Volkswagenブランドのトップとして就任から3年を迎えたトーマス・シェーファーCEOが初来日し、都内で開催されたイベントで日本のファンや報道陣と交流した。ブランド再生を掲げる同氏は、グローバルで進む構造改革や新たな電動化戦略を説明するとともに、日本市場の重要性を強調。新型EV「ID.Polo」「ID.Cross」の導入に強い意欲を示した。

画像: VWブランドCEOが語るブランド再生と日本市場への意欲

フォルクスワーゲンの再生に向けた3年間

シェーファー氏は2022年にVolkswagenブランドのCEOに就任して以来、「過去最高のVolkswagenを再構築する」という明確なゴールを掲げてきた。デザイン、クオリティ、ユーザーエクスペリエンスを軸にブランドの再生を進め、社内では「Volkswagen Boost 2030」という中期戦略を推進中だ。

この戦略では、2030年までに「テクノロジーでリードするボリュームメーカー」となることを目指し、製造コストや会議体の削減などを含む抜本的な改革を実施。ドイツ国内の工場コストを20%削減し、社内ミーティングや委員会は1/3に圧縮したという。また、2030年までに約2万人が退職する計画を合意済みとし、経営のスリム化を着実に進めている。

シェーファー氏は「3年前には不可能と思われたことを実現できている。今や会社はより安定し、新しい製品開発にも十分な投資ができる体制になった」と自信を見せた。

日本市場は「特別な存在」

今回の来日には複数の取締役も同行し、日本法人のチームとも交流した。Volkswagenが日本に進出してから70年を迎える節目に、同氏は「日本は私たちにとって非常に重要な市場」と強調。

「駐車場にはアイコニックなクルマがずらりと並んでおり、ブランドが長年にわたり愛されてきたことを実感した」と語る。さらに、今後は「日本市場に合った魅力的な商品を導入することが成功の鍵」とし、「ID.Polo」「ID.Cross」を日本向けラインアップに加える意向を示した。これらのモデルについては「日本にぴったりのサイズであり、ブランドの未来を象徴する存在」と位置づけている。

同行したセールス・マーケティング・アフターセールス担当取締役のマーティン・サンダー氏は、日本のファンコミュニティの情熱について「700km離れた場所から車中泊して来場した方もいた」と紹介。

「ドイツから12時間かけて訪れても、ここにこれだけのファンがいる。Volkswagenのブランドがいかに世界中で根付いているかを感じた」と述べ、「この強固なファンベースこそがブランドの最大の力」と評価した。

今後は「デザイン、クオリティ、ドイツらしいエンジニアリングをまとった次世代商品を続々投入する」と述べ、ブランドの未来に自信を示した。

画像: 日本市場は「特別な存在」

電動化戦略とハイブリッド展開

電動化への取り組みについてシェーファー氏は、「2030年までにテクノロジーでリードするブランドになる」と明言。ミュンヘンモーターショーで披露したアーバン向けEV群を例に、「数百万人が手にできる電気自動車を実現することがテーマ」と説明した。

また、近年「欧州ではEV需要が減速している」との報道もあるが、同氏はこれを否定。「需要そのものは伸びており、予想よりペースが緩やかなだけ」と説明した。Volkswagenは欧州のEV市場で首位を維持しており、ID.4はグローバルで最も売れている電動モデルだという。「われわれの戦略が正しかったことを、販売実績が裏付けている」と自信を示した。

さらに「将来は間違いなく電気の時代になる。そのスピードが多少異なるだけで、方向性は確実」と述べ、電動化路線を明確に位置づけた。

一方で、国や地域によって電動化の進度が異なる現状を踏まえ、「お客様のニーズを聞いた結果、T-Rocについてはフルハイブリッドを採用する」と述べ、柔軟な商品戦略を取る姿勢も示した。「電動化への方向性は揺るがないが、すべてを一律には進めない」と語り、地域ごとに最適解を探る考えを示している。

「ラブブランド」再構築の進捗

就任当初から掲げる「ラブブランド戦略」について問われると、「商品・デザインの刷新はすでに完了し、今後はそれを市場に送り出す段階にある」と説明。ブランドへの信頼回復は順調に進んでいると述べた。

また、電気自動車の価値について「デザインの自由度が高く、室内空間を広く取れるのはEVならではの魅力。ID.Poloは外観はPoloサイズでも、室内はGolf並みの広さがある」と強調した。

一部モデルで品質面の指摘を受けた過去について問われると、シェーファー氏は「確かに課題はあった」と認めた上で、「クオリティはCEO自身が責任を持つべきテーマ。毎週の取締役会でも最重要議題として扱っている」と明言。

「ハードウェアもソフトウェアも改善に注力した結果、現在は品質が安定している」と述べ、ブランドの信頼回復に向けた取り組みが進展していることを強調した。

気になる次期Golfの行方は

長年Volkswagenを代表してきた「Golf」について、シェーファー氏は詳細に言及した。

「現行のGolf 8.5は過去最高の完成度です。ポジショニングは完璧で、これから10年乗っても色褪せない」と語り、現行モデルへの自信を示した。さらに「来年はGTI誕生50周年を迎える。8.5世代は当面の主力として継続し、Golfというブランドの核を支え続ける」と説明した。

一方で、次世代Golfについては「SSP(次世代EVプラットフォーム)を採用した電動モデルとして開発を進めており、方針に変更はない」と明言。欧州市場での導入時期は2030年代初頭を想定しており、「刷新された商品群を市場に送り出す今、最終判断までにはまだ時間がある」と語った。

この発言からは、現行内燃モデルを維持しながら、将来に向けて電動化を進める“二層構え”の戦略がうかがえる。すなわち、Golf 8.5を通じて既存の顧客層を維持しつつ、次世代EV版Golfで未来へ橋をかけるというアプローチだ。

日本市場でEV普及を進めるには

電動化が進まない日本市場での課題については、「まずは実際に乗ってもらうことが一番」と述べ、体験機会の拡大を重視。「走りの良さや静粛性、ワクワク感を体感してもらえれば理解される」と語った。

また、「お求めやすい価格のEVが不可欠」として、ID.PoloやID.Crossがその役割を担うと説明。「プラグインハイブリッドも選択肢ではあるが、方向性は明らかに電動化だ」と言い切った。

日本特有の軽自動車のような小型モビリティについて問われると、シェーファー氏は「ヨーロッパでは軽自動車は必要ない」と否定的な見解を示した。

「2万ユーロ以下のEVといったエントリーモデルは必要だが、軽自動車のような極小モビリティはこれまでうまく機能してこなかった」とし、フォルクスワーゲンとしてはあくまで“グローバルスタンダード”な小型車で勝負する方針を強調した。

Volkswagenは現在、ブランド再生と電動化戦略を両輪で推進している。シェーファー氏は「これからの10年でVolkswagenを再び最強のブランドに戻す」と力を込め、「日本でもその歩みをともに進めていきたい」と締めくくった。

直前の「VW Weekend Meetup」では、「この2年間は、ブランドの立て直しや復活に多くの時間を費やしてきました。 Volkswagenをもう一度力強く再生させることを最優先として取り組んでいたため、日本市場に十分な時間を割けなかったのが現実です。しかし、本社でもさまざまな議論を行い、これからはより一層日本市場にフォーカスして取り組んでいく方針を確認しました。実際に昨日も、“こうしたことをぜひ実現してほしい”“このモデルを日本に導入してほしい”といった具体的な指示や目標設定を行いました。今後は日本市場をさらに盛り上げるため、私たちも一層の努力を重ねてまいります」と述べたシェーファー氏。

日本のVolkswagenが輸入車ナンバーワンの座を取り戻すことはあるのか? Volkswagenの今後の取り組みに注目したい。

(Text & Photos by Satoshi Ubukata)

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