Audi初のプラグインハイブリッドカー「Audi A3 Sportback e-tron」に試乗。TFSIエンジンと電気モーターが生み出す新しい走りをチェックする。
※2015年10月15日の記事を再構成して掲載しました。
TFSIエンジンと電気モーターを組み合わせたモデルとしては、これまでもAudi Q5やA6、A8のhybridが日本でも販売されたが、Audiが電気自動車に分類する「e-tron(イートロン)」が日本に導入されるのはこれが初めてだ。
Audi A3 Sportback e-tronは、1.4 TFSIエンジンと80kWの電気モーターに加えて、大容量の駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載するプラグインハイブリッドカー(PHEV)だ。PHEVだけに、外部から駆動用バッテリーの充電が可能で、満充電の状態なら電気だけで最長52.8kmの走行が可能である。これは立派な電気自動車であり、Audiが「hybrid」ではなく、「e-tron」と呼ぶのも納得がいく。
さて、今回試乗車として用意されたのは、S lineパッケージのほか、パノラマサンルーフやLEDヘッドライト、プライバシーガラス、Bang&Olfsenサウンドシステムなど、オプション"てんこ盛り"の仕様で、さらに、日本のA3 Sportbackとしては唯一選べるルーフレールをが装着されている。後ろからの眺めはSportbackというよりもAvantという印象だ。
コックピットのデザインもガソリン車とは明らかに異なっている。一番の違いは専用のメーターを装着していること。左側には回転計の代わりに"パワーメーター"が配置されているのだ。
また、ダッシュボードの中央には、見慣れない「EV」ボタンが追加されている。このEVボタンを操作することで、走行モードを変更することができる。走行モードには、電気で走る「EV」に加えて、3種類のハイブリッドモードが用意されている。通常の「ハイブリッドオート」のほか、バッテリーの残量を維持しながら走る「ハイブリッドホールド」と積極的にバッテリーを充電しながら走る「ハイブリッドチャージ」である。
シフトレバー脇にあるスタートボタンを押してシステムを起動すると、パワーメーターの針が「READY」を指し示す。起動直後の走行モードは「EV」で、DISの下にはEVモードを示すアイコンが表示される。
ここからの操作はガソリンエンジン車と変わらない。シフトレバーをDレンジに入れてブレーキから足を離すと、クルマはゆっくりと動きはじめた。
EVモードではアクセルペダルを奥深く踏んだり、シフトレバーをSレンジに入れないかぎりは電気モーターだけで走行を続けるのだが、その加速は発進から驚くほど力強く、スムーズで静かだ。動き出してからも、アクセルペダルの動きに素早く反応し、上限100km/hという日本の道路環境なら常にトルクに余裕があり、流れをリードする実力がある。
通常の電気自動車が固定式ギヤを採用するのに対して、Audi A3 Sportback e-tronはEV走行時にも6速Sトロニックを介するところ違う。シフトチェンジの際のショックは皆無で、スピードを上げてもモーターやコントロールユニットの音が気になることはなかった。
ここで、前述のEVボタンを押すと、MMIディスプレイに現在の走行モードが表示され、続けてボタンを押すと、次のモードに切り替わる。もちろん、MMIコントローラを使えば自由にモードを選ぶことができる。
一般的なハイブリッドモードである「ハイブリッドオート」に切り替えて走行を続けよう。ハイブリッドモードでも発進はモーターが担当し、ある程度スピードが上がったところでエンジンにバトンタッチ。といっても、エンジンだけで走るわけではなく、アクセルを踏み増した瞬間などにはこっそりモーターがアシストするから、その加速は1.4 TFSIのレベルではなく、2L超級の力強さである。しかも、瞬時にトルクを発揮するモーターだけに、ハイブリッドモードであってもレスポンスの良い加速を見せてくれるのだ。
一方、アクセルペダルを緩めたときには、エンジンとSトロニックをつなぐクラッチを開放してエンジンを停止するとともに惰力走行を行い、ガソリンをセーブ。この状況からの軽い加速であれば、モーターの力だけで済んでしまうこともある。
ここでシフトレバーでSモードを選ぶと、シフトプログラムがスポーツモードに切り替わるとともに、モーターがより積極的にエンジンをアシストするようになる。おかげで、アクセルペダルを少し多めに踏むだけでも、パワーメーターは"BOOST"のエリアを指し示し、その加速はまさに痛快そのものだ!
アクセルオフの挙動もDレンジとは異なる。モーターを発電機として利用してブレーキの役割を果たす"回生ブレーキ"を積極的に使い、アクセルペダルによるスピードコントロールをよりダイレクトなものとしているのだ。
Dレンジ、Sレンジのいずれを選んでも、スポーティなドライビングが楽しめる「ハイブリッドオート」。これに対して「ハイブリッドホールド」はEV走行の比率が少なくなり、エンジンの出番が多くなる印象だ。
さらに「ハイブリッドチャージ」はハイブリッドオートとは対照的にエンジンを積極的に使うぶん、少し動きが重たく感じるのと、目に見えて燃費が低くなった。どうしても電気モーターで走らなければならないエリアに向かうときを除いては、使う理由はないだろう。そもそも、バッテリーが少ない状態でも、ガソリンを入れさえすれば走れるのがPHEVなのだから。
Audi A3 Sportback e-tronの乗り心地は適度に硬めだが十分に快適なレベル。Audi A3
Sportback 1.4 TFSI cylinder on demandに比べて車両重量が200kg強増えているが、ゴツゴツした乗り心地になっていないのがうれしいところだ。
さらに、バッテリーなどの重量物をリヤアクスル手前の低い位置に収めているために、安定感が増すとともに、フロント軸の荷重が減ったことでコーナーでの動きは思いのほか軽快なのだ。「ハイブリッド車やPHEVは運転がつまらない」とよくいわれるが、このAudi A3 Sportback e-tronは例外である。
ふだんの走行距離が短い人ならガソリンを使わずに済むというメリットがあるが、ハイブリッドモードを多用する使い方でも、スポーティで楽しい走りが体験できるAudi A3 Sportback e-tron。試乗会という限られた時間でのテストだったため、EVモードでの航続距離や実燃費などはチェックできなかったものの、クルマとしての完成度は高いことは確か。機会を見て、その実力をじっくり試そしたいと思う。
(Text & Photos by Satoshi Ubukata)