600台の限定ながら、日本でも販売がスタートした「up! GTI」に試乗。GTIらしいファンな走りは受け継がれているか?
※2018年6月の記事を再構成して掲載しました。
「up!」に乗ったことがある人ならわかると思うが、そのサイズからは想像できないほど安定感のある走りやしっかりとしたボディにはいつも驚かされる。その一方で、「自然吸気の1L直列3気筒エンジンがもう少しパワフルで、マニュアルだったらもっと楽しいだろうな」と思うこともしばしば。そんな気持ちを抱いていた人にとって、この「up! GTI」は待望のスポーツモデルである。
そして、同じ1Lの排気量ながら、直噴ターボ化により75psから116psにパワーアップした1.0 TSIエンジンと6速マニュアルギヤボックスのみならず、伝統の「GTI」の名前まで手に入れたこのクルマに期待せずにはいられないはずだ。
まずはクルマのまわりを1周してみる。
GTIの特権というべき、フロントグリルのレッドストライプとGTIバッジを見ると、つい興奮してしまうのは私だけではないだろう。フロントバンパーの"トランスバースロッド"と呼ばれる部分を、専用色のグロスブラックにしたのもなかなか精悍だ。一方、標準モデル同様、ヘッドライトとフォグライトがハロゲンランプで、ポジション灯だけLEDというのがアンバランスで、「もしこのクルマを買ったら、真っ先にヘッドライトとフォグライトをLEDに替えてやる」と考えてしまう自分がおかしい。
足元を見ると、move up!が14インチ、high up!が15インチを履くのに対し、このup! GTIは一気に17インチに大径化。見た目にもインパクトがあり、フロントホイールからレッドキャリパーが姿をのぞかせているのもうれしいところだ。ちなみに、リヤブレーキはドラム式なので、17インチアルミだと、スカスカな感じは否めない。
ドイツ本国では2ドアと4ドアが選べるup! GTIだが、今回日本で販売されるのは2ドアのみ。少し長めのドアを開けて室内を覗くと、そこには“これぞGTI”という光景が目に入る。
チェックのファブリックシートがその代表で、"クラーク"柄と呼ばれる黒地に白と赤のストライブを見ると心が躍る。
フラットボトムのステアリングホイールにはレッドステッチとGTIのバッジが施され、常にGTIを意識しながら運転できるのもまた楽しい。幾何学模様が施された"ピクセルレッド"のダッシュパッドは私には少し派手に思えるが、こんな演出もGTIなら許せてしまう。
運転席に収まり、イグニッションキーを捻ってエンジンを始動したら、さっそく試乗スタート。発進は軽やかで、1000rpmを上回ったあたりからすでに十分なトルクを発揮するエンジンのおかげで、低回転でもスムーズで余裕ある加速が味わえる。
マルチファンクションインジケーターには、1速から2速へは約2300rpm、それより上では2000rpmほどでシフトアップを促す表示が現れるが、実際交通の流れに乗るのに2000rpm以下でも十分事足りてしまう。加速時には3気筒ならではのノイズや振動が伝わってくるものの、新型「ポロ」の1.0 TSIよりもむしろ静かに思えるほどだ。
マニュアルシフトはとくにカチッとしたフィーリングではないが、クラッチ操作を含めて実に扱いやすく、ヒルホルダー機構のおかげで坂道発進も苦にならない。
高速道路の合流や追い越しの場面で低いギヤを選択し、アクセルペダルを踏み込むと3000rpmを超えたあたりから太いサウンドを伴いながら、力強い加速が続いていく。とはいっても、鋭いというほどの加速ではないのだが、ストレスなくスピードを上げられるのが、この1.0 TSIエンジンの旨味である。
気になったのは、シフトダウンの際に軽くアクセルを煽ったときに、エンジン回転の上がりが意外にゆっくりとしていること。また、シフトダウンしないまま、多少アクセルペダルを大きめに踏み込んだとき、エンジンのレスポンスが少し遅れるのもひっかかる。一方、左ハンドル仕様ではヒール&トウがしにくいと聞いていたペダル配置は、右ハンドル仕様ではとくに問題なく操作できた。
乗り心地はやや硬めで、路面によってはリヤからショックを伝えてくることもあるが、スポーツモデルとしては十分に快適なレベルだ。ホイールベースが長いポロやゴルフには及ばないものの、挙動のフラットさもまずまずといったところである。
ハンドリングは、とりたたてシャープというものではなく、コーナリング時に多少重心の高さを感じることもあるが、コンパクトなボディを生かして軽快に走れるのがこのクルマの魅力だ。
加速もハンドリングも刺激的というのとは少し違うが、余裕あるパワーを手中に収め、操る歓びとともに、どんな速度域でもストレスなく気持ち良いドライブが楽しめるup! GTIは、GTIシリーズの末弟にふさわしいクルマといえる。
マニュアルシフトが好きな人には、まさに最高のup!である。
(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Masayuki Arakawa)