「アウディ80」は、必ずしもエモーショナルなクルマではない。とはいえ、アウディの象徴ともいえるこの車にはファンが多く、後期型はH(クラシックカーライセンス)公認に近いものさえある。eBayでは、現在、5気筒エンジンを搭載した「アウディ80 2.3E」がファーストオーナーのものとして出品されている。しかもこの価格で!?
※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。
「B4」世代の「アウディ80」は、1991年に発売された。1986年から生産されていた「B3」のマイナーチェンジ版という印象が強かったが、アウディは「B4」の開発に力を注いだ。
「B3」は、トーションクランク軸のため、ラゲッジルームが非常に角張っていることが批判の的となった。この後継モデルでは、リアにツイストビームを採用した(FFモデルでは)。しかし、そのためには、リアエンド全体を設計し直さなければならないので、「言うは易く、行うは難し」であった。
ホイールベースは66mm(クワトロモデルは60mm)延長され、全長も8cm長くなった。また、タンクを後輪の間に水平に設置できるようになったこともプラスに働いた。
ビジュアル面ではどうだろうか?すべてのイノベーションはほとんど何も見えなかった。最大の違いは、ラジエターグリルが一体化した新型ボンネットと、標準装備されたペイントバンパーである。
しかし、「アウディ80 B4」は短い期間しか販売されず、サルーンは早くも1994年に新型「A4 B5」に取って代わられ、「80アバント」は1995年まで販売されていた。
走行距離約179,000km
eBayでは、現在、1993年製のよく整備された「アウディ80 2.3E」が出品されている。ボンネットの下には133馬力と186Nmのトルクを発生する2.3リッター、5気筒エンジンを搭載し、全長4.48mのアウディを200km/hまで加速させる。179,050kmの走行距離にもかかわらず、車の状態は良好だ。売り手(顧客の代理としてこの車を提供している)によれば、今回の出品車は非常によく整備された状態であるとのことだ。
これは、「アウディ80」がオリジナルの手付かずの状態であることを示す写真からも確認できる。インテリアを見ると、このインゴルシュタット製の車が17万9000km走行しているにもかかわらず良好な状態で、丁寧に使用されてきたことが見て取れる。
それでも29年前の車だから細かな不具合は避けられないものの、売主はそれを正直に指摘する。ボンネットの小さな塗装欠け、運転席ドアのへこみ、助手席側のミラーハウジングの傷などだが、どれもワイルドなダメージではない。あまり嬉しくないのは、サービス(整備)手帳が見つからなかったことだ。つまり、メンテナンスの履歴をたどることができないのだ。
アウディの車検は2024年7月までだが、タイミングベルトの最終交換時期は12万km時点と思われ、そろそろ新しいベルトが必要だ。前回のオイル交換も4年も前なので、交換時期となっている。
基本的に「アウディ80」は堅実なクルマだ。完全亜鉛メッキのため、錆びという言葉はない。最も弱いのはフロントアクスルで、サスペンションジョイントは比較的早く摩耗し、ウィッシュボーンのゴムブッシュは多孔質になってしまう。
出品者によれば、今回出品されている「アウディ80」は、ボンネットとトランクリッドはすでに再塗装されているものの、事故歴はないとのことだ。来年にはH(クラシックカーライセンス)登録が可能になるが、オリジナルの状態を考えれば、まず問題ないだろう。そして最後に価格の問題だが、この「アウディ80」は6,990ユーロ(約105万円)と提示されており、状態からすれば、まずまずの価格と思われる。
最も安いアウディ80は、1,000ユーロ(約15万円)以下で購入できる
最も安い「アウディ80」は1,000ユーロ(約15万円)以下で手に入るが、そのような車は使えるケースはほとんどない。さらに、5気筒のモデルはかなり少なく、それに応じて価格も高くなる。3,000ユーロ(約45万円)以下で走行可能な「2.3E」を見つけることができるのはごく稀だ。メンテナンスの行き届いた個体は5,000ユーロ(約75万円)前後から。クーペとコンバーチブルは通常、より高価で取り引きされている。
遠目で判断する限り、これはオリジナルの無改造の状態のワンオーナーカーである。タイミングベルトの交換と、ちょっとした整備に少し予算を割けば、この「アウディ80」は日常的に使える忠実なクラシックカーになるはずだ。来年からは、税金や保険の面で好条件となるH(クラシックカーライセンス)ナンバーも取得できるはずだ。
【ABJのコメント】
この「80」が現役だったころ、街にはBMWの「3シリーズ」と「メルセデス・ベンツ190」が並んで走り、3台でゲルマン自動車バトルを繰り広げていた、そんなころのアウディの一台である。ドライバーカーの色合いの強かった「3シリーズ」、安定の小さな高級車であった「190」に対し、アウディは先進技術という武器で勝負していたと思う。特にその空力特性を重視したルックスとクアトロシステムという二つは従来のアウディのイメージを、大きく前進させていたといえよう。
そんな1993年モデルのアウディも来年で30年。なんとも早いというか、もうそんなになっちゃいますか、という感じの時間の経過ぶりである。実際にこのアウディと同年代の車を街中ではあまり見なくなったし、一般的な中古車屋で、20万円程度で売られていたのもずいぶん昔の話になってしまった。
さて今回の緑色の一台はかなり程度が良好だ。内装もきれいだし走行距離を考えればかなりの上等な一台なのではないかと思う。その価格は底値を知っているだけになかなか高い、ともちろん思うけれど、あの当時のアウディの、もはやクラシックカー(とはやっぱり思えないけれど)の域の一台と考えればまあ納得はできるだろう(30年間、程度良く存在し続けてきたと考えれば、よりそう思える)。
今のアウディよりずっと特色のあるようにも思える一台、当時あこがれていた人になら、お勧めしてもいいのではないだろうか。
(Text by Jan Götze / Photos by ebay.de/bipostomotor)