Tayron & Q6 Sportback e-tronを公開
第90回パリ・モーターショーが2024年10月14日から20日まで、市内ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で開催された。ジュネーブ・ショーが消滅した2024年において欧州唯一の国際乗用車ショーとなったパリに、フォルクスワーゲングループはフォルクスワーゲンブランド/フォルクスワーゲンコマーシャル・ヴィークルズ(商用車)、アウディ、そしてチェコを本拠とするシュコダが参加した。フォルクスワーゲンは2016年以来8年ぶり、アウディとシュコダは2018年以来6年ぶりのパリ復帰を果たしたことになる。レイアウトとしては、フォルクスワーゲンブランドとシュコダが隣同士、はす向かいにアウディがブースを構えた。設営はかつてより簡素かつ小規模で、参加にあたって対費用効果を慎重に検討したことが伺える。
報道公開日、最初に記者発表を行ったのはフォルクスワーゲンブランドであった。実は本社セールスマーケティング・アフターセールス担当取締役のマルティン・ザンダー氏が登壇直後、音声・スクリーン動画ともに故障するハプニングに見舞われ、ジャーナリストたちは戸惑ったが、数分後に復旧を果たした。
ザンダー氏は2024年に欧州フォードの総支配人から移籍したばかり。その彼がプレゼンテーションの始めに「私が手に入れたのは、そこにあるクルマと、ほぼ同じでした」と指したのは、ゴルフ誕生50周年展示の初代「GTI」だった。若き日に同型車が自分の家に届いた日の喜びを回顧することで、フォルクスワーゲン愛をアピールしたのだった。
フォルクスワーゲングループ・フランスの代表を務めるドロテー・ボナシー氏は「現在フランスにおいてフォルクスワーゲンブランドの市場占有率は6.8%で、年間では7%台に届くのは確実です」と最新状況を説明した。フォルクスワーゲングループの厳しい経営状況に関するニュースが続く中で、少なくともこの国においては堅調な推移を辿っている。
今回、フォルクスワーゲンブランドは、7人乗りDセグメントSUV「Tayron(タイロン)」を世界初公開した。厳密にいうとTayronの名称は、中国第一汽車との合弁工場で2018年から製造されていたモデルが初代である。今回発表されたモデルによって、欧州などでも初めて用いられることになった。「Tiguan」と「Touareg」の間を埋める位置づけだ。
プラットフォームはMQB Evoを使用。全長×全幅×全高は4770mm×1853mm×1666mmで、ホイールベースは2790mmである。エンジンは1.5リッターマイルドハイブリッドが150ps、2リッター・ディーゼルが150psと193ps、1.5リッター・プラグインハイブリッドが204psと272psである。4MOTION版も用意されている。フランス国内価格は、税込49,800ユーロ(約828万円)から設定されている。
いっぽうアウディは、EV(電気自動車)である「Q6 Sportback e-tron」を初公開した。このモデルについては、本サイトの別記事に詳説されているので、そちらを参照いただこう。
軌道修正、進行中
気になるのは、数々の国・地域で販売の伸びが鈍化しつつあるEVに関する戦略である。ザンダー氏は「私たちの目標は、可能な限り多くのお客様に電動型フォルクスワーゲンへの切り替えを促すことです。魅力的なエントリーレベルの価格は、重要な役割を果たします」と説明。「ID.3」の標準モデル 145kW仕様「Pure(ピュア)」を、2024年末からフランス国内では27,990ユーロ(約465万円)で提供することを明らかにした。参考までに今回のショーで、フランスのルノーが発表した“新世代のキャトル”こと「4 E-Tech 100%エレクトリック」は、2025年から3万ユーロ以下で販売される予定だ。欧州では2万ユーロを切るEVが出揃う前に、こうした2万ユーロ台後半のモデルによって熱い戦いが繰り広げられると筆者は考える。
フォルクスワーゲンコマーシャル・ヴィークルズ・フランスのダイレクター、ギラン・ラフィット氏は、2023年比で部門のフランス国内販売が10%伸びていることを強調するとともに、「ID. BUZZ」の標準仕様「Pure」を47,000ユーロ(約782万円)以下で提供すると明言した。
また、ドロテー・ボナシー氏は、パワーユニット展開について言及。プラグインハイブリッド、マイルドハイブリッド、そして内燃機関を取り揃えることで「フォルクスワーゲンのDNAである手の届きやすい価格」を守ってゆくと強調した。
2024年6月からアウディ・フランスで代表を務めるロベール・ブレスコウ氏も、EV用の「PPE」と内燃機関用の「PPC」両プラットフォームについて、いずれも「より環境に優しくスマートで、よりエキサイティングな移動手段という将来のビジョンを反映しています」と定義。「2024年から2026年に一部改良も含む20の新型車を投入し、内燃機関、マイルドハイブリッド、そしてプラグインハイブリッドを通じて『技術による前進』を実現します」と述べた。
彼らの発言からは、フォルクスワーゲングループが従来のEV強調路線から3種のパワーユニットを併存させる多方位展開へと軌道修正したことが明らかである。その中でEVは、よりユーザーに訴求力ある価格を目指すことを示したかたちだ。
どうする、脱「Polo依存」
出展各社の記者発表がひと段落した夕方、筆者は前述のボナシー氏と話をする機会があった。氏はフランス北部リールのビジネススクールを卒業後、クレディ・リヨネ銀行とルノーを経て2017年フォルクスワーゲングループ・フランスに入社。2024年1月、代表に就任した。
今回、パリにフォルクスワーゲングループが復帰した理由について「人々は自動車を見て、実際に触れたいという欲求に溢れています。したがって、この1週間(のショー)が成功すると確信したのです」と答える。参考までに、ショー主催者発表によると会期中の来場者は、メディア関係者約4000名、コンテンツクリエイター約1000名、そして一般来場者50万8007人であった。会期が約2週間だった時代との比較は難しいが、今回と同様に1週間開催で40万人に満たなかった前回2022年からすると、ひとまず伝統的自動車ショーの面目を保ったかたちである。
プレゼンテーション中の彼女の解説によれば、フランスにおけるID.シリーズは好調だ。2024年は年初と比較して、目下3倍の受注が個人・法人双方から寄せられているという。背景にあるひとつは、充電設備の数だろう。EU域内でフランスは、オランダ、ドイツに次ぐ3位にある(出典:ACEA 2023年)。都市別で見てもパリでは6000基を超え、アムステルダム、ロンドン、ロッテルダム、ハーグに次ぐ5位だ(出典:EVmarketsReports: 2024年)。
ただし同じフランスでも郊外や農村部では、いまだ設備の整備は十分といえない。実際筆者はショー前日に郊外を自動車で200キロメートル近く旅し、それを感じた。指摘する筆者に、ボナシー氏は次のように答えた。「現在フランスには約10万台のチャージングポイントがあります。近い将来15万台に達するでしょう。とくに高速道路網では(郊外でも)すでに充実しています」。すなわち設備の普及加速により、都市部以外でのEV普及の前途も明るいと彼女はみているのだ。
ところでフォルクスワーゲンがフランスでは堅調と前述したが、2024年9月4日付「ロトモビル・マガジン」電子版によると、2024年8月のフォルクスワーゲンブランド販売のうち半数を占めたのは、前年同月比76%増の2200台を記録した「Polo」であった。今なお内燃機関の、それもエントリーモデルが主役なのである。そうした価格帯の顧客をグループ内のシュコダやセアトに移行させ、フォルクスワーゲンブランドやアウディは、現在より収益性が高い、一段高い車格を獲得できるのか。ここ数年が正念場であろう。
(Report & photo 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA)