フェルディナント・ヤマグチでございます。
「失って初めてその価値を知る」なんて言いますが、昨年手放したフェル号ポルシェが良い例でありまして、トランポ用に購入したハイエースが便利過ぎて、ポルシェには殆ど乗らなくなっていたので深く考えずに売却してしまった。※そのときのエピソードは「こちら」です。
いま思えば特段のトラブルもなく、3ヶ月放置していてもセル一発で目を覚ます極上車だったのに、なんて軽率なことをしてしまったのでしょう……。
「だから言っただろう」と周囲からの冷笑を浴びつつ、次なる“速いクルマ”を求めて探索を始めたのですが、考えてみればいい年ぶっこいて必死になってクルマを飛ばすシーンなんてそうそうありません。つまり“本当に速いクルマ”など必要がない。自分が気持ちよく「速い気分」で走れればそれで良い訳です。そこで思いついたのが空冷ポルシェ。やっぱり最終的にはココに行き着きますよね。次々と発表される新型にカリカリすることもありませんし(笑)。
とはいえ空冷はやっぱりコワい。クルマは好きですが壊れるのは嫌いです。そんな訳で、前回、空冷ポルシェを所有していると言い出した担当編集松村選手と空冷ポルシェ問答となったわけです。今回はその後編です。※前編は「こちら」です。
「意外と壊れない」「キチンとメンテすれば大丈夫」との声も聞こえてきますが、買ってから「やっぱりムリ」と手放してしまう人も少なくない空冷ポルシェ。その要因の多くは、やはりコストだと思います。実際のところ、年間の維持費はどれくらいかかるのでしょう。
松:自動車保険が約12万円、ガソリン代が約10万円、あとは2年に1度の車検が35万円〜 です。燃費は4〜5km/Lです。
「普通に乗っていれば特段にカネはかからない」。ということでしょうか。意外と出費は少ないですね。それにしても燃費が悪い。極悪です。これじゃ恐ろしくて遠出はできません……。
そんな空冷乗りの松村さんですが、新しいポルシェに興味はないのでしょうか。やっぱり信号待ちで隣に並ばれたりしたら気になりますよね。
松:あります!オフィシャルサイトのカーコンフィギュレーターで自分好みの992 GT3 touringを作ってみたところ、総額3000万円オーバーに……。
そうなんですよ。最近のポルシェは高いんですよ。ちょっと前までは911でも最安仕様だったら3桁万円で買えたのですが、今はオプションを載せていったら軽く2000万円になっちゃいますからね。円安だし。
ところで空冷ポルシェの中に「ヒエラルキー」なるものは存在するのでしょうか。“古ければ古いほどエラい”なんて風潮があるとうウザいですよね。
松:あくまでも感覚値ですが、モデルごとというより、RSやターボ、その他の限定モデルは格上に扱われる印象です。ナローの世界は……ちょっと特殊というか、ヘンタイ度が高めです。日本酒でいう古酒みたいなもので、別カテゴリーのイメージです。美味しい日本酒は好きだけれど、通常の銘柄を味わい尽くした先にある存在のような気がしています。
現役世代でも“役付きポルシェ”は高いしエラいですが、空冷も同じということですね。
そしてナローはまた別世界と。古酒とは上手いこと言うなぁ。でもあそこまで古いと相当な覚悟が要りそうですし、私はそこまでハラが決まっていないので踏み込まないようにしようと思っています。
いろいろと気を遣わなくてはならないクルマですが、空冷ポルシェの魅力ってどこに在るのでしょう。
松:エンジン音やドアを閉めたときの感触は言うに及ばず「ドライバーがクルマに合わせるところ」でしょうか。古いモデルであればあるほどその傾向が強くなる印象です。自分のイメージどおりに操れたときの快感は何物にも代えがたいです(笑)。
それって変態じゃないですか。完全にマゾじゃないですか。私はアッチの方も極めてノーマルですし。嫌だなぁそんなの……(担当編集追記:私もソッチは極めてノーマルです・笑)。
やっぱり新しい方が良いのでしょうか。なんだか急に腰が引けて来ました。
面倒は嫌いなんですよ。空冷だけど壊れないとかクルマの方が人間に寄り添ってくれるとか、そんな都合の良い空冷はないのでしょうか。古いポルシェ乗りの立場から、私のような人間にオススメのポルシェは何でしょうか。
松:現行モデルであればカレラTのMT、空冷であれば964か993カレラのMTでしょうか。いずれも、いまや絶滅危惧種の左ハンドルで。前者は純粋な内燃機関を搭載した最後の911となりうるかもしれません。後者はもともとタマ数がないうえにますます価格高騰していますが……。水冷911では味わえない「高濃度の911」が楽しめるモデルだと思います。定説どおり「最新は最良」を選ぶか、より濃い味を求めて「最愛が最高」を選ぶか??悩ましいです。
え?ここへ来て現行のTが出てくるんですか?余計に混乱するじゃないですか(笑)。
とはいえ「最後の純内燃機関」というのは響きますよね。なんかEUが今になって合成燃料使用なら35年以降も内燃機関オッケーなんて言い始めましたが、これから先どうなるのでしょう。コロっと方針を変える人は、平気でまたコロッと変えて来そうですからね。油断してはいけません。最後に松村さんから各世代の「ポルシェ感」を伺いましょう。
松:オーディオの世界に例えるなら、ナローはアナログレコード、992は最新のハイレゾ。964や993はCDかなと思いました。
アナログレコードは再生ひとつにも手間が掛かるけれど、その所作も楽しめますし、デジタルにはない音に魅力を感じる方もいます。
ハイレゾオーディオであれば、誰もが手軽に高音質を楽しめます。
CDは(今となっては)過渡期だったように思います。
これまたうまいこと仰いますなぁ。ていうか家にCDが500枚もあって、捨てるに捨てられない私はこれからどうやって生きていけば良いのでしょう。誰ももらってくれないし、捨てるのはなんだかシャクだし。ポルシェもCDも、本当にどうすれば良いのでしょう……。
(Text by Ferdinand Yamaguchi)