空冷ポルシェを探訪し、ゆくゆくは不肖フェルが実際に購入しようという本企画。
古いポルシェを訪ね歩くのはもちろん非常に楽しいのですが、やはり最新のマシンもチェックしておかなければなりません。何しろポルシェの生みの親であるフェルディナント・ポルシェ博士は、「最新のポルシェこそが最良のポルシェ」と語っていたと言われていますからね(本当にポルシェ博士の言葉かどうかには諸説ありますが……)。
そんな訳で992型のGT3に1週間ばかり試乗して来ました。
昨今の自動車馬鹿力ブームの中にあって、最高出力510psはもはや大勢に埋もれてしまう数字ですが(SUVにも500psオーバーのエンジンがフツーに積まれちゃう時代ですからね)、実際に乗ってみるとやはりすごい。すごすぎます。
GT3は「Carpe secundum」つまり「その瞬間を生きろ」と提唱しています。
年を取ると分かるのですが、人生は短い。50歳を超えると1分1秒がうんと大事になってきます。ポルシェAGという企業もそれを良く分かっている。だからこそ企業のテーゼとして「私達は1秒を最大限に活用します。どんな時間であれ貴重だと知っているからです」と謳っているのです。やはりポルシェは速くなければならない。それも圧倒的に。製品としてそれを具体化しているのがこのGT3という訳です。
996型から登場したGT3も、997、991、そして今回の992と代を重ね、前期・後期を入れれば既に7代目ということになる。巨大なリアウィング。大きく口を開けたエアインテーク。そして異様な迫力を醸し出すシャークブルー塗装と来れば、否が応でも人目を引きます。信号で止まる度に「なんだあのクルマ」と言わんばかりに指を刺されます。こうも目立つと、とてもお忍びデートでは使えません。
室内に入ると谷から転げ落ちても生き残れそうなガチガチのロールケージ。さらにフルバケットシート。本チャンのフルバケで盛大にサイドサポートが立っているので、乗り込むのにも一苦労です。インパネ中央には10000回転まで刻まれたタコメーターが配され、そのレブリミットは公道では回しようのない9000回転。走り出す前から心が高揚します。
イグニッション ロックを時計回りにまわし、ギアを入れるとガチャガチャと機械音が車内に響き、さらに気分は盛り上がる。しかし走り出して速度が乗るとこれが意外にスムーズで、走り出し時のガチャガチャ感は影を潜め意外とスムーズに変速していく。PDKも代を重ねてだいぶマナーが良くなりました。初期の頃はシフトショックが酷かったですからね。よく壊れたし。
そして軽くアクセルを踏めば怒涛の加速。ああ快感。八王子の山道を適度に攻めたのですが、公道レベルでは正に「どんな速度で何をやっても」大丈夫。怖いものなし。
クルマの記事を、特にスポーツカーの記事を書くときに多用される「オンザレール」という言葉がありますが、正にその感覚。狙ったラインをその通りにキレイにトレースしていきます。何をどうやったらこんなクルマが作れるのでしょう。無論バリバリに飛ばさなければ意味のないクルマなのですが、法定速度をキッチリ守って走っていても実に気持ちがいい。
段差の突き上げはさすがにゴツゴツと厳しく、お世辞にも乗り心地の良いクルマとは言えませんが、このGT3は今やカレラの中でも貴重な貴重な自然吸気エンジン。今やターボモデル以外の普通のカレラにも黙っていてもターボが付いちゃってますからね。そしてついに次期型のカレラにはハイブリッドが登場する。満を持してと喜ぶべきか、ポルシェよお前もか、と嘆くべきか。
何にせよ、ポルシェと言えども世の電動化の波には抗えないのです。ポルシェAGは当分ガソリンエンジンのクルマを作り続けると言っていますが、果たしてそれもどうなるか。いまのうちにこの手のハチャメチャな純エンジン車をたっぷり堪能しておきたいものです。買える人は買っちゃいましょうね。いやマジで。
(Text & Photo by Ferdinand Yamaguchi)