の問題は、せっかくの911 Turbo Sなのに『踏めない』こと。
711PSを背負っているのに、それを遺憾なく使うことができない。何しろ今回の目的は『慣らし運転』ですからね。急加速、急ブレーキはもちろんのこと、エンジンの回転数が4,000rpmを超えてもいけません。ちくしょう飛ばしたいなぁ。これはなかなかの修行です。
ところが、踏めないからこそ見えてくる世界もあります。

711PSを使わず、ただ淡々と高速道路を走るだけでも、911 Turbo Sの凄みがヒシヒシと伝わってきます。
まずこの911 Turbo S、実にしなやかです。路面の継ぎ目を越えても、入力は来るものの「角」がない。車体は低く構えているのに荒くない。乗り心地はあきらかに硬いのに痛くない。速さを封印して走っているからこそ、GTとしての出来の良さがジワジワと伝わってきます。
速いクルマはたくさんある。しかし、「強いクルマ」は実はそう多くありません。
ここで言う「強さ」とは、単純なパワーのことではありません。長く走っても、乗っている人間を消耗させない。雨が降っても嵐が来ても(鈴木雅之調)不安にならない。そうした強さが、この911 Turbo Sには備わっています。
いっぽうで、クルマが強くても人間は弱い。静岡を越え、愛知を越え、関西を抜け、中国地方へ入るころには、だんだん現実が顔を出してきます。
遠い!とにかく遠い。走行距離が700kmを越えたあたりで「やっと半分」と思ったときには心が折れかけました。しかも超眠い。ここはカフェインに頼るしかありません。身体に悪いことは百も承知ですが、休憩の度にコーヒーを飲み、挙句は眠眠打破を2本もブチ込んで、自分に喝を入れます。

眠眠打破は効きます。効きすぎて翌日眠れなくなりますww
途中、給油を2回。食事も2回。トイレ休憩は……数えるのをやめました。911 Turbo Sの航続距離より、人間の膀胱の保持時間の方が短いのです。長距離ドライブにおける不変の真理と申せましょう。
それはさておき、西へ西へと走ります。と、山陽道で予定外の事態が発生しました。高速道路の近くで火事が発生し、煙の影響もあって上下線とも通行止め。強制的に一般道へ降ろされることになったのです。国道2号、そして374号へ。
痛い。これは痛い。黒岩部長からは「なるべく止まらずに長距離を」と言われています。淡々と高速道路を走り続け、エンジンにも駆動系にも安定して熱を入れていきたい。それなのに……。強制終了で高速出口は鬼の大渋滞。
すべてのクルマが高速道路を降りることになるわけで、当然下道も大渋滞。トロトロ流れる有様です。時間も高速料金も余計にかかる。好事魔多しとはこのことです。
そして深夜、今度は燃料の問題です。関門橋の手前あたりでガソリンが少々怪しくなってきました。手前のサービスエリアに入り、給油しようとしたところ……。なんとガソリンスタンドが閉まっているではありませんか。表示版にはガソリンスタンドのマークが記されているのに!

911 Turbo S(992.2)のボディサイズは、全長4551×全幅1900×全高1305mm。
サービスエリアですよ。高速道路のオアシスじゃないですか。トイレがあり、食事があり、土産物まである。なのにガソリンスタンドは閉まっている(泣)。
地方SAのガソリンスタンドは、夜8時で閉まるところがあるのです。甘かった。認識不足でした。
ガソリンがなければ、Turbo Sもただの置物です。やむなく大型トラックの後ろに張り付いて、コバンザメ走法で次なるガソリンスタンドを目指します。
ここで私は我が友ChatGPTに「この先、どこで給油できるの?」と聞きました。すると彼は、涼しい調子でこう言い放つのです。

911 Carerraと比較して50mmワイドなリヤフェンダー。
「次のインターで降りてください。24時間営業の給油所がすぐ近くにあります」と。
そうきましたか。また降りるんですか。また余計に高速料金がかかるんですか……。
まあでもガス欠で往生するよりははるかにマシです。泣く泣く高速道路を降り、深夜の一般道へと向かいました。
後で走行データを見返すと、その周辺に「正一位立石稲荷大明神」という、妙にありがたい名前が表示されていました。これも神のお導きでしょうか。ありがたや。

壇ノ浦PAから関門大橋を望む。
こうしてなんとか燃料問題をクリアし、再び高速道路へと戻ります。そして、深夜の東九州道を走り、宮崎を目指します。
東九州道は片側一車線の区間が多く、しかも街灯がほとんどありません。真っ暗です。
ここで強く感じたのが、ポルシェのヘッドライトの優秀さでした。
光量は十分以上にある。真っ暗な東九州道でも、路面の白線、標識、先のカーブの気配まできちんと拾ってくれる。けれど本当に感心したのは、「照らし方の賢さ」です。
対向車が来ると、照射のパターンがスッと変わる。前走車に近づけば、そこだけを避けるように光の当たり方が変わる。こちらは明るい視界を保ったまま、相手を幻惑しない。

ヘッドライトひとつで長距離ドライブの疲れ方がここまで変わるのかと感心したのも良い体験でした。
いまどきのアダプティブヘッドライトと言ってしまえばそれまでですが、これが深夜の一車線道路では実に有効です。暗い道では明るさは安心に直結します。そしてその安心が、疲労を軽減してくれるのです。
道の先を探るために神経をすり減らさなくていい。クルマが必要な場所を必要なだけ照らしてくれる。結果、ドライバーはステアリングに集中できる。ヘッドライトひとつで長距離ドライブの疲れ方がここまで変わるのかと感心した次第です。
もちろん、効いていたのはライトだけではありません。
ステアリングが落ち着いている。余計な修正舵を求めない。車体が低く、路面に吸いつくように安定している。路面のうねりを受けても、ボディがヒョコヒョコしない。硬いのに、雑ではない。あぁ、いいクルマだなぁ。711PSの派手な加速を使わなくても「ポルシェの凄み」はヒシヒシと伝わってきます。

速いからすごいのではない。速さを使わない場面でもなおすごい。慣らし運転の期間だからこそ、 911 Turbo S(992.2)の本質を知ることができましたね。
慣らし運転中でアクセルを踏めないからこそ、シャシーの精度や足まわりの出来、そして夜間走行を支えるヘッドライトの賢さがハッキリ分かります。
速いからすごいのではない。速さを使わない場面でもなおすごい。
これこそが911 Turbo Sの真骨頂でありましょう。

スポーツカーでありながら、長距離高速移動装置としての完成度が異様に高い。これこそが911 Turbo S(992.2)の真骨頂かも。
スポーツカーでありながら、長距離高速移動装置としての完成度が異様に高い。
大きく、重く、柔らかくして快適性を稼いだGTカーではありません。911のサイズと緊張感を保ったまま、疲労だけをきれいに削っていく。
こういうところが恐ろしく良くできている。やっぱりポルシェってすごいです。
午前4時08分、宮崎フェル宅に到着。

宮崎フェル亭に到着時に撮影。午前4時8分。所要時間は15時間03分。そして横浜から宮崎まで1,340.0km。走りましたね……。
出発時のオドメーターは194.0km。到着時は1,534.0km。往路だけで1,340.0kmを走った計算になります……。Googleマップで確認した横浜のボディショップから宮崎フェル宅までの距離は約1,314km。実走ログは1,340km。山陽道の火事による迂回と、深夜の給油のために高速を降りたことで、26kmほど余計に走ったわけです。
最終的な所要時間は15時間03分。平均速度は89.2km/h。なかなかのタイムでしょう。我ながらよく頑張りました。
今回の慣らし運転(往路編)の走行データは以下のとおりです。

今回のログをスクリーンショットしたもの。
●走行距離(ODO / TRIP)
・ODO(出発時):194.0km
・ODO(終了時):1,534.0km
・TRIP:1,340.0km
●日時・時間
・出発日時:2026/04/24 13:06
・終了日時:2026/04/25 4:08
・所要時間:15h 03m
・乗車時間:15h 01m
●速度・高度
・最高速度:120.1 km/h
・平均速度:89.2 km/h
・最高高度:461.4 m
●START
・日時:2026/04/24 13:06
・場所:神奈川県、横浜市
・走行距離:194.0km

今回の横浜から宮崎まで、1,340.0kmの詳細なルートをスクリーンショットしたもの。
●ルート詳細
・13:06 大熊東山田線
・13:14 第三京浜道路
・13:17 首都高速神奈川7号
・13:18 首都高速神奈川7号
・13:22 =====
・13:23 東名高速道路
・14:01 東名高速道路(右ルート)
・14:12 東名高速道路
・14:19 新東名高速道路
・14:54 新安倍川橋
・14:55 新東名高速道路
・15:39 豊岡高架橋
・15:39 新天竜川橋
・15:40 新東名高速道路
・16:23 伊勢湾岸自動車道
・17:10 新名神高速道路
・17:53 名神高速道路
・18:24 高槻JCT
・18:24 新名神高速道路(高槻…
・18:26 新名神高速道路
・18:48 神戸JCT
・18:49 中国自動車道
・18:52 六甲北有料道路
・18:56 中国自動車道
・19:04 神戸JCT
・19:04 山陽自動車道
・20:17 =====
・20:24 国道2号線
・20:51 国道374号線
・20:58 =====
・20:59 山陽自動車道
・23:59 =====
・23:59 中国自動車道
・00:38 関門自動車道
・00:39 正一位立石稲荷大明神…
・00:45 =====
・00:45 関門自動車道
・00:50 九州自動車道
・00:58 東九州自動車道
・01:05 苅田北九州空港IC
・01:06 新北九州空港線
・01:13 苅田北九州空港IC
・01:14 東九州自動車道
・03:52 春田バイパス
・03:56 広瀬バイパス
・03:59 佐土原バイパス
・04:00 一ツ葉有料道路
・04:06 =====
・04:08 一ツ葉有料道路
・04:08 1,339.1km / 1,534.0km
●GOAL
・日時:2026/04/25 4:08
・場所:宮崎県、宮崎市
到着してフェル号ポルシェこと、911 Carrera Tとともにガレージに収まった911 Turbo Sを眺めたときの満足感といったらありません。

宮崎フェル亭のガレージから撮影した911 Turbo S(992.2)。
慣らし中ですから、全開加速はしていません。4,000rpm以上回していません。
それでも分かったことがあります。911 Turbo Sは、ただ速いクルマではない。
速さを封印してなお、クルマとしての密度が高い。
長距離を走らせるほど、その強さが滲み出てくる。そんなクルマです。

宮崎フェル亭の近所で撮影。
次回は、宮崎に到着した911 Turbo Sを、南国の道へ連れ出します。高速道路で感じたしなやかさと強さは、宮崎の一般道でどう表情を変えるのか。お楽しみに!
(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi & Toru Matsumura)



