140517-Oya-02.jpgイタリア直送 大矢アキオの
かぶと虫! ビートル! マッジョリーノ!

ちょっと古いVWファンのシアワセ


先日、ジャンカルロ氏のガレージの前をクルマで通りかかったときである。見慣れぬ青いビートルが佇んでいた。 彼がかつてポルシェ911カレラを大層気に入って乗っていたことは知っていたが、ビートルがあったとは聞いていない。

不思議に思ってボクがクルマを停めると、ビートルの陰からジャンカルロ氏が現れた。彼は75歳の元銀行員だが、夏は8人乗りヨットで遊ぶアクティヴなお年寄りだ。往年の歌手ディック・ミネを思わせるサングラスがトレードマークである。

ボクはすかさず「マッジョリーノですか? 」と尋ねた。Maggiolinoとは昆虫のコフキコガネを示すイタリア語だ。この国でビートルは現役時代からこう呼ばれている。参考までに今日販売されている「ザ・ニュービートル」のイタリア仕様にも、Maggiolinoと記したバッジがトランクリッドに貼られている。 

ところが、ジャンカルロ氏は「中身はマッジョローネだよ」というではないか。Maggioloneはいわば巨大なコフキコガネのことで、一般的にフロント曲面ガラスや前輪ストラット式サスペンションが与えられた1973年モデル以降(1303)を指す。

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「これはストラット式だけど、ボディはそれ以前の型と瓜ふたつなんだ」。

1302系といわれるこのモデルは、71〜72年モデルイヤーのみ生産された、いわば過渡期型である。彼のクルマは1972年型という。

たしかに、前輪の足下を覗き込むとコイルスプリングが見えるが、フロントガラスは平面だ。フロントフード形状もそれ以前のモデルより若干膨んでいるものの、1303ほど大胆ではない。ジャンカルロ氏は、「ほら、これも」といって、後方にまわってテールランプを指した。こちらも、1303系前夜のものである。 

クルマは14年前にこの世を去った叔父の遺品だったという。天気の良い日に、ガレージから出しては手入れをしているらしい。

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室内も見せてもらう。ダッシュボードも過渡期を反映して、1303系のモダーンなプラスチックではなく、鉄板製である。本連載第2回で記したように、幼いころ家に(ごく普通の1300モデルだったが)ジャンカルロ氏と同じ年式のビートルがあったボクは、その室内風景にたちまち懐かしさがこみあげた。

グローブボックスの回転式ノブ、その上に付いたグリップ、ウィンドー直後の空気吹き出し口に付けられた風向調節つまみ、三角窓の開閉ヒンジ、助手席に座りながら頭の中でそれを見ながら操作を想像していたシフトゲートのインジケーター......

それらひとつひとつが、我が家にあったクルマとまったく同じである。その感激をジャンカルロ氏に伝えると、彼は嬉しそうに頷いた。 

世界中で長年大切に乗られているフォルクスワーゲン。それゆえ自分の家にあったのに近いフォルクスワーゲンと、さまざまな国で出会えるチャンスが多い。そしてひとたびオーナーと話が弾み、ドアを開けてもらえれば、自分とクルマの思い出が溢れ出す。

それはゴルフでもシロッコでも、もちろんジェッタでも同じに違いない。自分のアルバムが世界中を走り回っている。なんとシアワセなことよ、ちょっと古いフォルクスワーゲンファンは!

[冒頭の写真]
ある日、ジャンカルロ氏のガレージの前に見慣れぬビートルが。

[中程の写真]
ジャンカルロ氏は、この1972年型1302を叔父から引き継いだ。過渡期モデルゆえテールランプ形状も、1303の円形ではなく舟型だ。

[後半の写真]
ダッシュボードもスチール・タイプ。助手席足下との間には、後付けのセンターコンソールが。

(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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