賛否両論あるフォルクスワーゲンのアクセルペダル。僕はフォルクスワーゲンの考え方に賛成です。
正確には、アクセルペダルではなく、スロットルの制御といったほうがいいのかもしれません。
最近のフォルクスワーゲンやアウディは、「電子制御スロットル」というシステムを採用しています。昔のクルマは、アクセルペダルにケーブルがつながっていて、これがエンジンまで伸び、直接スロットルを動かしていました。しかし、いまや多くのクルマでは、アクセルから伸びているのはケーブルではなく、電線です。アクセルペダルの踏み具合を電気的にコンピューターに伝え、コンピューターは走行状況にあわせてスロットルに設けられたモーターを動かし、スロットルをコントロールします。「ドライブ・バイ・ワイヤ」「電制スロットル」ということもあります。フォルクスワーゲンも、ゴルフ4の途中から電制スロットルを採用しはじめ、現在はすべてのモデルに電制スロットルを搭載しています。きめ細かいエンジン制御や排ガス対策、最近は低燃費のためにも注目を集めています。
フォルクスワーゲンの電制スロットルについては、その制御に賛否があるのをご存じですか? それは、ブレーキペダルを踏んだときの制御です。アクセルペダルを踏んだ状態でさらにブレーキペダルを踏むと、当然ブレーキが効くわけですが、フォルクスワーゲンの場合は、それと同時にフューエルカットが働きます。これには、ドライバーがどんな意図でふたつのペダルを踏んでいるかはわからないけれど、まずは安全第一、アクセルペダルよりもブレーキペダルを優先させようというフォルクスワーゲンの考え方が表れています。ドライバーがパニックに陥り、アクセルとブレーキを両方踏んでしまったという場合や、何らかの原因でスロットルが全開になってしまい、それに対処するためブレーキを踏んだときなどには、とても有効です。
一方、ブレーキペダルを先に踏んで、そのあとからアクセルペダルを踏んだときは、フューエルカットは働きません。というのも、こういった状況は、マニュアルならこれからヒール・アンド・トウをしようというときですし、オートマやDSGならサーキットなどで素早いスタートを決めたいときなので、ドライバーが危険に直面しているとは考えにくいからです。
僕自身はこのやり方に全然不満がないのですが、これまで左足ブレーキをしてきた方は、フォルクスワーゲン流のスロットル制御に不満を持つことでしょう。モータースポーツの場面でも左足ブレーキを使うことがありますので、たとえばゴルフGTIカップに出場されている選手の中には「困るんだよねぇ」と思っている人はいるでしょう。
しかし、一般の方が一般道で左足ブレーキを使う場合、素早くブレーキを踏めるというメリットがある反面、アクセルとブレーキを両方同時に踏んでしまうリスクを抱えているという意味から、少なくとも僕はお勧めしません。僕自身も、かつて左足ブレーキで運転していた時期もありましたが、ここ15年ほどは左足はクラッチ操作だけにしています。なので、フォルクスワーゲン流のスロットル制御でもなんら問題は起きないんです。
どうしてこんな話をしているかというと、最近、アメリカでレクサス車が暴走したというニュースが話題になっているからです。報道によれば、アクセルペダルがフロアマットにひっかかり、エンジン回転が上がった状態になり、ブレーキを踏んでもエンジンのトルクに負けてしまい、止まらず事故につながったというものです。たぶん、皆さんもご存じですよね。
これは日本仕様ですが、レクサスISのペダルです。
レクサスを含め、多くの自動車メーカーがアクセルとブレーキを同時に踏んだとき、フューエルカットを行いません。
もしも、フォルクスワーゲンにように、ブレーキを優先させる制御を行っていれば、いくつかの悲劇は防げたかもしれません。
そして、最近のフォルクスワーゲンのように、"オルガン式"、つまり、フロアに支点を持つアクセルペダルを採用していたなら、フロアマットがひっかかることはなかったかもしれません。
レクサスでも、LSなどはオルガン式のアクセルペダルなので、同じような事故は少ないのではないかと想像します。
ゴルフでは先代のゴルフ5からオルガン式ペダルを採用しています。吊り下げ式よりも踏みやすいというのが採用の理由でしたが、見るからにこちらのほうがコストは高そうです。ちなみに、BMWやポルシェはずいぶん前からオルガン式ペダルです。オートマなら問題ないのですが、マニュアル車では「ヒール・アンド・トウがしにくいなぁ」と思いました。しかし、アクセルペダルとブレーキペダルが近ければ、ヒール・アンド・トウではなく"トウ・アウド・トウ"、つまり、右足の親指側でブレーキペダル、小指側でアクセルペダルを踏むことで、ヒール・アンド・トウと同じ効果が得られます。右足を捻るだけなので、慣れればヒール・アンド・トウよりも簡単です。
それはさておき、安全を優先させたフォルクスワーゲン流のスロットル制御について、レクサスの問題が明らかになったことで、より多くの方から理解が得られるようになると思います。その根底には、かつてアウディがアメリカで同じような暴走事故を起こし、信頼を失ったという苦い経験があるのでしょう。だから、頑ななまでにフューエルカットをしてきたフォルクスワーゲンとアウディ。ときとして、人の命を奪うクルマだからこそ、フォルクスワーゲンのこの姿勢、僕は大いに評価しています。