121113-Tech-3-4.jpgアウディAGが開催したテクノロジーワークショップ参加したモータージャーナリスト・島下泰久氏が驚く、アウディの燃料ストラテジーとは? 続いて燃料ストラテジーに触れていこう。実は個人的に一番衝撃が大きかったのは、こちらの方だ。

アウディの「e-gas」プロジェクトについては、ご存じの方も多いだろう。これは再生可能エネルギーの最右翼である風力や太陽光などによる発電の弱点である供給力のムラを解消し、これらのエネルギーを現実的に利用するためのアイディアである。

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121113-Tech-3-3.jpg一番のポイントは、風力などにより発電した電気を、そのまま蓄えるのではなく、水(H2O)を使って電気分解して、酸素(O2)と水素(H2)に分けること。さらに、その水素をCO2と組み合わせることでメタン化して、最終的にはH2O(水)とCH4(メタン)を取り出す。
これには重要な意味がある。電気としてそのまま使おうとしても、自然エネルギーにはどうしても供給ムラがある。ゆえに、それを蓄えておこうという発想が浮かぶわけだが、このときにバッテリーにそのまま電気として貯めるのではなく、貯蔵にも運搬にも簡便な方法をということで、ガス化が選ばれたというわけだ。

しかも、ガス化の過程でCO2を取り込むため、カーボンニュートラルが実現できるというのも大きい。またCH4すなわちe-gasは、貯蔵にも運搬にも天然ガスの既存インフラがそのまま使えるし、何よりCNG車両用の純度の高い燃料とすることが可能となる。

電気エネルギーでEVを走らせようとすれば、、車両に沢山のバッテリーを搭載しなければ航続距離を伸ばすこごはできないが、CNG車両であればそうしたコストは不要だというのも、このガス化の大きな大きなメリットである。

また当然、途中で生み出す水素をそのまま燃料電池車に使うことも可能だ。発電した電気を、その段階でそのまま取り出して使ってもいい。つまり、そのグリッドにはEV、燃料電池車、CNG車というさまざまな形態のクルマを接続して、エネルギーを供給することができるわけだ。

121113-Tech-3-1.jpg実際、アウディは2013年に北ドイツのヴェルテにこのe-gasプラントを立ち上げる予定である。生成できるメタンは年間1000トン。これは2800トンものCO2を取り込むことになり、またパリサロンで発表されたA3スポーツバックTCNGであれば、実に1500台の車両を1万5000km走らせることができるという。
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どうだろう。まさに驚きの、しかし非常に理にかなったアイディアではないだろうか。しかもコストだって、たとえば風力発電設備に大容量の蓄電バッテリーを設置するより、はるかに安く抑えられるはずである。

さらにアウディは、燃料をつくり出すことまで視野に入れ出した。それが"e-ethanol"と"e-diesel"。これらは天然ガスもバイオマスも使わずにつくり出される新燃料である。

必要なのはCO2、水、そして日光。これにある藍藻を加えることで、エタノールとアルカン(軽油の重要な主成分)をつくり出すという驚愕の技術だ。

施設は、このCO2と水、藍藻を通したチューブを並べて、それを日光に当てるかたちとなる。バイオマスを貯蔵するための土地は不要だし、必ずしもきれいな水である必要はないので飲料水とのバッティングもしない。当然、穀物などは不要だから、トウモロコシなどの食糧と競合することもない。

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生成されるバイオエタノール=e-ethanolはガソリンと混ぜてE85燃料として使うことができる。一方のe-dieselは石油由来の軽油と違って純度が高く、つまり硫黄や芳香族を含まないこと、そしてなんと軽油の倍以上となる100前後というセタン価の高さが大きな特徴となる。

そのまま使うとすれば、チューニングを最適化することで、非常に高効率、高出力なディーゼルエンジンを生み出せる可能性がある。また、これを一定量混ぜることで、アメリカの粗悪な軽油でも劇的にエミッションを改善できると考えれば、利用方法には沢山の可能性がありそうだ。

121113-Tech-4-1.jpgアウディとアメリカのベンチャー、ジュール社が共同で行なっているこのプロジェクトは、今はまだ研究段階である。しかし、アメリカ・ニューメキシコ州では現在、実験プラントの建設が進んでおり、2014年には商業用としての生産施設も完成する予定となっている。
いままでにもGtLやBtL、そのほか色々な燃料が研究されてきたが、アウディとしてはそれらからは手をひいてグループ内の他のブランドに任せ、このe-ethanolとe-dieselにリソースを集中して開発を進めていくという。彼らは本気なのである。

未来のモビリティに巨額の投資を行ない、さまざまな実験を行ない、矢継ぎ早に新しいパワートレインを世に出しているのは、数十年後の地球におけるモビリティのあるべき姿を見据えてのことだ。人口70億人を超え、その半分以上が都市居住者となり、食糧問題やエネルギー問題、環境問題は今よりも深刻になる。そんな時代に、モビリティを提供する企業としてどうあるべきか。彼らは今から真剣に取り組んでいる。

「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」という言葉に込められた精神とは、こういうことだったのか。今回のワークショップでは、久しぶりにその真髄に触れた気がした。圧倒的に先を行く技術というベースがあってこそ、自信のプロダクトが生まれ、それがスタイリッシュなブランド性にまで繋がっている。今のアウディの力と勢いを、まざまざと見せつけられたという思いでいっぱいなのだ。

(Text by Yasuhisa Shimashita / Photos by Audi AG)

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