ベンジャミン ダヴィッド氏(34歳)は、ハンブルクで投資家を顧客に、希少なスポーツカーを扱う自動車販売店を経営している。ポルシェエンジンを搭載したブリT1からメルセデスSLS AMGクーペまで、ほぼすべての憧れのスポーツカーが揃っている。
ガラスの宮殿には王様がたくさんいる。「ポルシェ911 GT3」、「ランボルギーニ ウラカンEVOスパイダー」、「ヴィーズマンMF4-T」。そして、ショップウィンドウの正面には、2台のベントレーが。これらすべてのモデルは6桁(1千万円超)の数字になる。ハンブルクの幹線道路沿い、メルセデスやBMWの支店の隣に、ダビデは自分の帝国を持っているのだ。
※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。
彼の経営する「David Finest Sportscars」は、ここ数年、ドイツ北部で最大の独立系スポーツカーディーラーの1つとなっている。会場には約80台の車が立ち並ぶ。商品の価値は2000万ユーロ以上(約30億円)だという。
「しかし、そのすべてが売り物というわけではありません」とベンジャミン ダヴィッド氏は言う。彼は「クルマの保管」も行っている。これは、お客様がクルマを購入しても、自宅のガレージにスペースがないなどの理由で、クルマを自宅へ持っていかず、彼の店で預かってもらい、必要に応じて持ち出して使うということだ。
暖かく、そして乾燥した安全な場所に保管され、趣味のクルマというより投資物件として扱われている。例えば、あるお客様からは、現在6台のクルマを預かっているそうだ。そのうちの1台がメルセデス・マイバッハである。
地に足の着いたスタート
投資家向けの自動車ディーラーで、ダヴィッドは夢を実現した。しかし、すべての始まりはとても地道なものだった。高校卒業後、ベンジャミン ダヴィッドは地元リューネブルク(ニーダーザクセン州)のオペルディーラーで見習いをすることになった。「オンボロ自転車で通勤していた」と彼は笑う。
ある時、彼は中古車コンテナに座り、古い「アストラ」や「コルサ」を売りさばいていた。「黒いボンネットにフォックステールの付いた黄色のオペル マンタ」をVWに乗り換え、介護サービスに小型車を売り込むのが仕事でした。そして、その後、ヘッドハンターに誘われ、ポルシェセンターで働くことになったのです」と、ダヴィッド氏は語る。
フラットなクルマ、でもフラットなヒエラルキーはない、それがベンジャミン ダヴィッド氏の好みなのだ。そんな彼は単に会社人間ではいたくなかった。そこで2017年、ダヴィッド氏は自営業への大きな一歩を踏み出した。
「たくさんのカラフルなクルマ」が成功をもたらす
「クルマ2台と250平方メートルの売り場からスタートしました」。最初の9カ月は貯金で生活しており、お金はほとんど入ってこなかった。しかしその後、希少なモデルや特別なカラーを得意とする、「色とりどりのクルマの数々」が成功をもたらし、2021年からは元アウディ車のディーラーだった一等地のビルにテナントとして入居している。
当時売っていたクルマの価格は約30,000ユーロ(約435万円)から。その分、1988年製のよく整備された「BMW750i(元役員車)」を、社員価格で手に入れることができたのだった。アルピナ製ホイール、アルピナ製フロアマット付き。そして、その後・・・。
DB5を110万ユーロ(約1億6千万円)で販売
「昨年は、ボンドの新作が公開されるタイミングで、アストンマーティンDB5を販売しました」。お客様は、少しおまけが欲しいとのことだった。マシンガンは無理でも、せめてエアコンくらいは。この車には約110万ユーロ(約1億6千万円)の値がついた。
現在、「David Finest Sportscars」では21名の社員が働いている。その中には、ポルシェセンターの元マスタークラフツマン(名工)3名も含まれている。そこで、一般のガソリンエンジンファンにとって、購入価格の次に問題となるのが、この点である。ワークショップの1時間の作業代は190ユーロ(約2万7千円)だ。「Only(たったの)」とダヴィッドは強調する。「他では270ユーロ(約3万9千円)です」と彼は笑う。
ダヴィッド氏は、ビジネスの80%をツッフェンハウゼンのブランド(ポルシェ)で行っている。あとは、「シトロエンDS」から、ポルシェのエンジンを積んだ「VWブリT1」まで、なんでもありだ。今、メルセデスはかなり好調だ。2022年の上半期だけで、8台もの「SLS AMGクーペ」を販売したそうだ。
そのほとんどがコミッショングッズ、つまりオーナーから委託され、彼らに代わって販売に供されるものである。こうすることで、特に古いクルマではリスクが大きすぎる保証の義務を回避することができるのだ。しかし、良い機会があれば、直接購入することもある。
ガレージが満杯ならダヴィッド氏に預ければいい
ミュンヘンのディーラーで「911」を見かけ、即座に手に入れたこともある。「スレートグレーが特別な色であることを知らなかったのです。お金はすぐに稼げた。クルマを買ったのは・・・、ミュンヘンの人だった」とダヴィッドは振り返る。
客層は、「各分野で大成功している人たち、ほとんどが自営業者の方々です。飲食店、中堅企業、心臓手術の専門医師などなどです。そして、私たちからクルマを買った人は、その1台だけでなく、複数台所有する資産全体の安定性を手に入れることができるのです」。「なぜなら何か1台を売るとしたら、それはお金がないからではなく、その人のガレージが満杯になったからです。そのための「David’s Car Storage」なのです」とダヴィッド氏は語る。
ビジネスは順調だとダヴィッド氏は言う。それは、内燃機関の終焉が迫っていることと関係していると考えている。もう一度6気筒、8気筒、12気筒に乗りたいなら、今すぐ手に入れた方がいいだろう。
「工房の奥には、介護を必要とする患者さん(クルマのこと)がいらっしゃいます」。東欧でレストアされた緑色の911、これはあまりコンディションがよくなかったのです。さらに悪いことに、あるコレクターが無事故、無改造のクルマとして購入したポルシェが、ダヴィッドの同僚が下まわりをアイスブラストした結果、いじくり回していることが判明した。しかも、あちこちに補修パネルがあり、ひどい溶接の痕跡もあったという。
最近、「メルセデスAMG SL」を飛行機に積んでドバイに納車に行った際の輸送費はたったの13,000ユーロ(約188万円)。購入者にとっては、取るに足らないものだ。ダヴィッド氏は、自分のカーディーラーを持つというステップがうまくいったことに、目に見えて誇りを感じると同時に、少し安堵しているのかもしれない。
(Text by Holger Karkheck / Photos by David Finest Sportscars)