171129-Oya-02.jpg【イタリア直送 大矢アキオのかぶと虫! ビートル! マッジョリーノ!】

イタリアからロサンゼルス・オートショーに行く前、東京に立ち寄った。半年ぶりの日本なのだから、のんびりすればいいものを、ついつい古いクルマが集うところが恋しくなってイベントを探してしまった。

すると、あったあった。横浜赤レンガ倉庫の『第6回横浜ヒストリックカーデイ』である。

イベント当日の2017年11月11日は、太陽のもとではアイスクリームが欲しくなるような暖かさ、建物の脇は思わずコートを羽織りたくなる涼しさ。日なたと日陰で体感気温がまるで違う地中海性気候っぽい天気だった。

さっそく会場で集ったオーナーたちと会話を楽しむ。1950年代の日本車オーナーが「このラジオ、およそ2分後に鳴り出しますから」とう。聞けば、真空管がスタンバイするのを待つためだった。

いっぽうで、赤レンガ倉庫に遊びにやってきた高校生とおぼしき女子グループの会話に聞き耳をたてれば、「これ、右ハンドルじゃん」などと興味を示している。

指さす先をみれば古い英国車だ。当たり前といえば当たり前なのだが、いまどき古いクルマに関心を示してくれるだけでもありがたいではないか。

フォルクスワーゲン系を探すと、一角にカルマン・ギアが美しく整列していた。その中には、1973年TCもあった。ヨーロッパのイベントでも珍しいブラジル工場のオリジナルモデルである。

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その先には、好コンディションのタイプ2の初代(T1)が2台佇んでいた。

うち1台の室内にはガラスケースが載せられていて、同色のモデルカーが無数に収められていた。"子持ちししゃも"状態である。

実車のオーナーに声をかけると、「このクルマは21ウィンドー仕様。23ウィンドーが中国の習近平だとすると、これは李克強です」と謙遜する。フォルクスワーゲンファンはユーモアに富んだ人が少なくない。

空冷エンジンのため室内は会話ができないほどうるさく、エアコンがないため夏はつらいという。

しかし最大の敵は雨漏りと証言する。ある雨の日、知人の結婚式に家族で参列した際は、道中漏れる箇所に雑巾をあてがっては絞り、あてがっては絞りながら会場に向かったという。まるでアニメのワンシーンである。

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なお、オーナー氏のT1は会場で一番人気といって過言ではなかった。にもかかわらず彼は奢ることなく、クルマに詳しくない人からの質問にも丁寧に答えている。フォルクスワーゲン乗りは優しい。

ちなみに氏はT1に出会う前、普通のゴルフに乗っていたそうだ。腕時計をクオーツから機械式に替える人とは比べ物にならないくらい、勇気を伴う行動である。

スピードが出ないため、路上ではすべてのクルマに抜かされる。でも戦わないことで「『どうぞお先に。私はゆっくり行きますから』という気持ちになるんです」と話してくれた。

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「行きますから」は「生きますから」に聞こえた。もはや「クルマ生活観」を越えて「人生観」に達している。

ボクもこうしたクルマに出会いたい。

(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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