フルモデルチェンジを機にステーションワゴンボディのみとなった9代目「Passat」をドイツで試乗。最新技術満載の「Passat eHybrid」の出来映えは?
主力モデルの「Golf」より1年早い1973年に登場し、「Tiguan」「Polo」とともにフォルクスワーゲンの世界販売トップ3を構成するロングセラーがミッドサイズクラスの「Passat」。2023年8月には「B9」と呼ばれる9代目が発表となり、2024年にヨーロッパで販売がスタート。日本では予約注文受付を2024年9月に開始し、2024年11月の出荷開始が予定されている。
新型の概要については上記のニュースをご覧いただくとして、今回、「Volkswagen Driving Experience」の協力のもと、ドイツで「Passat eHybrid R-Line」を試乗することができた。
Passat eHybrid R-Lineはいわゆるプラグインハイブリッド車(PHEV)で、1.5L 直列4気筒ガソリンターボエンジンと電気モーターを搭載し、そのいずれか、または両方を使い、6速DSGを介して前輪を駆動する。日本仕様では110kW(150ps)の1.5 TSIエンジンと85kWの電気モーターが組み合わされるが、今回の試乗車は1.5 TSIエンジンがよりパワフルな130kW(170ps)になる。これにより、システム出力は日本仕様の150kW(204ps)に対し、200kW(272ps)にアップしている。
PHEVだけにモーターのみでの走行も可能で、19.7kWhの駆動用バッテリーを搭載するPassat eHybrid R-Lineは120km超の航続距離(欧州値)を実現する。また、このヨーロッパ仕様車の場合、普通充電に加えて50kWの急速充電が可能である。
あらためて新型Passatの外観を眺めてみると、細いラジエターグリルやシャープなヘッドライト、それらを結ぶLEDライトストリップを採用するフロントマスクは爽やかですっきりとした印象。最新のGolfとのつながりを強く示しながら、Golfの上位モデルらしい品の良さを漂わせている。
全長が4,785mmから130mm延びて4,915mm(いずれも日本仕様の数字)になり、それを強調するサイドのキャラクターラインや傾斜の強いリヤピラーがダイナミックな走りを予感させる。さらに、リヤビューもこれまでになく印象的で、スリムなLEDテールライトとそれを結ぶLEDストリップが、新型Passatの先進的なイメージを際だたせている。
エクステリア以上に大きく変わったのがコックピットのデザインだ。デジタルメーターの「Digital Cookpit Pro」には覆い被さる“庇(ひさし)”がないぶんより見やすくなり、隣接する15インチの「Discover Pro Max」の大きさにも圧倒される。新しいのは、センターコンソールからシフトレバーが消え、かわりにステアリングコラムの右側にステアリングコラムスイッチが設けられたこと。シフト操作はこれを前後に回転させるなどして行うのだが、慣れれば従来のシフトレバーよりも断然操作しやすい。
Passatといえば室内の広さも自慢のひとつだが、この新型ではさらに磨きがかかる。ホイールベースが50mm延びて2,840mmになり、後席に座ると前席に足が届かないほど広々としているのだ。荷室は、後席を倒さなくても奥行きが110cm強と広く、後席を倒せば奥行き約180cmのほぼフラットなフロアが現れる。大量の荷物を積むにも、荷室で車中泊をするにも十分すぎるスペースが確保されている。
ところで、Passat eHybridはシステムを始動すると、EV走行を行う“E-mode”が常に選択される。まずはそのままクルマを発進させると、85kWのモーターはEV(電気自動車)ほどの力強さはないものの、十分余裕ある加速を見せてくれる。モーターによる走行だけに加速はスムーズで、キャビンも静粛性が保たれたままだ。
一般道では十分な速さを示すPassat eHybridだが、アウトバーンでも十分な実力を誇っていた。130km/hまでであれば周囲のクルマに後れを取ることはなく、モーターだけで事足りてしまう。一方、130km/hからは加速が鈍り、140km/hで頭打ちになるが、追い越し車線を飛ばすのでなければ、困らない性能だ。120km/hが上限の日本の高速道路なら、なおさらである。
タッチパネルでE-modeから“Hybrid”に切り替えると、モーターとエンジンを併用する制御に変わる。その場合でも基本的には発進はモーターが担当し、あとはアクセルペダルの踏み方にあわせて、より大きなパワーが必要になるとエンジンが始動し、さらに素早い加速が手に入る。ドライビングプロファイルを“Comfort”から“Sport”に切り替えるとエンジン始動のタイミングが早まり、レスポンスのよい加速が楽しめる。
エンジンがかかっている状態でもキャビンは十分静か。こんなところでも、新型Passatがひとクラス上のクルマに移行したことを感じさせられる
それ以上に感心したのが、新型Passatの乗り心地。試乗車には可変ダンピングシステムのアダプティブシャシーコントロール“DCC Pro”が装着されていたが、走り出した瞬間から乗り心地は穏やかでしっとりとした印象。これまでに味わったことのない快適さである。
スピードを上げてからも挙動は落ち着きはらい、アウトバーン走行時のフラット感も上々である。快適さと安定感をこれほど高いレベルで両立したフォルクスワーゲンはなかったのではないかと思うほどの出来には驚くばかりだ。Passat eHybrid R-LineではDCC Proが標準装着されるが、オプションで選択可能なグレードでは、ぜひとも選んでおきたい装備である。
短時間の試乗であったが、新型Passatの出来映えには目を見張るばかり。これまで日本ではGolfの影に隠れてやや目立たなかったが、モデルチェンジを機に存在感を強めるのではないかと期待してしまう新型Passatである。
(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Volkswagen Japan)