ついに日本に上陸したフォルクスワーゲンのフル電動ミニバン「ID.Buzz」を国内で試乗。後編ではその走りや電費についてレポートする。

余裕ある加速性能
車検証を見ると、日本仕様の「ID.Buzz Pro Long Wheelbase」の車両重量は2730kgと記されている。試乗車にはオプションのパノラマガラスルーフが装着されているため、標準よりも10kg重い。かつて輸入された「Touareg W12」が2540kgで驚いた記憶があるが、このID.Buzz Pro Long Wheelbaseはそれをさらに上まわり、正規輸入されたフォルクスワーゲンとしては、おそらくもっとも重いのではないだろうか。
それだけに、この重量級モデルの加速性能が気になるが、560Nm(57.1kgm)の最大トルクを0〜3581rpmで発揮する電気モーターがそんな心配を吹き飛ばしてくれる。ブレーキペダルから足を離し、クルマがゆっくりと動き出したところで軽くアクセルペダルを踏んでやると、ID.Buzzはスムーズに加速を始める。アクセル操作に対するモーターの反応は早すぎず、遅すぎずのちょうどいい味付けで、加速そのものも重量級のクルマであることを忘れてしまうほど余裕がある。

アクセルペダルの初期のストロークでも十分な加速が得られるが、さらに踏む込むとより素早い加速が手に入る。これなら高速道路への流入といった場面でも安心で、さらに120km/h程度までなら伸びやかな加速が楽しめるので、少なくとも日本の道路環境であれば、加速に不満を覚えることはないだろう。
走行モードをコンフォートからスポーツに切り替えると、アクセルペダルの踏み始めの反応が少し活発になる。一方、アクセルペダルを大きく踏み込んでしまえば、コンフォートもスポーツも大差ない印象だ。
EVやハイブリッド車ではおなじみの回生ブレーキは、コンフォートモードでDレンジを選んだ場合にはほとんど利かずにコースティング(惰力走行)するのに対して、Bレンジに切り替えると、やや強めの回生ブレーキが利き、通常の走行ならフットブレーキをあまり使わずに済むはずだ。
一方、スポートモードでは、Dレンジでも回生ブレーキが利くようになるが、その強さはコンフォートモードのBレンジよりも少し弱い印象。スポーツモードでもBレンジが使えるが、その強さはコンフォートと同レベルだ。

EVならではの落ち着いた走り
床下にバッテリーを積むEVは、ボディが重く低重心なのが幸いして快適かつ落ち着いた乗り心地が楽しめる……ということがよくいわれる。もちろんそれは一般論であり、サスペンションの味付けやタイヤの選択などによって、かならずしもそれが当てはまるとはかぎらない。
その点、このID.Buzz Pro Long Wheelbaseは期待を裏切らない。その名前のとおり、長いホイールベースも手伝って、走行時の挙動は穏やかで落ち着きがあり、乗り心地もマイルド。高速道路を走行する際も、フラットさは上々である。目地段差を通過する際のショックも巧みに受け流し、ダンピングコントロールやエアサスペンションなしでこの仕上がりとは驚きである。

後輪駆動ということで、高速走行時の直進性を少し心配したが、ふだん私が乗る「ID.4 Pro」よりもむしろ直進安定性は上に思えるほど。そのせいか、同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”を使用する際、ステアリングの介入はID.4よりも少なく、ロングドライブも苦にならない。
ちなみに、日本仕様のID.Buzzは、アクセルペダルの右側に、ちょうど右足を置けるスペースがあり、ACCやTravel Assistを利用するときに、足の置き場に困らないのもうれしい。

電費はほぼカタログどおり
今回の試乗では、電費をチェックすることもできた。ID.Buzz Pro Long Wheelbaseの電費は、カタログ値(WLTCモード)が173Wh/km(5.8km/kWh)、市街地が148Wh/km(6.8km/kWh)、郊外が163Wh/km(6.1km/kWh)、高速が193Wh/km(5.2km/kWh)であるのに対して、実測値は、空いた一般道を走行したとき(平均速度37km/h)が6.0km/kWh、高速道路をACCを使って100km/h巡航したときが5.6km/kWh、300kmを走行した総平均が5.2km/kWhと、カタログ値とほぼ同等だった。
今回は試乗時間の関係で急速充電を試すことができなかった。資料によれば、日本仕様のID.Buzzは日本のCHAdeMO方式の急速充電器で最大140〜150kWの受け入れ性能を持つという。実際、充電の「最適化」メニューを見ると、その時点でのバッテリー残量や温度などの条件から算出された充電電力が表示され、車両を返却する直前には160kW(バッテリー残量28%、気温27℃)とあった。
また、今回は確認できなかったが、気温が低く、バッテリー温度が低いときには、バッテリーヒーターでバッテリーを加熱する、いわゆる“プレコンディショニング”機能が備わっている。その場合は「最適化」メニューにその旨表示されるはずで、冬になったらその機能をぜひ試してみたいと思う。



結論
ワーゲンバスをイメージさせるエクステリア、広い室内、力強くスムーズな加速、快適な乗り心地など、魅力に溢れたID.Buzz Pro Long Wheelbase。純正ナビゲーションが用意されず、通信機能が備わらないとか、V2L/V2Hに対応しないとか、ボディサイズが日本の道路環境にはやや大きいということはあるものの、いま日本で新車で買える電動ミニバンという意味では唯一の存在であり、このスタイルが好きなら、思い切ってID.Buzzと暮らし始めてみるのも悪くないだろう。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Satoshi Ubukata, Volkswagen Japan)