「ゴルフ」のフルモデルチェンジにともない、そのスポーツバージョンである「GTI」が生まれ変わった。さまざまな新技術が投入された注目のモデルを、一足早くヨーロッパで試乗した。

※2013年5月の記事を再構成して掲載しました。

画像1: 【海外試乗記】ゴルフGTI/GTIパフォーマンス[再]

大きく変貌を遂げたゴルフ7GTI

販売台数では標準モデルに敵わないが、フォルクスワーゲンファンなら注目せずにいられないのが伝統の「GTI」だ。ドイツでは2013年5月からデリバリーがスタートし、日本でも2013年内の発売が予定されている7代目ゴルフGTIとはどんなクルマなのか?

ミュンヘン空港で対面したゴルフGTIは、ひと目でそれとわかる演出がなされていた。ハニカムメッシュのフロントグリルと、それを横につらぬくレッドのバー。「GTI」のバッジを外したとしても、標準モデルでないことは容易にわかるはずだ。

新型ではヘッドライトまでレッドのバーが伸ばされ、赤の水平ラインがいままで以上に強調されるようになった。

一方、LEDフォグランプにつながる3本のフィンや、新デザインのアルミホイール、よりシャープな形のLEDテールライトといったアイテムが、イメージチェンジに大きく貢献している。

画像1: 大きく変貌を遂げたゴルフ7GTI

全長4268×全幅1799×全高1442mmのボディは、全長が55mm、ホイールベースが53mm延びる一方、フロントオーバーハングは12mmショートに。さらに、Aピラーを後方に移動させ、"キャビンバックワード"化を図ることで、コンパクトカーらしからぬ雰囲気を狙ったのだという。

1442mmの全高は、旧型よりも27mm低められ、また、最低地上高は標準モデルに比べて15mmのローダウン。13mm広い全幅とともに、ワイド&ローの印象を強めている。

画像2: 大きく変貌を遂げたゴルフ7GTI

インテリアはタータンチェックのシートが特徴的だが、実はデザインがリニューアルされている。従来の「ジャッキー」から「クラーク」に変更されたという。オプションでサイド部分にアルカンターラが選べるほか、本革シートも用意される。

標準モデル同様、このゴルフGTIも「MQB」と呼ばれる横置きエンジン用のプラットフォームを採用する。サスペンションは前:マクファーソンストラット、後:4リンクで、ステアリングも電動アシストと、スペックだけ見れば旧型と同じように思える。だが、サスペンションのセッティングは見直されており、また、ステアリングには舵角によってギアレシオが変わる「プログレッシブステアリング」を採用するなど、旧型からの進化を挙げればキリがない。

コーナリング時にフロント内側のホイールにブレーキをかけることでアンダーステアを抑える「XDS(電子制御式ディファレンシャルロック)」は、MQBプラットフォームに搭載されるにあたり「XDS+」に進化。ゴルフGTIには標準で採用される。

旧型でオプション設定された可変ダンピングサスペンションのDCC(アダプティブシャシーコントロール)は引き続き選択が可能だ。

さらに、新型ゴルフGTIでは、DCCだけでなく、エンジン、トランスミッション、パワーステアリングなどの設定を統合制御する「ドライビングプロファイル機能」が用意され、DCC付きの場合はコンフォート、ノーマル、スポーツ、エコ、そして、インディビジュアルを選ぶことができる。

インディビジュアルでは、各アイテムの設定をドライバーの好みにカスタマイズすることが可能。いわば、フォルクスワーゲン版の「アウディ ドライブセレクト」である。

搭載される2.0 TSIエンジンは、旧型同様「EA888」シリーズでありながら、新設計のシリンダーヘッドや、直噴とマルチポイント噴射を併用するデュアルインジェクションシステムを採用することで、こちらも大きな進化を遂げている。

その結果、最高出力は10psアップの220ps、最大トルクは70Nm(7.1kgm)も増えて350Nm(35.7kgm)に。それでいて、欧州燃費モードでは100km走行あたり1.3Lの低燃費化に成功。ユーロ6排ガス規制にも適合する。

トランスミッションは6速マニュアルが標準で、6速DSGがオプション設定される。

画像3: 大きく変貌を遂げたゴルフ7GTI

他にも、各種アシスタントシステムなどが搭載され、安全性でも一歩進んだゴルフGTI。果たしてその走りはどう進化したのか?

画像4: 大きく変貌を遂げたゴルフ7GTI

軽快さを増した走り

新プラットフォーム「MQB」やパワーアップした2.0 TSIエンジンが、ゴルフGTIの走りをどう変えたのか? さっそく、ドイツ〜オーストリアのテストドライブでチェックする。

試乗車として用意されていたのは、6速マニュアルと6速DSGのゴルフGTI。いずれも、DCCとドライビングプロファイル機能が搭載され、足元は標準の225/45R17からオプションの225/40R18サイズにインチアップされていた。つまり、走りに関わるオプションが"全部載せ"の仕様である。

1秒でも早く試乗したい......。そんな気持ちとは裏腹に、すぐさま運転席に座りたがらない自分がいる。実はゴルフ7に乗るのはこれがはじめて! それだけに、GTIに乗る前に、ふつうのゴルフ7を確かめておきたかったのだ。

しかし、結論からいえば、ゴルフGTIが先でよかった。そのぶん、MQBプラットフォームの有り難みが浮き彫りになったのだから。

その有り難みとは......。

画像1: 軽快さを増した走り

走りだして真っ先に感じたのは、ゴルフGTIの軽さである。マニュアルで1351kg、DSGで1370kg(いずれも2ドアのベースモデルの数字)の車両重量は、旧型に比べて42kg軽くなっているが、その数字以上に動き出しや身のこなしが軽快なのだ。

この感じ、覚えがあるなぁと記憶を辿ると、2代目アウディTTが思い浮かんだ。アルミとスチールを用いたハイブリッド構造のボディによって軽量化を果たしたTTも同じように軽快で、軽さの恩恵を実感したのだ。

車両重量の低減に加えて、エンジンの性能アップもゴルフGTIの軽快さに一役買っている。旧型に比べてパワーは10ps増に過ぎないが、トルクは70Nm(7.1kgm)ものアップ。おかげで、アクセルペダルを踏み込んだときの力強さが目に見えて逞しくなり、軽量化されたボディをさらに素早く加速させる。

アウトバーンの合流でアクセルペダルを床まで踏みつけると、フラットなはずのトルク特性にもかかわらず、3000rpmを超えたあたりから盛り上がりを見せ、そこからレブカウンターに赤い帯が記される6000rpmまで、力強く、そしてスムーズに回転を高めていく。それを超えると、さすがに多少の頭打ち感があるものの、それでも6800rpmで緩やかにレブリミッターが効き始めるまで、律儀に加速を続けるのだ。

その際のサウンドは、従来に比べると控えめに思えるが、それはゴルフ7の優れた遮音性によるところが大きい。事実、撮影のためにクルマを降りて、ゴルフGTIの走りを眺めていたら、多少ボリュームは小さくなってはいるが、相変わらず乾いたエキゾーストノートがギャラリーの耳を楽しませてくれる。

画像2: 軽快さを増した走り

DCCは、タッチパネル式のナビゲーション画面でその特性を選ぶことができる。コンフォート、ノーマル、スポーツのうち、まずはノーマルを試してみると、乗り心地はやや硬めとはいえ快適性は十分に確保されている。フラット感に富み、一般道からアウトバーンまで、基本的にはこれひとつでカバーしてしまう。コンフォートモードに切り替えるとややピッチングが目立つようになるが、未舗装路などでは有効だろう。

拍子抜けしたのがスポーツモードで、覚悟したほどハードではなく、ノーマルとの格差が小さいぶん、その使い分けに悩むほどだ。裏を返せば、ちょい硬めのスポーツモードでも、日常的に使えるということだが、個人的にはもう少しメリハリがあってもいいと思う。

ハンドリングについては、そこまでコーナーを攻めるチャンスがなかったが、そこそこのペースで走るかぎりはアンダーステアが顔を出すことはなく、思い描いたラインがトレースできる。FFとかFRとかの議論は、このゴルフGTIの前では意味がない。

高速中心のドライブで気になったのが直進安定性。120km/hを超えたあたりから、ゴルフらしいピシッとした感覚が多少薄れていくのだ。それでも、200km/hあたりまでさほど不安なく運転できるのだが……。

画像3: 軽快さを増した走り

湿式6速のDSGは、その素早いシフトは相変わらず。スポーツモードではシフトアップのポイントが高くなるととも、シフトアップ/ダウン時のサウンドが派手になるなど、スポーティな演出も忘れてはいない。

画像4: 軽快さを増した走り

一方のマニュアルは、ゴルフボールデザインのシフトレバーがうれしいものの、ブレーキペダルと吊り下げ式に変更されたアクセルペダルとの間隔がやや広く、高さの差も大きいため、以前に比べて"ヒール・アンド・トウ"がやりにくくなったのが気になるところだ。

当然DSGでも吊り下げ式のアクセルペダルを採用。マニュアルほどは気にならないが、操作性を重視してゴルフ5の時代にオルガン式に変更されたアクセルペダルが、ここにきて吊り下げ式に戻ったのは、"コストダウン"の文字が見え隠れするだけに残念でならない。

とはいえ、気になるところはそのくらいのもので、トータルでは実に良くできたスポーツモデルに進化している。ゴルフGTIの開発陣が目指したのは「日常のスポーツ」。新型もまた、狙いどおりのクルマに仕上がっている。

その一方で、ますます優等生的になったのも確かで、もう少しアクが強くてもいいのではないか......というのが個人的な感想だ。

そんな期待に応えれてくれるゴルフGTIが用意されていた。それこそが「ゴルフGTIパフォーマンス」なのだ。

ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

実は、ゴルフ7GTIにはふたつのバージョンが用意されている。ひとつは220psの2.0 TSIエンジンを積む標準のゴルフGTI。そして。もうひとつがプラス10psの230ps仕様を搭載する「ゴルフGTIパフォーマンス」だ。

画像1: ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

プラス10psの2.0 TSIエンジンは、見た目はノーマルと変わらないし、最大トルクも350Nmと同じ数値。0-100km/h加速は220psの6.5秒に対して230psは6.4秒、最高速はそれぞれ246km/hと250km/hと、確かにパフォーマンスは向上しているが......。

「たった10psアップのためにエクストラを払うのか?」と思う人も少なくないはずだ。そのあたりをゴルフGTIの開発責任者、アルベルト・メルッゾウ氏に尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「ゴルフGTIパフォーマンスは、パワーアップしたエンジンを提供するのが目的ではありません。ダイナミックなハンドリング性能を実現するためのクルマです」

画像2: ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

そのあらわれが、GTIパフォーマンスだけに装着される電子制御フロントディファレンシャルロックだ。これまでもESCの制御によりディファレンシャルロック機構を提供してきたが、GTIパフォーマンスでは独立したハードウェアでデファレンシャルロックを実現するのだ。

電子制御フロントディファレンシャルロックは、コーナリングなどの際に前輪のどちらかが空転すると、多板クラッチを作動させて駆動トルクをグリップの高いホイールに配分。さらに、コーナー出口で加速する場合、外側のホイールにより多くのトルクを配分することでアンダーステアの軽減を図る、いわゆる"トルクベクタリング"機能を備えている。

画像3: ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

ブレーキの強化も見逃せない。標準が前:314×30mmのベンチレーテッドディスク、後:300×12mmのソリッドディスクであるのに対し、GTIパフォーマンスには前:340×30mmのベンチレーテッドディスク、後:310×22mmのベンチレーテッドディスクが奢られる。

フロントのブレーキキャリパーに記された「GTI」の文字が、GTIパフォーマンスの証である。

画像4: ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

試乗会の最後にチョイ乗りすると......。3000rpm付近からのトルクの盛り上がりが、標準のGTIよりもドラマティックなのだ。しかも、220ps版の2.0 TSIエンジンよりも、高回転の吹け上がりが一段と力強い。数字だけでは予想できなかったが、エンジンのフィーリングが明らかにスポーティさを増している。

そして、カンジンの走りは、存分に試す機会がなかったものの、ノーマルのGTIに輪をかけてオン・ザ・レールのハンドリングが楽しめる。アンダーステアは顔を出す気配すらなく、コーナー出口で早めにアクセルペダルを踏んでいけるのがいい。

画像5: ゴルフ史上最強のハンドリングマシーン誕生

さて、ドイツでのゴルフGTIの価格は、220ps版が2万8350ユーロからであるのに対し、GTIパフォーマンスは1125ユーロ高の2万9475ユーロから。約15万円の差なら、GTIパフォーマンスを買わない理由はない。

ただ、フォルクスワーゲン グループ ジャパンによれば、導入を予定しているのは標準のGTIのみで、現時点ではGTIパフォーマンスは導入するかどうかを検討中とのこと......。

いやいや、GTIパフォーマンスは最初から導入すべきだろう。エクストラを払っても、それ以上の魅力がGTIパフォーマンスにはあるのだから。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Volkswagen Group Japan)

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