すべてのはじまりは、2026年4月10日(金)〜12日(日)に、幕張メッセ 国際展示場 5・6ホールで開催された「オートモビル カウンシル 2026」の会場でした。

画像: フェルディナント・ヤマグチでございます。今回なんと「ポルシェ 911 Turbo S(992.2)の慣らし運転」という大役を仰せつかったのです。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回なんと「ポルシェ 911 Turbo S(992.2)の慣らし運転」という大役を仰せつかったのです。

ポルシェジャパンのブースに展示されていたポルシェ 911 Turbo S(992.2)を、口を開けてボンヤリと眺めていたら、同社の広報部長である黒岩真治氏が「お、フェルさん。良いところで会いました!」と声をかけてきたのです。

画像: オートモビル カウンシル 2026会場に展示されたポルシェ 911 Turbo S(992.2)。このときは日本に届いたばかりの状態だったという。

オートモビル カウンシル 2026会場に展示されたポルシェ 911 Turbo S(992.2)。このときは日本に届いたばかりの状態だったという。

さらに「この911 Turbo Sは先日陸揚げされたばかりのパリパリの新車でして、磨きはおろか、まだナンバーすら取れていないものなんです」とおっしゃるではありませんか。

ポルシェに限らず、多くの輸入車は新車整備(PDI)センターから出庫後に「磨き(ボディコーティング)」をかけています。それを済まさずにイベントに展示しているのですから、余程タイトなスケジュールだったのでしょう。

「どうでしょう。もし興味があれば、この911 Turbo Sの『慣らし運転』をしてみませんか?できれば長距離を、なるべく止まらずにイッキに走り抜けて欲しいんです」と、黒岩広報部長が続けます。

「慣らし運転、ですか?」と、思わず私も聞き返してしまいました。昨今は工作機械の加工精度が向上し、さらにはオイルの性能も、電子制御も飛躍的に進化しています。複数の自動車メーカーが「慣らし運転は不要」と明言しています。

画像: 992.2型の911 Torbo Sは、歴代ターボモデルでは初となる、新開発のマイルドハイブリッドシステム「T-ハイブリッド」ドライブトレインを搭載する。

992.2型の911 Torbo Sは、歴代ターボモデルでは初となる、新開発のマイルドハイブリッドシステム「T-ハイブリッド」ドライブトレインを搭載する。

その代表がトヨタで、公式サイトのFAQで「慣らし運転の必要はありません。ごく一般的な安全運転に心がけていただければ、各部品のなじみは自然と出てきます」と説明しています。

さらには「お客様が新しいクルマに慣れるための期間を慣らし運転の期間と考えてください」としており、機械側よりもむしろ「人間側が新しいクルマに慣れる期間」という意味合いを持たせています。

ホンダもまた近い表現で、公式サイトのFAQで「現在のクルマは、エンジンやその他の部品精度が向上しているため、慣らし運転を行う必要はありません」とキッパリ言い切っています。男らしい。ただし、続けて「性能保持や寿命を延ばすため、取扱説明書に記載があれば、その期間、記載がなければ1000kmまでは急激なアクセル操作や急発進をできるだけ避ける」とも表記しています。

「不要」と言いつつも、初期の段階はいたわって乗れ、という姿勢です。どっちやねん。

では、ポルシェはどうか?

今回の話は幕張メッセの立ち話で終わったわけではもちろんありません。

後日、不肖フェルはポルシェジャパンに出向くことになります。

目的はもちろん今回の911 Turbo Sの慣らし運転について事前に話を伺うためです。

ですが、黒岩広報部長が語った内容は、「エンジンは何回転まで回して良い」とか、「何km/hまでなら出して良い」といった、運転上の具体論だけではありませんでした。

画像: ポルシェジャパン広報部長 黒岩真治氏。

ポルシェジャパン広報部長 黒岩真治氏。

話の中心にあったのは、「今なおポルシェは慣らし運転を大切にしている」ということだったのです。ポルシェにとって『慣らし運転』は、昔ながらの儀式でもなければ、『とりあえず』の保険でもない。加工精度が上がろうが、オイルの品質も良くなろうが、実際に走行して機械の各部が馴染むことは、「まったく別次元の話」ということです。

工場を出た時点で「新車」としては完成しています。寸法も組み付けもバシッと管理され、品質も確認されている。そこは現代のポルシェですから、疑う余地はありません。

画像: 「IAAモビリティ2025」において世界初公開された「911 Turbo S」。同じタイミングで「911 Turbo S Cabriolet」もデビューした。

「IAAモビリティ2025」において世界初公開された「911 Turbo S」。同じタイミングで「911 Turbo S Cabriolet」もデビューした。

しかし工業製品として完成していることと、実際に回転し、熱が入り、荷重がかかり、摺動し、制動し、加減速を繰り返すことで“ポルシェ本来の状態”に向かって馴染んでいくのはまた別の問題です。

クルマは何万点もの部品が組み合わさった、大きく、重く、複雑な機械です。911 Turbo Sのような超高性能車となればなおさら、です。強烈なトルクを受ける駆動系、巨大な制動力を生むブレーキ、路面と接するタイヤ、荷重を受け続けるサスペンション。それらすべてが初期状態から実走状態へ移っていく。

画像: 911 Turbo Sは、最高出力523kW(711PS)、最大トルク800Nmを発揮。0-100km/h加速はわずか2.5秒というスペックを誇る。

911 Turbo Sは、最高出力523kW(711PS)、最大トルク800Nmを発揮。0-100km/h加速はわずか2.5秒というスペックを誇る。

その最初の数千kmをどう使うか?

ポルシェが慣らし運転を重視する理由は、まさにそこにあるのです。

下ろしたての新車が刻む最初の1000km、2000km、3000kmは、一度しかありません。

画像: 横浜で911 Turbo Sを受け取った時点のオドメーターの距離はわずか194km。ここから1340km先にある宮崎フェル宅を目指す。

横浜で911 Turbo Sを受け取った時点のオドメーターの距離はわずか194km。ここから1340km先にある宮崎フェル宅を目指す。

後からやり直すことは絶対にできません。エンジンをはじめとするパーツにいかにして熱を入れるか。どのように負荷をかけるか。どのようにブレーキを馴染ませるか。慣らし運転の良し悪しで、その後のクルマの人生(車生とは言いませんよね)が大きく変わってしまう。何より『はじめが肝心』なのです。

だからこそ、今回の話も、単に「頑張って東京から宮崎まで乗ってください」では済まなかったのです。振り返ってみると、黒岩広報部長はオートモビルカウンシルの会場で、「できれば長距離を、なるべく止まらずにイッキに走り抜けて欲しいんです」とおっしゃっていました。

その言葉の意味も、ポルシェジャパンで黒岩広報部長から直接レクチャーを受けたことで、ようやく腑に落ちたのです。

画像: 外観はターボモデル専用の「ターボナイト」仕立てであり、クレストも専用品となる。

外観はターボモデル専用の「ターボナイト」仕立てであり、クレストも専用品となる。

なるべく長距離を走る。

できるだけ止まらずに走る。

冷えた状態から短距離だけ走って、また冷やすような使い方を避ける。

これは単に「距離を稼いでください」という意味ではありません。熱を安定させ、負荷を急激にかけすぎず、機械全体を少しずつ実走状態に馴染ませるための走らせ方、文字どおりの「慣らし運転」なのです。

事実、911の取扱説明書にも、新車時の慣らし運転について明確な記述があります。こちらの画像は今回お借りした911 Turbo Sに搭載されている取扱説明書のなかから、「車両の慣らし運転」の項目を撮影したものです。

画像: 最新モデルである911 Turbo Sの取扱説明書にも、慣らし運転に関する項目がある。

最新モデルである911 Turbo Sの取扱説明書にも、慣らし運転に関する項目がある。

次に、最新の911PA(Carerra/Turboモデル)、911GT3、Macan Electricの3モデルを例に挙げ「ポルシェの慣らし運転」について、取扱説明書の表記を確認してみましょう。

●911PA

◎車両の慣らし運転
新車時は可動部品同士を馴染ませる慣らし運転を行う必要があります。部品は走行距離が3,000kmに達するまでは慣らし運転が必要となります。この期間は、オイル消費量と燃料消費量が通常よりも高くなる可能性があります。

慣らし運転期間は次の点に注意して運転してください。
▶なるべく長距離走行をします。できるだけ冷間始動と近距離運転の繰り返しは避けます。
▶モータースポーツイベント、スポーツドライビングスクールなどのイベントに参加しない。
▶エンジン回転数が4,000rpmを超えないようにしてください。エンジン冷間時は低回転域で運転します。

◎新しいブレーキでの慣らし運転
・新しいブレーキパッドおよびブレーキディスクは慣らしが必要であるため、最適なブレーキ効果が得られるのは数100km走行後になります。
・ブレーキ性能が若干減少している場合、ブレーキペダルを踏むときに普段より大きな力が必要になります。
・ブレーキパッドやブレーキディスクを交換した場合も当てはまります。

◎新しいタイヤの慣らし運転
新品のタイヤを装着してから最初の200kmは、抑制した速度で慣らし運転を行ってください。

※原文ママ

ポルシェは現代の911に対してもなお、「ちゃんと慣らし運転をしてくださいね」と明記しているのです。

興味深いのは、同じ911でも、GT3ともなれば「慣らし運転」の方法が異なってくる点です。

●911PA GT3

◎車両の慣らし運転
新車の場合は可動部品同士をまず馴染ませる慣らし運転を行う必要があります。走行距離が1,500kmに達するまでは慣らし運転が必要となります。オイル消費量と燃料消費量は、この期間においては通常よりも高くなる可能性があります。

インストルメントクラスターに、慣らし運転プログラムの注意に関するメッセージが表示されます。

慣らし運転期間は次の点に注意して運転してください:
▶なるべく長距離走行をします。できるだけ冷間始動と近距離運転の繰り返しは避けてください。
▶モータースポーツイベント、スポーツドライビングスクールなどのイベントに参加しないでください。
▶エンジン回転数が7,000rpmを超えないようにしてください。エンジン冷間時は低回転域で運転してください。

◎新しいブレーキでの慣らし運転
・新しいブレーキパッドおよびブレーキディスクは慣らしが必要であるため、数100km後に最適なブレーキ効果が得られるようになります。
・ブレーキ効果が若干減少している場合、ブレーキペダルを踏むときに普段より力を入れる必要があります。これは、ブレーキパッドやプレーキディスクを交換した場合も当てはまります。

◎新しいタイヤの慣らし運転
・新品のタイヤを装着してから最初の200kmは、抑制した速度で慣らし運転を行ってください。

※原文ママ

さらに、電気自動車である「Macan Electric」の取扱説明書にも「車両の慣らし運転」そして「新しいブレーキおよびタイヤでの慣らし運転」について、きちんと明記されています。

●マカン・エレクトリック

◎車両の慣らし運転
新車時は可動部品同士を馴染ませる慣らし運転を行う必要があります。部品は走行距離が3,000kmに達するまでは慣らし運転が必要となります。この慣らし期間中には、オイルや燃料の消費量が既定量よりも若干多くなります。

慣らし運転期間は次の点に注意して運転してください。
▶なるべく長距離走行をします。
▶モータースポーツイベント、スポーツドライビングスクールなどに参加しない。

◎新しいブレーキでの慣らし運転
・新しいブレーキパッドおよびブレーキディスクは慣らしが必要であるため、最適なブレーキ効果が得られるのは数100km後になります。
・回生ブレーキは、新しいブレーキまたはブレーキディスクで無効になり、車両スリーブ後に再び有効になります。
・ブレーキ性能が若干減少している場合、ブレーキペダルを踏むときに普段より大きな力が必要になります。ブレーキパッドやブレーキディスクを交換した場合も当てはまります。

◎新しいタイヤの慣らし運転
・新品のタイヤを装着してから最初の200kmは、抑制した速度で慣らし運転を行ってください。

※原文ママ

面白いのは、いずれのモデルもただ「ゆっくり走れ」とは表記していないところです。むしろ『できるだけ長距離を走れ』とある。納車後、嬉しさのあまり近所をぐるぐる回り、近くの公園の駐車場で写真を撮り、また家に戻る。気持ちはわかります。人に見せてドヤりたいですしね。

ですがポルシェ的には、少なくとも慣らしという観点からは、近所でドヤるよりも長距離を淡々と走る方が望ましい。

画像: ポルシェの取扱説明書には、エンジンだけでなく、タイヤやブレーキに関する「慣らし」も明記されている。知っておいて損はない知識だ。

ポルシェの取扱説明書には、エンジンだけでなく、タイヤやブレーキに関する「慣らし」も明記されている。知っておいて損はない知識だ。

・・・となれば、東京から宮崎フェル宅までの陸路1340kmは、実はかなり理にかなっています。距離は十分。エンジンはしっかり温まる。油温も安定する。高速道路を中心に、一定の負荷をかけながら淡々と距離を重ねられる。ポルシェのマニュアルに沿った、実地教材のような慣らし運転です。

黒岩広報部長は、先述した911と911GT3、Macan Electricの取扱説明書を例に挙げ、「現代のポルシェが考える慣らし運転とは?」の意義を、忙しい時間の合間を割いて、懇切丁寧に説明してくださったのです。

ここまで聞いて、私の背筋は徐々に伸びてきました。「これはエラいことになった」と、今さらながらに気づいたのです。

何しろ、この911 Turbo Sの今後の人生(車生?)を左右するであろう「慣らし運転」という大切な儀式を、不肖フェルが引き受けることになったのですから。しかし、ここまできたらもう後には引けません。

画像: 車両担当の川辺氏。

車両担当の川辺氏。

それから数日後、無事にナンバーを取得した日本上陸1号車でもある911 Turbo Sは、そのまま横浜のボディショップに直行して一晩かかってじっくりと磨き上げられることとなります。

すべての準備が整ったとの連絡を受け、私も件のボディショップに直行。車両担当である川辺氏からキーを受け取り、いざ宮崎へ。ボディショップから第三京浜までわずか5分。そのまま東名高速に入って西へ西へと向かいます。

ナビに表示されているフェル宮崎宅までの運転予想時間は実に14時間30分。マジか・・・。遠い。

次号では、重要な「慣らし運転」という大役を仰せつかった往路の「14時間30分・陸路1340km」における珍道中をお送りします。

画像: 911 Turbo Sについて。ともかく速い、そして強い!そして意外なことに実にしなやかなクルマという印象を受けた。

911 Turbo Sについて。ともかく速い、そして強い!そして意外なことに実にしなやかなクルマという印象を受けた。

最後に、宮崎までの道中、911 Turbo Sを運転した印象について少し触れておきましょう。

ともかく速い、そして強い!そして意外なことに実にしなやかなクルマであることを、強烈なまでに印象づけられることになるのです。

お楽しみに!

(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi / Porsche AG)

This article is a sponsored article by
''.