みなさまごきげんよう。
フェルディナントでございます。

フェルディナント・ヤマグチでございます。最新のポルシェ一気乗り企画の第3弾は「ポルシェ 911 Carerra GTS Cabriolet」です。
「小さい順にポルシェを片端から乗っていく」企画の第3弾。今回試乗したのは、ポルシェのスポーツカー初のマイルドハイブリッドモデル「ポルシェ 911 Carerra GTS Cabriolet」であります。

ポルシェ 911 Carerra GTS Cabrioletのボディカラーは「スレートグレーネオ」、内装はブラック/ボルドーレッドのツートーンレザーインテリアの組み合わせが洒落てます。
このクルマのリヤには、ポルシェのスポーツカーとして「初のマイルドハイブリッド」を名乗る3.6リッター水平対向6気筒T-Hybridが搭載されています。素のCarerraが守り続ける3.0リッターのツインターボではなく、新開発のシングルターボエンジンです。レスポンスを向上させるため、ターボの同軸上にモーターが仕込まれています。このモーターの制御により過給圧を自在にコントロールできるので、ウエストゲートは付いていません。
…と、ここまではターボの話。いまお話ししたモーターはマイルドハイブリッドの駆動用ではなく、あくまで過給制御用ですので混同されないように。

今や、オーナー(ドライバー)は直接見ることがほぼできなくなってしまった3.6リッター水平対向6気筒ターボ(T-Hybrid)エンジン。
そしてここからがマイルドハイブリッドに関してのお話し。エンジンとトランスミッションのあいだには56psを発生するモーターが組み込まれているのですが、前後にクラッチが付いていません。だからこのクルマはモーターだけのいわゆる「EV走行」ができません。つまりGTSのマイルドハイブリッドシステムは『エコのためのそれではなく、ただただ走りのためだけに組み込まれたマイルドハイブリッド』というわけです。エコハイブリッドではなくエゴハイブリッド、と言ったら言い過ぎでしょうか。
駆動用リチウムイオン電池は1.9kWhと小容量高出力タイプ。従来フロントに積まれていた12Vバッテリーはリヤへ移されています。しかも、補機類はすべて電動化という徹底ぶり。ベルトもプーリーも存在しません。エンジン高は110mm低く抑えられ、空いたスペースにインバーターやコンバーターが置かれています。メーカーの発表によると、マイルドハイブリッドのための重量増は約50kgとのことです。

T-Hybridシステムを搭載したことによる重量増は約50kg増とのこと。
それにしてもポルシェは、反発が予想される911の電動化に、なぜ敢えて踏み切ったのでしょう。理由は単純明快。欧州を中心とした排ガス規制とCO2削減要求です。これが年ごとに厳しさを増している。いくら伝統に支えられた911であっても、内燃一本では未来を保証されません。ポルシェにとって911はブランドの象徴であると同時に販売の柱でもあります。収益の柱を規制から守るために、電動化は不可避だった、というわけです。

わずか12秒で開閉するソフトトップ。しかも50km/h以下であえば走行中でも開閉可能。
さてと。能書はこれくらいにして、早速屋根を開けて夜の街を走りに行きましょう。911Carerra GTS Cabrioletのソフトトップは、センターコンソールのスイッチを押せばわずか12秒で折り畳まれます。この幌は50km/h以下であれば走行中でも開閉できるようになっています。走行中の開閉は、風で煽られて万一破損してしまってはヤバいですし(試乗した夜は結構な強風だったのです)、傍から見ると調子に乗ったバカと思われるのが嫌なので私は試しませんでしたが、勇気ある方は試してみてもいいかもしれません。

試乗ルートは首都高を経由して大黒PAまで。
深夜の首都高速3号線用賀IC。街は眠り、街路灯の光が怪しく路面を照らしています。料金所を通過する刹那、生暖かい夜風が首筋を撫で、路面の震えと吸排気の響きが耳に飛び込んできます。本線との合流でアクセルを強く踏み込むと、電動ターボが間髪入れず息を吹き込み、モーターがアイドル直上から背中を蹴飛ばし、そこへフラット6の本隊が重なります。この3段攻撃が同時に叩きつけられるから、加速のはじまりからして“いきなりMAX”という印象です。うぅ、これはヤバい。
GT3が高回転で伸びを見せるのに対し、911Carerra GTSは低回転から分厚い壁を押し付けてきます。ポルシェ伝統のフラット6に、EV的な無遠慮なトルク感が加勢するのですから堪りません。短い合流、わずかなストレート、すぐに緩いカーブ…首都高のタイトなリズムでこそ、この“ドッカン”の性格は際立つのです。正直、以前試乗した911 GT3(992.1)よりも格段にヤバい。

ついにタコメーターもデジタル表示になった992.2型のポルシェ911。
都心環状線に入ればコーナーが連続します。谷町、神田橋、江戸橋と、カーブと短い直線の繰り返しで試されるのは身のこなしの速さです。ここで効くのが標準装備のリヤアクスルステアリング。ステアを切った瞬間に車体が半拍早く反応し、すっかり大きくなってしまったCarerraの巨体がワンサイズ小さく感じられます。サスペンションはPASMスポーツで10mm低く構え、ロールをわずかに残して踏ん張る印象です。タイトな半径を“突っ張らずに回れる”感覚が実に心地良い。ブレーキは前408mmの6ポットキャリパー、後380mmの4ポットキャリパー。当たり前ですが良く効きます。ペダルを軽く踏んだときから減速度が線形に立ち上がり、深夜の信号や渋滞の波でも乗用車感覚です。

マイルドハイブリッドとなった911のエンジンサウンドをオープンで味わう。これも911 Carerra GTS Cabrioletならではの魅力。
芝浦から湾岸に抜けると景色がパッと開けます。そこで味わえるのは、加速の持続力。このクルマの最大トルクである610Nmは2000rpmに届く前から発生しているので、アクセルの開け閉めに即応して分厚いトルクが発生します。ああ快感。風の巻き込みも最小限。大黒PAまで快適に飛ばします。クルマを停めてコンビニでカフェインを補給して横羽線から再び環状線を経て3号線へ。三軒茶屋で降りて一般道へ入っても、サスペンションは細かな凹凸に素直に追従し、無駄な突き上げがありません。しなやかで力強く本当に良いクルマ。

電動化となった911、虜になること請け合い。食わず嫌いはもったいない。
そろそろ、今回試乗した911Carerra GTS Cabrioletを結論といきましょう。「電動化は911の魂を殺す」、のか? 答えは否。このナチュラルな加速、このヤバさを体感したら、だれもが虜になること請け合いです。口さがない古参の911ファンからは「電動化したら911はオシマイ」「あんなのポルシェじゃない」などという声も聞こえてきますが、911が“隠しターボ化”されたときも同じように言われましたからね。でもみなさん結局は買っている。よくよく考えてみたら、911ってずっとその歴史を繰り返してきて60年以上も生きながらえているわけですし。
いち911オーナーとしても、今回の電動化911。大いにアリであります。
Porsche 911 Carrera GTS Cabriolet(992.2)主要諸元
全長×全幅×全高:4,535mm × 1,852mm × 1,293mm
ホイールベース:2,450mm
車両重量:1,675kg(DIN)
エンジン:3.6リッター水平対向6気筒ターボ(T-Hybrid)
最高出力:541PS
最大トルク:610Nm
トランスミッション:8速PDK
駆動方式:RR(後輪駆動)
0-100km/h加速:3.1秒(カブリオレ)
最高速:312km/h
ブレーキ:前408mm 6ポットキャリパー、後380mm 4ポットキャリパー
タイヤサイズ:前245/35ZR20、後315/30ZR21
サスペンション:PASMスポーツ(−10mm)、リヤアクスルステアリング標準
駆動用バッテリー:リチウムイオン 1.9kWh
ソフトトップ開閉:約12秒(走行中は50km/hまで操作可能)

(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi / Porsche AG)