イタリアでも若者のクルマ離れは進んでいる。やや以前の統計だが、イタリア運輸及びインフラ省によると、2016年に運転免許を取得した18-19歳の若者は、287,551人。2012年と比較して8.4%減となった。

画像: SCUOLA GUIDAとは自動車教習所を表し、そのステッカーが貼られているのは教習車である。2020年夏、イタリア中部シエナ県にて。

SCUOLA GUIDAとは自動車教習所を表し、そのステッカーが貼られているのは教習車である。2020年夏、イタリア中部シエナ県にて。

17歳に“引き下げ”

背景としてメディアが指摘するのは、デジタル機器への関心が高まるのに反比例して車への興味が減少していること、そしてUBERなどのライドシェアやシェアリング自転車の普及である。

同時に、教習所費用の値上がりも原因と分析している。たしかに筆者が教習所事情を執筆したときの記録を振り返ってみても、1998年には約500ユーロだったものが、2008年には約700ユーロになり、今日の相場は約1000ユーロ(約12万6千円)以上といわれている。日本の免許取得費用と比較すれば安いが、約20年で2倍という値上がり幅は半端ではない。

参考までに、イタリアの自動車セールスパーソンにおける勤務経験3年未満の月額給与平均が850ユーロ(約10万5000円。出典: 求人情報サイト『ジョビードゥ』 2020年10月閲覧)だ。免許を取得する出費は安くないことがわかる。

若者の免許離れが生じる理由がおのずとわかってくる。筆者も近年、免許を持っていない若者とたびたび出会うようになってきた。

しかし、いまだ免許が必要な若者が存在することもたしかである。周辺農村部や、1980年代前半から普及した郊外住宅と勤務先・買い物先を結ぶ公共交通インフラが貧弱であることが背景にある。

たとえば、筆者が住むのは、旧市街のすぐ外であるが、路線バスは夜8時半過ぎに終わってしまう。新型コロナによるさまざまな制限下にもかかわらず、教習所の近くで講習を待つ教習生の姿をたびたび目にするのは、そのためだ。

画像: イタリアの運転免許証。長年にわたり紙製だったが、筆者の場合2017年の更新で、ユーロ規格のプラスチック製となった。

イタリアの運転免許証。長年にわたり紙製だったが、筆者の場合2017年の更新で、ユーロ規格のプラスチック製となった。

イタリアの教習所は大抵、スタッフは5名前後だ。経営者のおじさんがインストラクターを兼任しているのは、当たり前といえる。

これは他の欧州諸国同様だが、イタリアの教習所には「所内教習コース」というものが無い。そのため、教習所は学科教習用のスペースのみがあれば良い。授業の時刻が来ると、受付ルームをアコーディオンカーテンでスルスルっと仕切って、部屋の半分で開始する教習所さえある。したがって、街なかの商店街にさりげなくある教習所が大半だ。

では、最初の実技教習はどこで行うかといえば、郊外の空き地である。ちなみに筆者自身の日本での思い出をいえば、高校3年生の教習初日、トヨタ初代クレスタ教習車のクラッチ操作がまったくできず、恥ずかしかったものだ。いっぽうイタリア人に聞くと、多くの人は事前に親きょうだいの指導のもと、同様に空き地などで最初の一歩を済ませてから入学するので、それほど苦労なく実技を始められるという。

なお、日本の普通免許に相当する「B免許」はやはり18歳からだが、2011年に「同伴運転Guida accompagnata」という制度が導入された。10時間の講習を受けたのち、同伴者が同乗すれば17歳から運転が可能になるものだ。免許取得希望者の数が頭打ちになるなか、教習所の事業者団体の強い働きかけで実現した制度である。

ただし、「A免許」と称する125ccまでの2輪免許を所持していなければならないのが、日本の仮免許と異なる点だ。

up!も教習車に

教習車は日本と同様、インストラクター側に補助ブレーキが備えられている。校舎のインフラがこじんまりとしているのと同様、教習車の数も少ない。1校に3〜4台というのが一般的である。ボディカラーも日本のように統一されておらず、1台ごとに違ったりする。

さらに面白いのは、実技試験だ。実施日に監督官庁から試験官が教習所にやってくる。そして受験生数名と同乗し、路上で順番に受験する。

イタリアでは、国内ブランドを追うかたちで、フォルクスワーゲンの教習車も各地でたびたび見かける。2000年代始め、シティカー「ルポ」が一部の教習所によって使われていたのを記憶しているが、ここ10年の定番は「ポロ」である。

日本で教習車といえば、車両感覚がつかみやすい3ボックスセダンが主流だが、こちらで教習車といえば2ボックスのコンパクトカーである。第二次大戦後、この国に本格的モータリゼーションが到来したとき、多くの教習所が1955年フィアット600を導入したのに遡る。

昨2020年夏には近郊の町で「up!」の教習車を発見した。ポロよりもさらにコンパクトなので、教習生はさらに運転しやすいだろう。

画像: 教習車は大半の場合、経営者兼インストラクターにとって通勤の足でもある。したがって、それなりのグレードのものが使われていることが少なくない。

教習車は大半の場合、経営者兼インストラクターにとって通勤の足でもある。したがって、それなりのグレードのものが使われていることが少なくない。

同時に、今回の執筆にあたって訪問した教習所も含め、過去で取材した複数の教習所関係者が指摘するのは、教習車は大切なアイキャッチでもあるということだ。もちろんそれは日本でも同じであり、だからこそアウディを導入するスクールが現れるのだろう。

だが、前述のように、イタリアの教習所は教習コースのインフラが必要ないことから、市内にいくつもある場合が多い。筆者が住むシエナも人口は5万3000人にもかかわらず、6軒も教習所がある。熾烈な競争のなかで人目を引くには、絶えず人気車を投入してゆく必要があるのだ。

もうひとつ、教習所がクルマ選びをするにあたって、明らかに考慮しているのは、オフタイムの使用である。教習車は、それを示す法定の表示「SCUOLA GUIDA」を掲示する義務があるが、それを剥がせば、個人用途に使うことができる。

経営者やインストラクターは、教習車を休日に使用するばかりか、昼休みにも乗って帰る。したがってイタリアの教習車は、購入価格やメインテナンスコスト以上に、彼らの趣向やセンスが日本とは比べ物にならないほど色濃く反映される。

写真のup!も、よく観察すると、洒落たアルミホイールが奢られている。フォルクスワーゲン教習車は、プロたちによる真面目なチョイスの結果なのである。

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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