![画像: イタルデザイン「アッソ・ディ・ピッケ・イン・モヴィメント」。2024年4月、ミラノ・デザインウィークで。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/d9255ac14c9fdd1d8d71ca6f40b338b3920d70a2_xlarge.jpg)
イタルデザイン「アッソ・ディ・ピッケ・イン・モヴィメント」。2024年4月、ミラノ・デザインウィークで。
デジタルからリアルへ
イタリアのカーデザイン会社「イタルデザイン」は、2024年4月15日から21日に開催された「ミラノ・デザインウィーク」で、コンセプトカー「アッソ・ディ・ピッケ・イン・モヴィメント」を公開した。同社による1973年のショーカー「アッソ・ディ・ピッケ」に着想を得た2+2クーペで、2023年にデジタル先行開発されたものを三次元化した。
![画像: イン・モヴィメントは、センターピラーレス3ドアの電動クーペ・コンセプト。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/2b2af1e7784d064c6ac89a42c211b4e7d913356f_xlarge.jpg)
イン・モヴィメントは、センターピラーレス3ドアの電動クーペ・コンセプト。
![画像: 2023年12月に公開されたデジタル開発版のレンダリング。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/3be3d098d7b8a44eefaf2d658caac003b0dd7abc_xlarge.jpg)
2023年12月に公開されたデジタル開発版のレンダリング。
![画像: 前席にはバケットシート、後席にはラウンジシートが与えられている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/fd6b710afa0a45a118281f1ccaacd8765aa0f31d_xlarge.jpg)
前席にはバケットシート、後席にはラウンジシートが与えられている。
![画像: ミニマリズムを徹底。必要な情報のみを、その都度表示する。ダッシュボード形状は、後述するオリジナルに範をとっているが、メーターパネルは巻き取り収納できる。LGから既発売のローラブルテレビの要領である。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/5dd009d66af74ab0fe2198df864840c9603c4db8_xlarge.jpg)
ミニマリズムを徹底。必要な情報のみを、その都度表示する。ダッシュボード形状は、後述するオリジナルに範をとっているが、メーターパネルは巻き取り収納できる。LGから既発売のローラブルテレビの要領である。
イタルデザインは1968年にデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロとエンジニアのアルド・マントヴァーニによってトリノに設立されたデザイン研究開発会社。2010年にフォルクスワーゲン(VW)グループ傘下入りし、ランボルギーニ、ドゥカティ、ベントレーと並ぶアウディのビジネスユニットに組み入れられた。ジウジアーロが去った2015年以降も、設計、エンジニアリング、プロトタイプ製作、超限定生産のほか、グループ外のクライアント向け開発支援や、自動車以外のプロダクトデザインも業務としている。
![画像: デザインウィーク会場のイタルデザイン・パビリオンにて。実車に至る通路では、まずイン・モヴィメントのスケッチが大スクリーンで紹介されていた。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/79cbf96c0eb8ac4765f246b882f9e752c467eca5_xlarge.jpg)
デザインウィーク会場のイタルデザイン・パビリオンにて。実車に至る通路では、まずイン・モヴィメントのスケッチが大スクリーンで紹介されていた。
あの名車たちに先駆けた
デザインウィーク会期の2日目、ミラノ随一のデザイン街区であるトルトーナ地区に設営されたイタルデザインの展示館を筆者が訪ねると、新作であるアッソ・ディ・ピッケ・イン・モヴィメント(以下イン・モヴィメント)が、基となったアッソ・ディ・ピッケとともにディスプレイされていた。
まずアッソ・ディ・ピッケについて説明しよう。当時フォルクスワーゲンの車体サプライヤーだったカルマン社からの「少量生産向け4座クーペを」との求めに応じてジウジアーロがデザイン。1973年フランクフルトショーで公開された。"Asso di picche"とはイタリア語でスペードのエースを意味する。ベースには、同じくジウジアーロが手がけた1972年初代「アウディ80」のものが用いられていた。
![画像: 1973年「アッソ・ディ・ピッケ」。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/30c34936d474396ea0a824ceca6da4dbc5f713cc.jpg)
1973年「アッソ・ディ・ピッケ」。
![画像: のちのアッソ三部作の先駆けとなった。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/70935dac060b8c88fb136d79e8c86b5d82825c1f_xlarge.jpg)
のちのアッソ三部作の先駆けとなった。
![画像: その室内。ダッシュボードには、筒状のメーター/スイッチ類を2段重ねで配置している。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/d2a09570f9b51878e22d21251dc47f361736f755_xlarge.jpg)
その室内。ダッシュボードには、筒状のメーター/スイッチ類を2段重ねで配置している。
![画像: 1972年マセラティ・ブーメラン。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/21/3e9a295538fc28ce8d0763557416e5703532426d_xlarge.jpg)
1972年マセラティ・ブーメラン。
イタルデザイン広報部シニアオフィサーのロレンツァ・カッペッロ氏は、「そのデザインは、明らかに1972年のショーカー『マセラティ・ブーメラン』の流れを汲んでいました」と解説する。「シリンダー状のダッシュボードもデジタル時代を予見するものでした」
最終的にアッソ・ディ・ピッケは生産に移行されなかった。「しかし三角形をしたCピラーの形状は1976年『ロータス・エスプリ』、1979年『ランチア・デルタ』といった量産車に反映され、反復されました」
メーカー自体がどこまで関与・意図していたかは不明だが、筆者が付け加えればアッソ・ディ・ピッケはアウディのブランドイメージ刷新における先導役を果たした。なぜなら今日とは異なり、当時のアウディはクアトロ攻勢前夜で、上品ではあるが華やかな印象に乏しかったからである。
またセダンをベースに、洗練されかつ良好な居住性を備えたクーペを構築するコンセプトは、1976年「アッソ・ディ・クアドリ(ダイヤのエース)」を経て、1978年「アッソ・ディ・フィオーリ(クローバーのエース)」に至り、後者は1981年から「いすゞピアッツァ」として量産された。
余談だがこの連作では、ついぞ「アッソ・クオーリ(ハートのエース)」は実現されなかった。懐かしい歌謡曲の題名を借りれば、「ハートのエースが出てこない」だったのである。
半世紀後の再解釈
次に今回初公開された「イン・モヴィメント」についてカッペッロ氏に解説してもらう。「2023年のデジタル版はオリジナル誕生50周年を記念し、2023年2月から我が社のデザイン部門を率いているホアキン・ガルシアのもと開発されたものです。今回公開したリアル版はモックアップですが、特徴的なフロント・オーバーハングと、対照的に短いリア・オーバーハング、そして全長におよぶ視覚的連続性といったオリジナルのプロポーションを尊重しています。同時に、その先見の精神も継承しています」
車体寸法は全長4715(4100)mm✕全幅2032(1640)mm✕全高1300(1205)mmだ。オリジナルの4100mm✕1640mm✕1205mmに対して、長く広く高い。「安全性を確保するためには、一定のサイズ拡大が必要です。それでも必要最小限に抑えました」
![画像: イン・モヴィメント。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/317b9cfa15ae8b236e01c248b3c5878ac5f8f3ae_xlarge.jpg)
イン・モヴィメント。
いっぽうでオリジナルと明らかに異なるのは、カッペッリ氏が「テクノロジーへのオマージュです」と語るグラスエリアの広さである。使用領域はフロントガラスから前に向かい、前方まで延びている。そのフロントフードからはモーター、トロリーケース2個分の収納スペースが透けて見える。オリジナルにあったエアインテークの代わりに備えられているのは充電ポートのリッド(蓋)だ。
![画像: ルーフの一部は偏光レンズ加工され、UVAを100%カットする。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/498aa7d73a1d245d553298d6d9ef744219d157fa.jpg)
ルーフの一部は偏光レンズ加工され、UVAを100%カットする。
![画像: 「50年経った今も、自動車のデザインは、動き=movimentoの概念を形式的に解釈したものであり続けています」と、イタルデザインでカーデザイン部門を統括するホアキン・ガルシア氏は語る。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/d63f45bc8add5239e9a99879766a20e8bc1140a9_xlarge.jpg)
「50年経った今も、自動車のデザインは、動き=movimentoの概念を形式的に解釈したものであり続けています」と、イタルデザインでカーデザイン部門を統括するホアキン・ガルシア氏は語る。
![画像: ヴレデシュタイン社製「ジウジアーロ・デザイン」タイヤと組み合わされたホイールには、車名にちなんでスペードのエースが。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/31c189507ea44ff2ad300b80a5d2035d0e23c5b6_xlarge.jpg)
ヴレデシュタイン社製「ジウジアーロ・デザイン」タイヤと組み合わされたホイールには、車名にちなんでスペードのエースが。
![画像: オリジナルがアウディのシルバー・フォーリングスを備えていたのに対し、 今回はイタルデザインの「D」ロゴをヘッドライトに反映させている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/149dce2fa83ba6531bfab1c9be844c3afa0f592d_xlarge.jpg)
オリジナルがアウディのシルバー・フォーリングスを備えていたのに対し、 今回はイタルデザインの「D」ロゴをヘッドライトに反映させている。
![画像: テールライトの13本に及ぶバーは、こちらもイタルデザインのシンボルマークにかけたものである。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/6b93694c2e41a87954ad92b0914693b6114398bf_xlarge.jpg)
テールライトの13本に及ぶバーは、こちらもイタルデザインのシンボルマークにかけたものである。
![画像: リアウィンドウ下端には、オリジナル誕生から半世紀を記念したものであることを示すサインが添えられている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/e64c5eb6a7f0808a5d5b52508e7f33d7395e473c_xlarge.jpg)
リアウィンドウ下端には、オリジナル誕生から半世紀を記念したものであることを示すサインが添えられている。
![画像: フロントフードからは、充電ポート(左)や、収納されたトロリーケースが透けて見える。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/05f05207b6b7b44be00dfffdfab3ceb3a036bc85_xlarge.jpg)
フロントフードからは、充電ポート(左)や、収納されたトロリーケースが透けて見える。
一部にはポリカーボネイトが用いられているとはいえ、ガラス面積の拡大は、すなわち重量増との戦いだ。それに対し彼女は、「当然、重量は増加します」と認めたうえで、こう説明する。「私たちは軽量のガラスを駆使してきました。好例は2006年のコンセプトカー『マスタング・バイ・ジウジアーロ』です。同車ではフロントウインドウからルーフまでクリスタル・ガラスを使用しました。クリスタルは通常のガラスよりも重いのですが、サプライヤーと協力しながら、より良い解決方法に至ったのです」。ポリカーボネイトは、耐久性や経年変化を考慮しながら、同様に研究を進めるという。
![画像: イン・モヴィメントの室内を示したデジタル・レンダリング。ステアリング・ホイールは角が丸みを帯びた長方形。ダッシュボードは視認性を高めるために低く作られている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/5be2b43a61de22d45de1f2e943988575e659f5b6_xlarge.jpg)
イン・モヴィメントの室内を示したデジタル・レンダリング。ステアリング・ホイールは角が丸みを帯びた長方形。ダッシュボードは視認性を高めるために低く作られている。
未来のデザイナーの刺激に
ところでイタルデザイン社がミラノ・デザインウィークに初参加したのは2019年。その際展示したのは、ジュネーブ・ショーで既発表のコンセプトカー『ダ・ヴィンチ』だった。いっぽう今回のイン・モヴィメントは世界初公開である。デザインウィークを発表の場として、前回に増して重視した理由は?
![画像: オリジナルの特徴的なCピラーも再解釈されたうえ、採り入れられている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/453b3912d37b3bcd16996432f9825c141e5eab17_xlarge.jpg)
オリジナルの特徴的なCピラーも再解釈されたうえ、採り入れられている。
「自動車はインダストリアル・デザインの重要な一部であり、デザインウィークはきわめて大切なイベントだからです」とカッペッロ氏は語る。「そして多くのデザイナーや、デザイナーの卵たちが私たちのパピリオンに立ち寄ってくれるのです」
半世紀を隔てて同じ概念+新たな解釈という2台に触れた来訪者のなかから、将来のイタルデザインやアウディを支えるデザイナーが生まれることに期待したい。
![画像: パビリオンの外には、イン・モヴィメントの赤いオブジェが置かれていた。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783350/rc/2024/05/20/6b557c0629bfd996e2be32dbb72f99381c279dfd_xlarge.jpg)
パビリオンの外には、イン・モヴィメントの赤いオブジェが置かれていた。
(report:大矢アキオAkio Lorenzo OYA・photo/image:大矢麻里 Mari OYA/Akio Lorenzo OYA/Italdesign/Maserati)