イタリアに住む筆者にとって、ドイツのフランクフルト・アム・マイン空港は、JR東京駅のような存在であった。欧州各地への旅はもちろん、デトロイトやラスベガスとった北米との往復にも大抵の場合、この空港で乗り継いできた。

画像: カタール航空エアバスA380の前を、構内用T6トランスポーターが行く。

カタール航空エアバスA380の前を、構内用T6トランスポーターが行く。

空のJR東京駅

ちなみに欧州旅行に詳しい方ならご存知であろうが、「フランクフルト」と称する空港はもうひとつある。100km西郊にあり、フランクフルト・ハーン空港である。こちらは、元・米軍の空港を改修したもので、主にLCC(格安航空会社)用が就航している。

ただし今回は、“元祖”であるフランクフルト・アム・マイン空港を、フランクフルト空港と呼ぶことにする。

筆者は、東京に出張するときも大半はフランクフルト空港で乗り継いでいる。ローマ・フィウミチーノ空港から直行便はあるものの、陸路が260kmもあるためだ。70kmのところにあるフィレンツェまで行き、フランクフルトまで欧州域内線に乗ってしまったほうが楽なのである。

ただし、フランクフルトに特別の思い入れがあるわけではない。ビジネス都市ゆえ、空港の外に出るのは、2年の1度のモーターショーのときだけだ。首都圏在住の人が何かと乗り換えに使いながらも、周辺で仕事している人以外積極的に降りないJR東京駅に似ているのである。

つまり筆者にとっては極めて実用本位の乗り継ぎ地点だったのだ。

さらに欧州便乗り継ぎの場合、ゆっくりしている時間が少なく、日本や北米からの場合は時差ボケで朦朧(もうろう)としている。これも高頻度で利用しながら印象が薄い理由だろう。

画像: 見学ツアーがスタートする第1ターミナルにて。

見学ツアーがスタートする第1ターミナルにて。

しかし不思議なもので、半年以上も新型コロナ対策で自由な旅が困難になると、フランクフルト空港が妙に懐かしくなってきた。そして、何よりその思いを増幅させるのは、最後に経験した「空港見学ツアー」のためであろう。

事の発端は、昨冬女房と東京へ向かったときだった。フランクフルトー羽田便は無事2人分を予約できた。ところがフィレンツェーフランクフルトは、2人一緒だと料金が安く収まらない。そこで、筆者が女房より4時間以上早い便でフィレンツェから発つことにした。

待ち時間に何をしていればよいかを考えたところ、フランクフルト市街は空港から近いとはいえ、あまりゆっくりできない。そうしたなか知ったのが「空港見学ツアー」の存在だった。

画像: 搭乗券を模した見学ツアーのチケット。

搭乗券を模した見学ツアーのチケット。

コースは45分(8.23ユーロ)と120分(18.52ユーロ)の2つがある。残念ながら、120分コースは開催曜日が少ない。その日は該当日ではなかったので、45分コースにした。

なお、筆者のときは第1ターミナル出発フロア・ホールCの「ツアー&ショップ」コーナーに直接赴いたが、その後事前オンライン予約のみに切り替わっている。

シェフのおまかせコース風見学

集合時間10分前に行くと、団体見学者のおじさん・おばさんたちがワイワイ盛り上がっていた。黄色い安全蛍光ベストを渡されたあと、ターミナル玄関を出て数台のバスに分乗する。車内で解説するのは、空港職員のおじさんである。原則としてドイツ語だ。

画像: 指定時刻、集合場所に行くと、団体参加者がいっぱい。

指定時刻、集合場所に行くと、団体参加者がいっぱい。

2019年、フランクフルト空港のフライト数は前年より微減の204万フライトだったが、利用者数は過去最高の約7056万人を記録した。出発便の最終目的地は、トップが米国、以下ドイツ国内、スペイン、そしてイタリアの順である。

バスは、2011年に開館した長さ660mの巨大空港ホテル「ヒルトン・フランクフルト・エアポート」や、ルフトハンザ訓練センター棟の脇をかすめてゆく。

フランクフルト空港の管理会社「フラポート」について記すと、筆頭株主はヘッセン州(31.31%)で、株主中唯一の航空会社であるルフトハンザ航空は8.44%を保有する。

このフラポート社は、ギリシアやスロベニアといった他の国々でも空港経営を展開しており、そうした国際ビジネスでの売上比率は、なんと48.2%にのぼる。ちなみにスイスの空港運営会社「スイスポート」も競うように国外戦略を進めている。近年、違う国の空港管理会社名が書かれたタラップを見かけるのはそのためである。

一旦降車して貨物ターミナル関係者用入口で保安検査を受けたのち、ふたたびバスに乗って構内に入る。

バスはさまざまな機材の間近を通ってくれる。エアバスA380をはじめ、ボーイング747-400といった巨大な機体に目を奪われる。ただし、フラポート社のデータによると、機種別発着回数で群を抜いて多いのは、エアバスA320(132,977回)だ。それに続くのもA321、A319とナローボディ(単通路)機である。日本-欧州路線でおなじみのワイドボディ機ボーイング777は7位、同747は8位にようやく顔を出す。

参考までに、ルフトハンザ航空の機材には、1機ごとにドイツの都市名が愛称として付けられている。たとえば「フランクフルト・アム・マイン」のニックネームは、8機あるエアバスA380-800機の1機に与えられている。ただし現在の保有機は342機。したがって、小さな市町村の名前が付いていることもある。筆者は「リンブルク」と記されたA320を発見したが、後日調べてみるとそれは人口3万5千人の小さな町である。

画像: 新塗色のルフトハンザ航空エアバスA320-114 「リンブルク」号。

新塗色のルフトハンザ航空エアバスA320-114 「リンブルク」号。

整備部門「ルフトハンザ・テヒニーク」は、ドイツ各地の空港にダイナミックなデザインの格納庫を構えている。そのひとつで、フランクフルトにある「V」と呼ばれる建物は、ボーイング747が6機も入る巨大なものだ。今日見てもモダンな佇まいだが、落成はなんと約半世紀前の1972年であるというから驚く。

画像: 整備部門「ルフトハンザ・テヒニーク」の格納庫「V」は、1972年の落成。

整備部門「ルフトハンザ・テヒニーク」の格納庫「V」は、1972年の落成。

この45分コースは終始バス上からの見学スタイルである。だが、それでも案内係のおじさんの采配によって、たびたび構内で一時停止する。たとえば筆者の乗ったバスは、他のバスがとうに先に行ってしまっても、ボーイング777がエンジンのカウルを大胆に開けてオーバーホールをする様子をじっくりと見せてくれた。レストランでいうところの“シェフの気まぐれコース”であるところが面白い。

筆者個人的には、さまざまな構内の車も楽しめた。フォルクスワーゲン トランスポーターは無数に走り回っている。

黒塗りのポルシェ・カイエン・ターボは、ルフトハンザおよび提携航空会社のVIP客を乗せ、タラップ下とゲートを結ぶ。

そうかと思えば、貨物ターミナルの一角で厳重に包まれ、空輸を待つポルシェ・タイカンも確認できた。

ジャーマン・サイズがデフォルト

ツアー解散後にわかったのだが、着用した蛍光ベストは記念品として持ち帰れる仕組みだった。

背中に記されたFaszination Airport(魅惑の空港)という独・英語入り混じったキャッチもイカす。

この蛍光ベスト、実はありがたいお土産である。なぜなら欧州各国では、蛍光ベストを自動車の常備品として規則にしている国が多いからである。

画像: 蛍光ベストは記念品だった。背中にはFaszination Airport(魅惑の空港)の文字が

蛍光ベストは記念品だった。背中にはFaszination Airport(魅惑の空港)の文字が

筆者が住むイタリアもしかり。2004年から故障など緊急時に車外に出るときは着用しなければならなくなった。常備していない場合は11ユーロ、緊急時に着用していなかった場合は41〜169ユーロの反則金が課される。つまり停止表示板と同じ扱いであり、レンタカーにも必ず装備されている。

フランスはもっと厳しい。夜間や視界の悪い場所で自転車に乗るときにも着用義務がある。こちらの反則金は35ユーロである。2016年からは、モーターサイクルにも4輪車同様、携帯が義務付けられた。

ついでにいえば、そのように一家に1枚や2枚必ずあることから2018年、フランスで政府への抗議活動をする人たちが団結の証して着用しはじめ、「黄色いベスト運動」となったわけである。

車載や着用するのはEU規格に準じたものでなければならない。適当なものや自作はダメである。したがって、何枚あっても困るものではないのだ。

しかしながら、その参加記念品バージョンは、身長167cm、胸囲76cmの筆者には、あまりにもデカい。

ツアー中は興奮していたので気づかなかったが、よく見ると「LL」である。

サイズを聞かれなかったところからして、恐らくドイツの方々の体型に合わせて最大サイズしか用意していないのだろう。

なおフランクフルト空港は2021年春、1200平方メートルの「フラポート・ビジターズ・センター」をオープン予定だ。機内用を模したシートに座ってVRゴーグルで楽しむ360°シミュレーションや、ヴァーチャルによるマーシャラー(飛行機誘導員)体験などが展開されるという。

ふたたび“空の東京駅”を楽しめる日が来ることを、今から願っている。

■フランクフルト・アム・マイン空港 見学ツアー (2020年12月現在休止中)
www.frankfurt-airport.com/en/explore/airport-tours.html

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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