「ポルシェ 718 Cayman Style Edition」に試乗してまいりました。

フェルディナント・ヤマグチでございます。今回からスタートした最新のポルシェ一気乗り企画。第1弾は「ポルシェ 718 Cayman Style Edition」です。
デビューからかなりの年数が経つクルマに、なぜ今さら試乗するのか。
それには以下のような背景があります。
当欄を担当する悲劇の編集者M氏と飲んでいた際、「日本で売っているポルシェを片端から乗り倒したら面白くない?」と軽い気持ちで話したところ、「面白いですね。それじゃ来月からさっそく小さい順に乗ってください」と即決し、現行ポルシェのなかでもっとも小型である718 Caymanの試乗と相成った訳です。

ポルシェのなかでは「末っ子」扱いされがちな718 Cayman。実際に乗ってみると、紛う方なき「ポルシェ」一族のクルマであることが実感できます。
Caymanは、もともとマツダのロードスターが流れを作ったオープン2シーターのブームに乗り遅れまいと、ポルシェが慌てて作ったBoxterの「屋根付きバージョン」として登場したモデル。エンジンを後輪軸の前に置くミッドシップレイアウトを採用しています。ポルシェの金看板である911が、年々「グランツーリスモ化」していく一方で、Caymanは頑なに小型軽量を旨とする、ポルシェ最後の砦とも呼べる存在です。
911と比べると安価であるため(それでも乗り出し価格は1000万円に迫りますが・・・)、ポルシェのスポーツカーラインアップのなかでは「末っ子」扱いされがちです。しかし、実際に乗ってみると、なかなかどうして、ポルシェの名に相応しい俊敏な走りを見せるのであります。
現行モデルは「982c型」と呼ばれる、Caymanにとって3代目にあたるモデル。2代目までは水平対向6気筒の自然吸気エンジンを搭載していましたが、3代目から水平対向4気筒のターボエンジンに変更され、ポルシェ信者のあいだでは賛否を呼びました。しかし、これも世の流れというものでしょう。911にもハイブリッドが載る時代ですからね。

718 Caymanの運転席に座ってみると、シートポジション、視界、ペダルレイアウト、すべてがスポーツカーのセオリーどおり。世界広しといえど、ビギナーからベテランまで唸らせるクルマはそうはありません。
人間は第一印象で8割が決まってしまうと言いますが、クルマも同断。
外観を見てシートに座ると大方の印象が決まってしまう。
Caymanは第一印象が非常に良い。シートポジション、視界、ペダルレイアウト、すべてがスポーツカーのセオリーどおり。2025年現在、内装はさすがに古臭さを隠しきれませんが、それもスポーツマインドを掻き立ててくれるエッセンスと見ればご愛嬌です。

全幅1801mmというと、現行型のGolf 8の全幅が1790mmとほぼ同サイズ。実際に運転してみてどうりて世田谷の狭い路地も苦にならないわけです。
まったくあたり前の話ですが、エンジンを始動すると「6発エンジンのポルシェ」にあった濁りのない官能の吸気音は聞こえない。「音作り」に関してはかなり頑張っているのでしょうが、ここは仕方のないところ。ですが、ギアを入れて走り出すと小気味よく吹け上がる「4発ターボエンジンの咆」はそこそこに心地良い。実用域からグイグイと盛り上がるトルクは、スポーツ走行を楽しむうえで「必要にして十分」と言えましょう。
718 Caymanのボディサイズは、全長4,379mm、車幅1,801mm、全高1,295mm。このサイズ感がまた実に的確です。
モデルチェンジを重ねるたびに大きく、立派に成長していく911とは違い、ギリギリの「小ささ」を保っている。世田谷の細い路地も、このサイズなら苦になりません。無論クーペとしての美しいプロポーションはしっかり保たれている(これ以上小さくすると、寸足らずの"チンチクリン”になってしまう)。
用賀から首都高に乗り、山手トンネルを抜けて湾岸線に出て、大黒パーキングまでのルート。トンネル内の高速コーナーは教科書通りの「オンザレール感覚」で実に気持ちがいい。路面のバンプが激しい湾岸線における「いなし」は、シャシーの素姓の良い強靭さを感じさせる。良いですねぇCayman。

首都高から湾岸線を経て、大黒PAまでのドライブは実に気持ちの良いドライブでした。
あまり良くし過ぎると、911の座を脅かしてしまいそうです。ですが、もちろんそこはポルシェも分かっていて、911の価値を守るためにCaymanの性能を完全には解放していない。
技術的に実現可能であっても、ブランド戦略や価格帯の棲み分けのため、あえて「リミッター」をかけているのが実情です。最安価の素のモデルに搭載されるのは水平対向4気筒ターボエンジン。官能性・フィーリング・音質など、いずれも頑張っているけれども、水平対向6気筒エンジンには大きく劣る。Caymanでも上のモデルになると、積まれるエンジンも変わってくるのですが、それらもやはり「意図的に」パワーが抑えられている。ちなみに、このモデルの最高出力は300psとされています。
911とCaymanはまったく別のクルマ。資本主義の世の中です。有り体に言ってしまえば「良いのが欲しければ、高いのを買ってね」という訳です。
とはいえポルシェ。乗って運転すればワクワク感はフツーのクルマの10倍はある。ポルシェの魂は間違いなく感じられる。

6速MTのシフトチェンジはまさに「愉悦」。これぞまさにドイツ車って感じの「ゴクッとした」フィーリングが魅力。
今回、試乗したのは6速MT車でしたが、そのダイレクト感は「愉悦」の領域です。ビギナーにも勧めたいし、ベテランをも唸らせる稀有な1台。
こうなると水平対向6気筒エンジンを積んだ上のモデルが気になってしかたがありません。
次はCayman Sに乗ってみましょうか。え?GT4なんて秘密兵器もある!?
ガシガシ乗り倒していきましょう!
(Text by & Photo by Ferdinand Yamaguchi)