IAA(ミュンヘンショー)でフォルクスワーゲン ブランド技術開発担当取締役のカイ・グリュニッツ氏へのインタビューが実現。新車開発のこれからについて話を伺うことができた。

画像1: “新車開発のこれから”を、VW技術開発担当取締役カイ・グリュニッツに聞いた

進化を続けるMQB

フォルクスワーゲンの現行モデルのうち、エンジンを搭載するほとんどのモデルが「MQB(Modular Transverse Matrix)」を採用している。横置きエンジン車向けの基本設計であるMQBは、フロントサスペンション、ステアリング、エンジンまわりなどの共通化を図ることで、車両の開発や生産の効率化を目指すとともに、ホイールベースとトレッドが自在に変更できることから、さまざまな車種を生み出すことを可能としている。フォルクスワーゲン ブランドでは、「Polo」から「Arteon」までの広い範囲をカバーしている。

2005年、フォルクワーゲンは、プラットフォーム戦略からMQBに向けて大きく舵を切りました。私がフォルクスワーゲンに入社したのがまさにこの頃で、私の仕事はMQBの開発から始まったのです。(グリュニッツ氏)

そう話すのは、2022年10月にフォルクスワーゲン ブランド技術開発担当取締役に就任したカイ・グリュニッツ氏だ。彼の原点ともいえるMQBを彼自身が指揮をとり、新たなステージへと進化させようとしている。

画像1: 進化を続けるMQB

それが「MQB evo」と呼ばれる新しいプラットフォームだ。フォルクスワーゲンではミュンヘンショー直前にワールドプレミアを果たした新型「Passat Variant」にこのMQB evoを採用している。

MQB evoは、従来のMQBをもとに、効率性を高めたり、直感的な操作を実現したり、インテリアなどのクオリティを向上したりすることを目的に開発されたという。また、リヤアクスルの改良により、乗り心地の向上にも努めている。

新しいプラットフォームをゼロから開発せず、MQBを進化させたのは、MQB自体が成功を収めていて、カスタマーからの評価も高かったからです。そこで、経済的なことを考慮して、まったく新しいプラットフォームをつくるのではなく、MQBをさらに進化させるという方法を選びました。(グリュニッツ氏)

この技術は今後登場予定のフォルクスワーゲン車に採用される。

モジュール自体は「Polo」から「Atlas」まで利用可能なものです。新型Passat Variantに搭載される技術は今後「Golf」や「T-Roc」、「Polo」などにも展開を予定しています。(グリュニッツ氏)

画像2: 進化を続けるMQB

フォルクスワーゲンでは、2030年以降、ヨーロッパにおける販売の少なくとも70%をEVにするとしている。いいかえれば、残りの30%はMQB evoを採用するエンジン車が担うことになる。

ヨーロッパではフォルクスワーゲンのエンジン車は徐々に減少します。MQB evoは最低でも8年から10年は使用する予定で、さらに約2年ごとに新しい技術、新しい機能を投入していきます。エンジンについては、MQB evo用に今回新たに1.5Lを開発しましたが、ヨーロッパ市場向けには今後新たに開発する計画はありません。一方、北米や中国では需要がありますので、それに対応していきます。(グリュニッツ氏)

MEBも次の世代に

エンジン車に代わって、フォルクスワーゲンの主力になるのがEVである。同社では「MEB(Modular Electric drive Matrix)」を用いたID.ファミリーにより攻勢を強めているが、MQB同様、MEBも今後進化させる考えだ。

EVのモデルを増やすにあたり、われわれは将来、「MEB plus」を導入します。MQB evoと同様に細部の最適化を行うことでMEBを進化させたMEB plusを、ニューモデルに展開していきます。(グリュニッツ氏)

またこれとは別に、コンパクトカー向けにFWD方式の「MEB entry」を用いた「ID.2all」を投入する予定だ。

ID.2allでFWDを採用するのは、これまでPoloやGolfがFWDを採用してきたことや、このクラスのお客さまがFWDに慣れているというのが理由として挙げられます。また、コストの面でもFWDのほうが有利でした。(グリュニッツ氏)

ミュンヘンショーではID.2allをベースとしたスポーツモデルである「ID.GTI Concept」がワールドプレミアを果たした。

GTIをEVにするにあたり、Golf GTIがFWDであったことなどを重視して、ID.GTI ConceptでもFWDを採用しました。日常からスポーツ走行まで、幅広い使われ方に対応することがGolf GTIのDNAだと考えており、モーターを搭載するID.GTIではよりスムーズで快適なクルマに仕上げたいと思っています。ID.2allと差別化を図るために、ID.GTIでは、Golf GTI Clubsportのように、フロントアクスルディファレンシャルロックを搭載することにしています。ちょうど1時間前に「フロントアクスルクロスロック」という名称が決まったところです。ビークル・ダイナミクス・マネージャーにより、ダンパーの特性をはじめさまざな機能を統合制御することで、ドライビングの性能をGolf GTIと同レベルで提供することをお約束します。(グリュニッツ氏)

ところで、ヨーロッパでは合成燃料(e-fuel)によりエンジン車の存続を容認する動きがあるが、フォルクスワーゲンはどう見ているのだろう?

将来はすべてのクルマがEVになることは間違いありません。e-fuelは過渡期における有力なソリューションだと思います。ただ、燃料のコストが高いということもあり、これを使うのは価格の高いクルマ、すなわちフォルクスワーゲン グループであればポルシェやアウディであり、ボリュームブランドであるフォルクスワーゲンは、過渡期においてはPHEVを利用したうえで、最終的にはすべてをEVにしていくのが、われわれのやりかただと考えています。

MQB evoとMEB plusの両輪で新時代を切り拓くフォルクスワーゲン。デザインの変革とともに、これからのフォルクスワーゲンブランドへの期待は高まるばかりだ。

(Text & Photos by Satoshi Ubukata)

This article is a sponsored article by
''.