「EV for all」から「チャイナ・スピード」まで
自動車を含むモビリティーに焦点を当てた展示会「IAAモビリティー」が、ドイツ南部ミュンヘンで2023年9月5日から10日に開催された。同イベントは、2019年までフランクフルトで開かれていたモーターショーが都市と形態を変えて2021年から再発足したものである。
2023年は前回同様、BtoBを対象とした有料のメッセ会場と、一般来場者のために無料開放される市内会場「オープンスペース」の2つで行われた。
VWグループは4日の報道関係者公開日に、メッセでプレゼンテーションを実施した。内容は電動化にとどまらず広範囲にわたるものだった。
VWブランドのトーマス・シェーファーCEOによると、従来のMQBプラットフォームを使用した車両の累計生産台数は、2012年以来すでに約4500万台に達したという。
いっぽうでVWグループのオリヴァー・ブルーメCEOは、次世代のBEV用プラットフォームであるMEB+を、プレミアム・ラグジュアリー用のPPEプラットフォームと合わせて、2024年初頭から2025年に発表することを明らかにした。MEB+は10%の航続距離向上と、20分以内のチャージングタイムを実現する。
いっぽうで、2025年に投入予定のBEV「ID2. ALL」は、2万5千ユーロ(約395万円)以下で販売する予定で、「すべての人にEモビリティをもたらす」と宣言した。
コンファレンスの説明は、インフラストラクチャーの整備にも及んだ。VWグループのトーマス・シュマール技術担当取締役は、充電ネットワークを米欧中で展開中であることを説明。ファストチャージャー4万基を2025年までに設置する計画であることを明らかにするとともに、すでにその半数以上が整備済みであることを報告した。
VWグループの電池セル会社「PowerCo」は、形状を共通化したバッテリー「ユニファイド・セル」でコストダウンに貢献。それはグループ内の車種80%で用いられる予定だ。また、生産するギガファクトリーを、ドイツ、スペインそしてカナダに計画中である。
プレゼンテーションを締めたのは、ラルフ・ブラントシュッテッター中国担当役員だった。彼は、中国がインテリジェント・コネクテッド・ヴィークル(ICV)時代を主導するマーケットとなるとし、VWがそれに引き続き対応してゆくと決意を示した。
そして「中国で、中国のために(在中国 為中国)」というモットーを流暢な現地語で紹介。SAIC、FAWといった長年の合弁先企業に加え、地元のテック企業とも連携し、より中国のカスタマー嗜好に応えてゆくことを明らかにした。さらに2023年夏に提携したEVブランド 小鵬(シャオペン)汽車のもと、2026年からミッドサイズ・モデル2車種を生産しVWブランドで導入することも説明。「VWはチャイナ・スピードを加速させる」と締めた。
EV時代のGTI & 新型パサートが公開される
VWブランドの展示車を紹介しよう。メッセ会場では「ID. GTIコンセプト」が世界初公開された。前述のID. 2ALLを基に、BEV時代のスポーツモデルを模索したものだ。末尾の「I」は、1976年GTIがインジェクションを意味していたのに対し、「インテリジェンス」であるとメーカーは説明する。また、現行ゴルフGTIの電子制御油圧式フロント・ディファレンシャルロックを超える統合制御システムによって、車両のキャラクターを無限に変化させることが可能という。発売は2026年の予定だ。
いっぽう、ミュンヘン市内オデオン広場には、VWブランドの2階建てバピリオンが設営され、一般に開放された。その1階では、9代目「パサート・ヴァリアント」が世界初公開された。プラットフォームにはMQB Evoを採用。全長は14センチメートルも長くなり、後席を畳んだ場合最大1920リットルのラゲッジスペースが出現する。
ボディタイプはステーションワゴン、変速機はATのみで展開される。だがパワーユニットはガソリンエンジン2種類、ディーゼルエンジン3種類、マイルドハイブリッド1種類、プラグインハイブリッド2種類の計8種類が用意される。ここからは、VWブランドが内燃機関車に関しても、引き続き一定の市場と需要を期待していることが認識できる。
それら以上に、筆者は2つのVWらしさを今回のIAAミュンヘンで発見した。
第1はカットモデルで紹介されていた「パフォーマンス・リアeドライブ」だ。これはID.7の後輪駆動に搭載されるものである。モーター用の油冷循環には電動ポンプを省略。代わりにギアの回転とコンポーネンツの形状最適化だけで行っている。これによって、エナジーセービングにつながるというわけだ。ステーターの外側に設けられた冷却板もそれを補助する。かつて、初代VWビートルのウォッシャー液作動は、モーターに頼らず、スペアタイヤの空気圧を利用していた。開発担当者やサプライヤーがそれを意識したとは考えにくいが、可能な限りパーツを減らす精神が息づいているのであれば、それはメーカーのDNAといえよう。
ところでVWグループは、MEBのコンポーネンツやユニファイド・セルを先に発表があったフォードに加え、インドのマヒンドラ社にも供給する計画だ。かつてVW初代ビートルの全盛期、それをベースに、さまざまなバリエーションやスペシャルが世界中の外部メーカー、今日でいうサードパーティーによって造られた。電動車の時代でも「VW入ってる」の時代がやってくる。
(report & photo 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)