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「むかし、なぜ医者はフォルクスワーゲン/アウディばかり乗ったのか?」

その理由を考えてみました!
昔から思っていることがあります。それは、坊主がスクーターに乗っているイメージが強い以上に、医者がフォルクスワーゲンかアウディに乗っているイメージが強いということです。一般論として、お医者さんは昔から収入が多く、その気になればメルセデスやBMWも買えるはずですが、統計的数字をみたことはないものの、割合としてフォルクスワーゲンやアウディが多いような気がします。とくに昔ながらの町医者(開業医)さん。

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最近は疑問をもっても簡単なものです。Yahoo! 知恵袋でもよいのでしょうが、どうせならお医者さんに聞いたほうが早いと思い、フェイスブックで友達になっていただいている医師のKさんに、

「子供の頃に近所の整形外科の先生がフォルクスワーゲンシロッコに、また町内の歯医者さんはアウディ100に乗っていたせいだと思うのですが、医師の方々の普段のクルマはフォルクスワーゲンかアウディというイメージが強いです。そして、それはわりと『そういいえば、そうだね』といってもらえ、そこそこ間違いじゃないと思っています。何か理由を思いつかれますか?」

と、質問してみました。するとKさん、お忙しいだろうにもかかわらず、数日後に分析して返してくださいました。以下にその分析を紹介します。

「我々の世代では、もうフォルクスワーゲン/アウディばかりではないようにも思いますが、確かにちょっと前の、医者の待遇が今よりもっと良かった時代には先生方が好んで乗っていた印象がありますね。

質問の意味を考えてみると、勤務医の乗っているクルマは、大病院の駐車場内では誰のクルマなのかわかりにくい。だから(塩見さんがそうしたように)患者さんから『あの先生のクルマ』として認知されやすいのは、(大病院ではなく)いつもの医院の駐車場にあったクルマということでしょうか。つまり、開業医が通勤に使っていたクルマということでしょうかね。そこにフォルクスワーゲン/アウディが多かったと(塩見さんはじめ)多くの人に思われている。もちろん、国産車党もいたのだろうけど、その場合、よっぼど変わった車種でなければ人々の記憶には残りにくいでしょうから。

そこで、以下に理由を勝手に推察してみました。

仮説1:ヤナセ起因説。開業医はすなわち自営業者です。特に自営業者の顧客が多く、昔から医師会員との結びつきも強かったといわれるヤナセが、フォルクスワーゲン/アウディの唯一の正規販売代理店だった影響が大きいんじゃないですかね。メルセデス・ベンツやキャデラックなどを買った顧客が、付き合いで同じディーラーからセカンドカーとしてフォルクスワーゲン/アウディを選ぶことが多かった。毎日の通勤に活躍したのがこのセカンドカーの方なのでしょう。毎月送られてきた『YANASE LIFE』誌面に登場するユーザー紹介欄そのままの図柄です。そのため、1992年にヤナセがフォルクスワーゲン/アウディの販売から撤退し、オペルを扱い始めた頃にはアストラやヴィータに乗っていた先生も多かったように思います。

仮説2:ドイツ嗜好説。医師は普段から医療現場で使う『Carl Zeiss』や『Zimmer』、『Siemens』といったドイツ製工業製品の高い信頼性を十分に実感しています。通勤や往診に使うクルマがしょっちゅう壊れていてはイザという時に困るので、イタリア車やフランス車を敬遠し、信頼性の高いドイツ車を選ぶ傾向にあるのかもしれません。その際、往診で狭い道を通れないと困るので、かつては大きいモデルしかなかったメルセデス・ベンツは使いにくく、手頃な大きさのアウディ80や徳大寺先生も絶賛のゴルフが重宝されたのではないでしょうか。当時、まだBMWの日本法人もできていなかったし。でも190が登場した以降はメルセデスも増えた気もしますね。現在では、その役割の一部をスマートまでが担っていたりもします。

仮説3:会計事務所誘導説。自営業で経費化しやすいクルマという選択肢の中から、自分が乗りたいクルマを選ぶと自然とフォルクスワーゲン/アウディになったのではないでしょうか? 会計事務所が税務署から目を付けられにくいと勧めるのは無難な4ドア車。だから"牛"や"馬"は論外で、ポルシェも趣味性が高すぎてダメと言われてしまいます。でも、税務上はあくまで車検証上の車名で判断されるので、4ドア車が一般的なメーカーのクルマなら、他のボディ形状でも大丈夫らしいです。シロッコだって、車名が『フォルクスワーゲン』だからOK。だったら最近のR8やパナメーラは経費化可能なのか、ご存じの方、教えてください」

なるほど。この3つの理由が絡みあった結果といえば、もうこれだけで納得できます。

■メルセデス190登場の衝撃

そこへ、Kさんの知り合いでやはり医師のYさんから、

「塩見さんが子供の時というと、プロフィールに『1992年高校卒』とありますから1980年代ということになりますよね。その当時、輸入車にどのような選択肢があったのかという面からも考えてみたいと思います。そこで『外国車ガイドブック』(1979年版)から正規輸入のクルマを見てみると、近所の目をそばだてず、税務署の注意をひかないものとなると、

・アメリカ車では、シボレー・シェベットのみ。 →だったらジェミニ買います。

・イギリス車では、フォード・コルチナのみ。 →日本車と変わりない外見。近鉄モータースの販売力では量販は無理。

・イタリア車は、フィアット131、アルファロメオ・アルフェッタ。 →自分の経験から、年の1/3は整備工場泊まり。

・フランス車は、ルノー5、シトロエンGS1220。 →同じく年の1/3は整備工場泊まり。

・スウェーデンでは、定番ボルボ244。 →でかくて野暮ったい。

・西ドイツは、ゴルフ、パサート、シロッコ、アウディ80。 →日本車ほどでは無いが故障も少なめ。ヤナセのサービスネットワークも魅力。


このような状態は、1985年にメルセデス・ベンツ190が発売されるまで、ほとんど変わらない状態でした。となると、通勤用に購入するとなれば、よほどの趣味性か、何かしがらみでもない限り、輸入車はフォルクスワーゲン/アウディ系に収束してしまうのではないでしょうか」

という、多少の個人的好みも入り交じった分析もいただけました。おふたかたの分析をまとめると、

・今ほど選択肢がなかった。

・かつて「ガイシャ=ヤナセ」といっても過言じゃないほどにヤナセが全国の富裕層に浸透していた。

・医療器具ですでにドイツ製品に対する信頼性があった。

・税対策上も"派手じゃない4ドアの会社"という印象のメーカーである必要性があった。


ということになりそうです。それら複数の原因があいまって、そして85年以降、メルセデスも(欧州)Dセグメントにまで降りてきて、"医師=ドイツ車好き"と"医師といえばドイツ車"というイメージができたのかもしれませんね。僕が想像したのは、ドイツは刃物が有名なので、メスなどの医療器具にドイツ製品が多く、そのためドイツ製品に対して信頼を寄せていたことが関係しているのでは? という点のみでしたが、それだけじゃなかったようですね。

それにしても、メルセデス・ベンツ190というのは、"庶民が初めて夢見られたメルセデス"であったと同時に、お医者さんにとっては、"通勤や往診に使えるメルセデス"だったんですね。バブル期には「小ベンツ」などと揶揄され、徳大寺さんが著書で激怒していたのを覚えています。が、今思えば、その言い方はプロダクトを正しく表しているわけではありませんが、うまく当時の時代性をあらわしていて、言い出した人は結構うまいと思いますが、いかがでしょう?

そしてもうひとつ。80年代の、BMWに端を発する外国メーカーの日本法人設立の波にのまれ、ヤナセは輸入権をもつインポーターから、いち(巨大)ディーラーとなっていくわけです。かつて「いいものだけを世界から(ただし世界一高く)」なんて言われ方もしましたが、日本で最初にガイシャ販売のノウハウを蓄積した会社であることは間違いありません。なにせフォルクスワーゲンからオペルに切り替えたら、いっときとはいえオペルのほうが売れたりしたわけですから。今でも、自分たちが無理して100%出資の現地法人をつくるより、ヤナセに売ってもらったほうが、よっぽど販売台数が増えるような気がするブランドもありますが、それはまた別の話ということで、すごく気になっていたわけではないけれど、ふわっと長年疑問に思っていたことが氷解し、気分がいいです。

(Text by Satoshi Shiomi)

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