オールアルミボディで100キロを3リッターの燃料で走る「3リッターカー」、アウディA2 1.2 TDI。1999年当時、A2は時代を先取りしていた。

画像: 【Auto Bild】おぼえていますか?20世紀末に登場した画期的な1台「アウディA2」のことを

丸みを帯びたオールアルミ製ボディと、低燃費を実現するための低い風圧抵抗係数を備えたマイクロバン。最新のエコカーの謳い文句のようだが、このアウディA2のコンセプトは、すでに20年以上も前のものである。

※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。

1999年に登場したこの小型車は、業界紙から「時代をはるかに先取りしている」と満場一致で賞賛された。初の5ドア3リッター車である「A2 1.2 TDI」は、このシリーズの技術的なショーピースとみなされている。

画像: アウディA2 1.2 TDIの小型エコノミーエンジンは、ユーロ3に適合している。

アウディA2 1.2 TDIの小型エコノミーエンジンは、ユーロ3に適合している。

燃料消費を抑える複雑なテクノロジーが採用されている

100キロあたり3リッターの燃料で走る「A2」が兄弟車と大きく異なるのは、アウディが最大限の燃費を追求して設計したからだ。3気筒ディーゼルは、油圧式ギアセレクターの助けを借りて作動する自動変速機を介して61馬力を伝達する。

コントロールユニットは早めのシフトチェンジができるようにプログラムされている。エコモードでは、スロットルを離すとエンジンはフリーホイールとなり、エンジンブレーキによるエネルギーロスを防ぐ。停止時には、自動スタート&ストップシステムにより、4秒後にエンジンが停止する。

ボディに加えて、シャシーの一部もアルミニウム製で、リアシートは他の「A2」モデルよりも軽く、分割できない。全体の重量を抑えるため、タンクには20リットルの燃料しか入らない。

当初、装備はそれほど多くはなかった。空気抵抗と転がり抵抗を減らすため、アウディは「A2 3リッター」に、アルミマグネシウム合金製の表面が滑らかな特に軽いホイールを履かせた。

画像: 「A2 3リッター」のオートマチックトランスミッションは、早めにシフトチェンジするようにプログラムされている。

「A2 3リッター」のオートマチックトランスミッションは、早めにシフトチェンジするようにプログラムされている。

アウディの3リッター車を購入したければ忍耐が必要

「A2 1.2 TDI」は一般的に人気が高く、オーナーは手放したがらないため、購入希望者は「A2」を探すのに忍耐が必要かもしれない。アルミボディのおかげで錆は問題ではなく、ディーゼルで100kmあたり3リッター程度の燃費(リッターあたり33.3km!!!)は実現可能だ。

その反面、自動ギアスティックの電子機器と油圧が時折問題を引き起こす。メーカーは、購入をより魅力的なものにはしない。アウディからしか入手できない部品は、過去に高騰したこともある。しかも、中古の「A2 3リッター」は簡単に走行距離20万kmを超えている個体が多い。

大林晃平:

このアウディA2が発表された当時、私の友人などは一様に、なんだか格好が悪く、ダンゴムシみたいな車、と比喩していたのは、もう20年以上も前のこと。それからあらためて今見直すと、A2、そんなに不格好でもないし、時代遅れに見えないのは大したものだと思う。嘘だと思ったら、当時のライバルであったはずの、メルセデス・ベンツAクラスの1999年モデル(つまり一番最初のAクラス)と見比べてごらんなさい。あっちの方がはるかに古くさく、時代を感じさせるし、蛇腹式のサンルーフモデルなんかは、はるかにダンゴムシにそっくりのスタイルに見えるから。

それにしても、なんでまたA2はこんな背の高い格好をしているかというと、当時省燃費の車を一生懸命に開発していたアウディは、空気抵抗を減らすために、かなり車高の低い形の小型車を開発していたのだという。ところがそれを見たフェルディナンド ピエヒ様が、「そんなぺったんこで実用性の低いクルマなんて、誰も買わねえよ」と激怒し、「もっと車高が高くても実用性のあるクルマをつくらんかい!」と発言したため、こういう形になったと言われている。まあピエヒの意見はもっともで正当性もあるが、いきなりの設計変更に開発者はきっと胃の痛む思いだったことであろう。ブガッティ ヴェイロンの「1000馬力で400km出る市販車を作れ!」というピエヒのわがまま発言の時もそうだが、今ならパワハラともとられかねない無茶な要求を言いつつ、なんとかそれを実現させてしまうところが、ピエヒというワンマン剛腕会長ならではのところだ。

さてそんなバックグラウンドで開発されたA2は内容にも先進的な部分が多く、特にそのアルミ素材の使い方や、3リッターカーの存在など、時代を先取りにした部分の多い小型車であった。ここでいう3リッターカーとは、このころのセドリックやクラウンにあった3000ccの排気量の車ではもちろんなく、100kmを走るのに3リッターの燃料しか使わない低燃費を意味している。ということは、リッター33.3km/L以上走るということで、この頃にはそりゃあすごいエコロジカルだ!すごい!!とびっくり仰天したものである。

といってもすべてのアウディA2が3リッターカーであったというわけではなく、ガソリンエンジンモデルやディーゼルエンジンモデルなど、いくつかのバリエーションを持った中で、1.2リッターの3気筒ディーゼルターボエンジンにシーケンシャルATを組み合わせたモデルのみが、燃費スペシャルともいえる3リッターカーであった。

もちろんエンジンとミッションだけでこれだけの燃費が記録できるはずもなく、アルミボディやマグネシウム合金のホイールを用いて、855kg(普通のA2よりも135kgものマイナスである)まで減量したボディや、走行抵抗の少ないタイヤ、アイドリングストップ、などなどの採用で、100kmを走るのに必要な燃料(もちろん軽油)は、2.99リットル(!)と、3リッターを10ccほど切ることに成功しているのだ。

残念ながらこのモデルは高価なこともあり、結局6,555台のみの生産で廃版となったが、日本には普通のA2はもちろん3リッターカーも正規輸入されないまま生産を終えた。日本にA2が輸入されなかった理由は、(普通のモデルは)マニュアルミッションだけであったことと、3リッターカーのスペシャルモデルは特に高価すぎたことなどが理由であったが、その当時に何台か試験的に輸入されたA2のうちの1台を当時至近距離で見たことがある。それはたしかシルバーに塗られた一台だったが、とても未来的な雰囲気を漂わせており、一緒にいた自動車会社の関係者数人の目をくぎ付けにした。

砂漠に墜落したUFOを調査するNASA・・・。というと大げさだが、1976年ソ連のベレンコ中尉が函館に亡命した時に乗ってきたミグ25に群がる米軍関係者、くらいの注目度ではあったと思う。

それから20年以上が経過し、トヨタ アクアはリッター約37km/Lのカタログ燃費を誇り(同門のヤリスハイブリッドは36km/L)、フィット ハイブリッドも約30km/Lの数値をカタログに記している。日産ノート eパワーはあとひと踏ん張りの28.4km/Lだがそれでも省燃費であることに間違いない(言うまでもなくアウディA2の3リッターカーはディーゼルエンジンだったが、日本勢はガソリンエンジンが基本であるし、ハイブリッドシステムも開発しているので、比べても意味はないかもしれないが・・・)。

技術競争というのはすごい、と思うと同時に、20年目にはあんなにすごいと思っていた3リッターカーが、いつの間にか私たちの生活の中に溶け込んでいるという事実には驚くしかない。エンジニアの日々の努力と知恵に敬意を表すると同時に、BEVが当たり前の時代になった時には、3リッターカーなどという言葉も意味不明の言葉になってしまうのだろうなと思うと、なんだか妙に寂しいと思うのは、単なるノスタルジーなのだろうか。

(Text by Lars Hänsch-Petersen / Photos by Hans-Joachim Mau)

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