1988年、VWはスポーティさをアピールするためにCorradoを生み出した。しかし、Golfから派生したこの威厳のあるクーペは、当時はあまり注目されなかった。

画像1: 【Auto Bild】スポーティでエレガントなGolf?「Corrado」はGolfから派生した威厳のあるクーペ

1988年にヴォルフスブルグが「VW Corrado」を発表したとき、自動車界は不満の声を上げ始めた。スポーティさが足りない、高すぎる、なんとなくカッコ悪い。「Golf 2」ベースのスポーツカー「VW Corrado」は、多くの人を満足させようとしすぎて、これといった特徴のないスポーツクーペであることがすぐに明らかになった。

※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。

今日のVWファンなら誰でも比較的低価格で楽しむことができるが、その弱点は認識しておくべきだ。それはエンジンによる。要求の厳しい顧客は160馬力の「Corrado G60」を選んだ。「Corrado G60」の0-100km/h加速に必要な時間は8.3秒、最高速度は225km/hだ。パワフルで素晴らしいエンジンだが、スクロールチャージャー付きエンジンはメンテナンスに手間がかかる。

画像: VW Corradoは地味な内装だが、堅実な仕上がりだ。

VW Corradoは地味な内装だが、堅実な仕上がりだ。

G-Lader(フォルクスワーゲンのさまざまな乗用車モデルで使用されているスクロールタイプのスーパーチャージャー)を搭載したCorradoは、まさにドーピングされたスポーツカーだった。しかし、Golf同様のメンテナンスフリーとはいかなかった。

136馬力にパワーアップした「Golf GTI」のエンジンを搭載した「Corrado 2.0 16V」も、がっしりしたクーペをまともに走らせるのに十分なガッツを持っている。しかも、オーナーの労力も少なくて済む。

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「Corrado VR6」は愛好家を十分に楽しませる魅力を持っている。6気筒エンジンはどんな状況でもパワーを発揮し、鳥肌が立つようなサウンドで魅了する。しかし、熱問題には悩まされる。

Corradoはラテンの名前だが、典型的なドイツ車だ

内外装とも、イタリア的な洗練さがCorradoの強みでないことは明らかだ。デザインとプロポーションは首尾一貫しているが、家庭的でもある。インテリアは日常的に作られ、欠点なく仕上げられているが、無骨な典型的なドイツ車である。

むしろ「Corrado」の強みは別のところにある。堅牢性、良好なスペアパーツ供給、日常使用への適合性は、特に重要な部品の腐食防止に優れているのがプラス面である。

メカニックは安心していい。「Corrado」には、当時のVWのコンストラクションキットから多くのパーツが適合するからだ。とはいえ、購入前にはよく調べる必要がある。多くの「Corrado」がヘタにいじられたり、パーツが消失したりしているからだ。

大林浩平: この当時、フォルクスワーゲンのネーミングは「風」にまつわるものが定番であった。Golf(これはガルフストリームのガルフ)はもとより、Scirocco、Passat、Vento……。みんな風にまつわるネーミングだったはずなのに、今回のCorradoはスペイン語の疾走を意味する「コレール」という言葉を変化させた造語だそうである。なんでわざわざ手をかけて、このネーミングにしたのかは不明だが、Corradoの前任車のSciroccoとの関係を断ち切りたかった、という意図があったのかもしれない。

そんな今となっては珍車ともいえるCorradoだが、実は友人が所有していたことがある。ドイツ車大好きで、とにかく高性能な車も大好きだった人物で、永遠の一台は言うまでもなく911、そんな人が選ぶ車がCorradoだったといえる。当時はとにかくGラーダーと呼ばれるスーパーチャージャーの呼称にしびれたものだった。そんなCorradoには途中からVR6や16Vのエンジンモデルも組み合わされ、当初はマニュアルミッションだけだったが、のちにVR6が追加されてからは4速オートマチックトランスミッションも組み合わされた。それでもやはり印象としては、Corradoと言えばGラーダーが載った高性能車、その響きにつきる。

といっても、今改めて見ると、Gラーダーを搭載したCorradoのパワーも160馬力となんとも控えめなもので、Golf 8のGTIは245馬力、Golf Rに至っては覚えやすい333馬力とCorradoの倍以上のパワーを持っている。いつの間にか馬力のインフレーションが始まっていることを痛感させられるが、この当時はGラーダーの160馬力も、VR6の190馬力も十分以上に高性能であったし、そもそもはScirocco(懐かしいなぁ)のような、ちょっとお洒落でスタイリッシュな3ドアクーペという立ち位置だったはずなので、この程度の、ちょっとした高性能というジャンルのクーペでも十分以上だろう、というフォルクスワーゲン開発陣の判断だったのではないか、というのは僕の間違えた認識だったらしい。

というのもこのCorrado、当時の開発者たちはポルシェ944を仮想敵と想定し944を複数購入し、サーキットなどに開発中のCorradoを持ち込んでは走りを重視して開発していたというからだ。当時は圧倒的なハイパフォーマンスではなく、まあ944もそこそこの性能だったじゃないか(?)と問われりゃ返す言葉もないが、それでもポルシェという名前を想定して開発したとあっては、ただのちょっとした高性能セクレタリーカーに終わるはずもなく、パワーユニットだけではなく、サスペンションもボディもそれ相応の、かなり本気度の高い設計開発が行われていることは想像がつく。

その一端が伺えるのが、速度反応式のリアスポイラーで、70km/h以上でグーっとあがり、20km/hになって下がるという、この特徴ある装備こそがGラーダーと並ぶ、Corradoの特色であったと言って良い。こういう高性能を誇示するかのようなスポイラーは、やっぱりポルシェに装備されるもの、と勝手に思い描いていたので、この速度に合わせて動くリアスポイラーはなんともインパクトのある装備であった。

そんな肝いりで開発されたCorrado だったが、残念ながら大ヒットには至らないまま、ポルシェのライバルになれたかどうかは不明だが、1995年に販売を終了。Sciroccoに代わって登場した、ポルシェのライバルになりたかったCorradoを販売終了すると、フォルクスワーゲンは再びSciroccoを(少しだけ)スタイリッシュに再開発し、Sciroccoの名前を復活させて発売したのであった。アイドルだった菊池桃子がロックバンド「ラムー」としてハードな音楽の世界に殴り込むも、結局たいした成果を残せないまま、再び菊池桃子というネーミングでタレント活動を開始する・・・。なんとも例えがややこしくて申し訳ないが、そんな感じだろうか。

Corrado、いまそのディメンションを改めてみると、フォルクスワーゲンGolf はおろか、Poloよりも幅などコンパクトなことに驚く。いつの間にかフォルクスワーゲンも、フォルクス(民衆の)なワーゲン(乗り物)というよりも、プレミアムブランドの自動車になったなぁ、そしていまやフォルクスワーゲンのラインナップからはCorradoやSciroccoのような2ドアクーペモデルは消え去ってしまったなぁ、とちょっと寂しく思った・・・。

(Text by Lars Hänsch-Petersen / Photos by Roman Raetzke)

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