総額およそ100万円で手にした13年落ち、走行8万8000kmの「Audi A5 Cabriolet」。幸いにも納車後に特段の不具合は感じられない。しかし、さまざまな車種を扱う中古車店で購入した格安車ゆえ、メーカーや車種固有の劣化具合は不明なままだ。現状把握と今後のメンテナンス計画を立てるため、恐る恐るVolkswagen・Audi専門プロショップ「maniacs STADIUM(マニアックス・スタジアム)」の門を叩いた。

そして入念なコンディションチェックの末、市場相場を大きく下回る個体とは思えないほど状態が良く、メカニックから「アタリ」の判定をいただいたというのが前回までのあらすじだ。
だが、それは健康診断で言えば問診と聴診器をあてた程度であり、胃カメラやCT検査のような精密検査ではない。見える範囲の点検だけでもプロの眼識による安心感は絶大だが、時間も手間もかかるエンジン内部の深淵までは確認していない。
そこで今回は、人間で言うところの胃カメラに相当する「エンジン内部の燃焼室クリーニング」を依頼。あわせて夏本番を前に「エアコンガス交換」も実施し、愛車の真実を探ることにした。
撮れ高ゼロの危機。ファイバースコープが映し出した燃焼室の真実
今回の担当医は、同店のベテランメカニック・熊澤氏。ル・マン24時間耐久レースにメカニックとして帯同した経験を持つ、本物のプロフェッショナルだ。
早速、エンジン燃焼室クリーニングの準備が始まる。カバーを外し、イグニッションコイルを引き抜く。事前にフロントスタッフからは「年式ゆえに固着して外れない場合がある。交換を覚悟のうえで作業を進めるか、作業を中止するかは判断を任せる」と説明されていたが、幸いにも問題なくスムーズに取り外すことができた。スパークプラグも取り外し、これでようやく燃焼室へアクセスできるようになった。

ここでいきなり洗浄剤は注入しない。まずは現状把握のため、ファイバースコープを挿入して燃焼室内部をチェックする。Audi A5 Cabrioletの2.0Lターボエンジンは直噴ユニットであり、構造上、吸気バルブ周辺にカーボンが堆積しやすく、過去の乗り方が如実に現れるポイントでもある。真っ黒に汚れた暗黒世界を予想し、ライターとしての「おいしいネタ」を期待して熊澤メカのスマートフォン画面を覗き込んだ。
「少し黒くなっていますけれど、十分きれいですね」

まさかの診断だった。4気筒すべてが良好な状態を維持していたのである。これでは地雷を踏んだ格好のネタにもならない。「でも、一応洗浄はするんですよね?」と未練がましく尋ねると、熊澤メカから予想外の答えが返ってきた。
「今日は洗浄しない方がいいです」
カーボン除去に用いるワコーズRECSは優れた洗浄力を持つ一方、強制的に汚れを落とすため、O2センサーやキャタライザーなどの重要部品にダメージを与えるリスクを伴うという。汚れが軽微であれば、あえてリスクを冒す必要はないというプロの誠実なアドバイスだ。目的だったクリーニングは見送る結果となったが、ファイバースコープによってエンジン内部の健康状態が証明されたことは、何物にも代えがたい収穫となった。
精神の安定を求めて。今後の基準となるエンジンオイルに交換
燃焼室の洗浄は見送ったものの、手ぶらで帰るのは味気ない。格安中古車の世界はコストにシビアだ。納車時にオイル交換は実施されていたが、何が入っているのかは分からない。精神の安定と安心を買うため、エンジンオイル交換を追加で依頼した。
同店ではモチュールやリキモリ、オリジナルブランドのデュラセアなど、Volkswagen・Audiに適しながらも特徴の異なるオイルを多数取りそろえている。迷った筆者はスタッフに相談し、街乗りや短距離移動が多いライフスタイルを考慮して、VW認証 504.00 / 507.00をパスし、コールドスタート時の保護性能に優れた「FUCHS TITAN GT1 PRO C3(5W-30)」を勧められた。

交換後の帰路では、何かひとつが突出しているわけではないものの、すべての性能が高い次元で美しい真円を描くような、なめらかで実直な回転フィールを体感できた。バランスに優れたオイルであり、今後のオイル選びの基準としてまずFUCHSを使うのがおすすめだという店側のアドバイスにも納得した。
酷暑を生き抜く予防医学。数値で見るエアコンガスの劇的ビフォーアフター
続いてはエアコンガス交換だ。こちらも現在の作動状況やガス漏れの有無を調べることからスタート。専用機器を接続し、現在のガス量と吹き出し温度をチェックしていく。

エアコンガスは、新車時であっても規定量を100%満たしていることはまれだという。少なすぎればコンプレッサーの摩耗を早め、多すぎれば気化不良による深刻なトラブルを招く。だからこそ、規定値の上限ぎりぎりを狙った緻密な充填が求められる。
同店の専用機器は低圧と高圧の圧力をモニターしながら、真空引きを行った状態でガスとオイルを正確に交換。不純物の混入を防ぎ、システム全体のトラブル予防にもつながる。

約90分の作業を経て、示されたデータは次のとおりだ。
| 項目 | 作業前 | 作業後 |
|---|---|---|
| エアコン吹き出し温度 | 7度(外気温28度) | 6度(外気温29度) |
| エアコンガス量 | 397g | 550g(規定量充填) |
| エアコンオイル量 | 9g | 19g |
経年車としては妥当な減少量ではあったが、今回の充填により冷却効率は確実に向上した。さらに、万一の漏れに備え、UVライトで発光する蛍光剤入りオイルも注入するという念の入れようだ。これでもう、日本の酷暑を必要以上に恐れることはなさそうである。
最後に、ファイバースコープで撮影した燃焼室内部の画像と、エアコンガス交換時の数値が記された記録紙を受け取り、この日の作業は完了となった。

健康体とわかった途端、忍び寄る「次なる物欲」
取材にあたり、「格安中古車の落とし穴」に突き落とされる筆者の姿をお届けしようという目論見は、前回に続いて良い意味で崩れ去った。コンディションチェックだけでなく、まさかエンジン内部まで健康体だったとは。我がAudi A5 Cabrioletは、走りに関して言えば格安中古車の風上にも置けないほどの掘り出し物だったのである。

トラブルがないのは素晴らしいことだが、クルマ好きとは業の深い生き物だ。車両に急を要するウィークポイントが見当たらないとなれば、貯めておけばいいものを、初期メンテナンス費用として考えていた予算を次はどこへ投じようかと物欲が湧き、思案してしまう。激しく汚れるブレーキダストへの対策か、それとも経年劣化が進んでいるはずのショックアブソーバー交換か。
どうやら現在、クルマよりも筆者のECUと財布の方が、よほど大きなトラブルを抱えているようだ。
(Text & Photos by Saito Atsuki)
■著者プロフィール
斎藤充生(さいとうあつき) タイヤメーカーの販売ディーラー、出版社での広告営業を経て、現在は自動車系ライターおよびWeb広告運用を手がけるフリーランス。遠回りを重ねたキャリアならではの視点で、クルマと市場の両面を捉えた発信を行っている。愛車遍歴はOpel Signum、Mazda RX-7 Cabriolet、Alfa Romeo MiToなど、一貫性よりも個性を重視。無類の中古車好きとして知られる。二児の父。


