モータージャーナリストの桂 伸一さんが、オーストリアからスイスまでの約1200kmをup!とともに過ごした。その印象は?
すでに試乗したヒトたちが大絶賛する3気筒のリッターカー、フォルクスワーゲンup!に乗り、オーストリアからイタリアを横断してスイス・ジュネーブまでの1200kmを走破した。日本に上陸する予定のup!は"5ドアのロボタイズド5速AT"と発表されている。今回ロングドライブに連れ出したモデルは3ドアの5速MT。とはいえup!がどういう存在なのかを知るうえで何も問題はなかった。
日本のお家芸といえるスモールカークラスだけに、"大絶賛の1台"といわれてもその完成度は"大方の予想"がつく。ところが、フォルクスワーゲンの開発陣は、このスモールカークラスの世界基準を根底から変える、フォルクスワーゲンの基準による本気のスモールカーをつくり上げてしまった。
オーストリアで開催された「パサート・オールトラック」の試乗会終了後、4名の日本人ジャーナリストは2台のup!に乗り、カメラカーとして伴走するシャランTDIとともに一路イタリアを目指した。
隣の住人との距離が近いスモールカーらしいup!の室内。スリーサイズは全長3540×全幅1641×全高1478mm。欧州ではフィアット500と真っ向勝負のサイズ。日本ではヴィッツやフィットよりひとまわり小さい、要するに軽自動車のサイズに近い。
タイトなのに窮屈ではない。矛盾しているが、後席にオトナが座って足元や膝に余裕があるスペースのマジックは、2420mmのホイールベースも関係して見事である。男子の平均身長が180cm以上というドイツ国民を飲み込むのだから、窮屈では国民車にはなれない。
スタイリングは見てのとおりスクエアボディのいたってシンプルなデザイン。各部パーツ類の剛性感や接合強度や開閉部や、詰まった隙間など質実剛健度の高 さはまさにフォルクスワーゲンのテイストだった。スモールカー=ローコスト。国産に見られるチープなコストダウン感を感じさせないところがすでにスモール カーの域を越えている。
パサート・オールトラックの試乗時に無線を使い頻繁に位置確認や情報交換を行いながら走行していた。それは2台のup!でも無線交信は活きている。それ にも関わらず試乗開始からものの数キロ、4名が押し黙ってしまった。なぜか? 理由はもちろんup!である。
この状況、例えばフォルクスワーゲンゴルフ を同クラスのライバル車と比較したときにも起きる現象だ。アクセルを踏み込んで加速しブレーキで減速し、ステア操作して曲がり、高速走行での安定性など、 いかにも太い骨格のボディに守られた安心感、剛性感と強度や、操作した事が忠実に再現される正確性を知ったときと同じ。まさにクルマと一体になった驚きと 完成度の高さを、up!で走行を開始して間もなく、4人が4人とも同じタイミングで感じ取っていたのだった。
個人的にそれは絶句に近かった。それまで乗ってきたスモールカーが一気に陳腐に思えるほど、それは次元が違い過ぎる。まさにゴルフやポロの流れを受ける 操縦安定性と乗り味と質感を持っている。
従来のスモールカーは、高速操縦安定性を確保するためにサスペンションを引き締める傾向があった。しかし、up! のそれはサスペンションストローク、つまり上下動をスムーズにストロークさせたうえで、ショックアブソーバーで上下動を減衰させる。というごく当たり前の ことが自然なクルマの動きとして行われている。
特に好印象なのは、リヤのサスペンションストローク量と接地性の高さにある。リヤが粘るように接地安定するからフロントは、つまりステアリングをラフに操作しても挙動変化に不安がない。まさに4輪で大地を捉え、路面の凹凸の変化に見事に追従しながら進んで行く。
タイヤの縦方向の撓みとサスペンション・ストロークやが絶妙に同調して路面からの衝撃を角張らず丸く"いなし"ながら吸収。もちろんリヤからの突き上げ感や跳ねるなどの不快な動きは皆無。懐の深い安定性や安心感があるからこそ、道路状況に応じて高速ハンドリングや安定性、果ては最高速にチャレンジする勇気が沸く。
エンジンは日本仕様と同じ75ps/9.7kgmの、いわゆるパワフル仕様。3気筒独特のサウンドと振動を感じながらフル加速すると、3速まではリミットの6500rpmまで回り50/90/140km/h。最高速は5速ではなく4速6000rpmまで回り170km/h! 下りで175km/h!!まで伸びて頭打ち。欧州のカタログ値と同等の最高速を実感した。
驚きは高回転になるほど機関が同調するのか、回転がスムーズになりノイズが軽減され回転バランスも振動も見事に整い静粛性が高まる点。それをバランサーシャフトの類なしに達成したことに再び驚く。3気筒の存在感を一気に高めてしまった。
さすが、というべきはこの最高速域でも平然とステア操作ができるということ。Wレーンチェンジを不安なくこなし、高速コーナリング中もクルマの挙動はい たって安定姿勢。不穏な動きをいっさい感じないからこそできるステア操作である。
こんな走りを展開しながらイタリアを横断してスイス・ジュネーブまでの山 岳路や高速道路を含めた燃費は、加減速が多い山岳路で17〜18km/L。130km/hでクルージングし、時に170km/hオーバーまで引っ張った高 速走行で19〜20km/L。ストップ&ゴーが圧倒的に少ないとはいえ、ハイブリッドカーの実燃費と同レベルのup! の実用性の高さに改めて衝撃を覚える。
どうしてスモールカーのup!に、ここまでの完成度が必要なのか? 開発のトップ、Drウルリッヒ・ハッケンベルグによると、中国やインドはこれからマイカーブームになる。そうして起こるあらゆる状況に対して、現状のスモールカーの安全基準(衝突安全)では、大変な問題が起こる。事故やトラブルに対応したスモールカー。up!の完成度の高さが、スモールカーを持つ世界中のメーカーに激震が走ることは間違いなく、そこでスモールカーの安全性が引き上げられることを切望する。
5〜30km/hの範囲で制御するシティ・エマージェンシー・ブレーキ(レーザーを使う自動完全停止)など、続発する人的ミスによる痛ましい事故を防ぐことにも効果的。日本へは9月頃に上陸予定。
すでに試乗したヒトたちが大絶賛する3気筒のリッターカー、フォルクスワーゲンup!に乗り、オーストリアからイタリアを横断してスイス・ジュネーブまでの1200kmを走破した。日本に上陸する予定のup!は"5ドアのロボタイズド5速AT"と発表されている。今回ロングドライブに連れ出したモデルは3ドアの5速MT。とはいえup!がどういう存在なのかを知るうえで何も問題はなかった。
日本のお家芸といえるスモールカークラスだけに、"大絶賛の1台"といわれてもその完成度は"大方の予想"がつく。ところが、フォルクスワーゲンの開発陣は、このスモールカークラスの世界基準を根底から変える、フォルクスワーゲンの基準による本気のスモールカーをつくり上げてしまった。
オーストリアで開催された「パサート・オールトラック」の試乗会終了後、4名の日本人ジャーナリストは2台のup!に乗り、カメラカーとして伴走するシャランTDIとともに一路イタリアを目指した。
隣の住人との距離が近いスモールカーらしいup!の室内。スリーサイズは全長3540×全幅1641×全高1478mm。欧州ではフィアット500と真っ向勝負のサイズ。日本ではヴィッツやフィットよりひとまわり小さい、要するに軽自動車のサイズに近い。
タイトなのに窮屈ではない。矛盾しているが、後席にオトナが座って足元や膝に余裕があるスペースのマジックは、2420mmのホイールベースも関係して見事である。男子の平均身長が180cm以上というドイツ国民を飲み込むのだから、窮屈では国民車にはなれない。
スタイリングは見てのとおりスクエアボディのいたってシンプルなデザイン。各部パーツ類の剛性感や接合強度や開閉部や、詰まった隙間など質実剛健度の高 さはまさにフォルクスワーゲンのテイストだった。スモールカー=ローコスト。国産に見られるチープなコストダウン感を感じさせないところがすでにスモール カーの域を越えている。
パサート・オールトラックの試乗時に無線を使い頻繁に位置確認や情報交換を行いながら走行していた。それは2台のup!でも無線交信は活きている。それ にも関わらず試乗開始からものの数キロ、4名が押し黙ってしまった。なぜか? 理由はもちろんup!である。
この状況、例えばフォルクスワーゲンゴルフ を同クラスのライバル車と比較したときにも起きる現象だ。アクセルを踏み込んで加速しブレーキで減速し、ステア操作して曲がり、高速走行での安定性など、 いかにも太い骨格のボディに守られた安心感、剛性感と強度や、操作した事が忠実に再現される正確性を知ったときと同じ。まさにクルマと一体になった驚きと 完成度の高さを、up!で走行を開始して間もなく、4人が4人とも同じタイミングで感じ取っていたのだった。
個人的にそれは絶句に近かった。それまで乗ってきたスモールカーが一気に陳腐に思えるほど、それは次元が違い過ぎる。まさにゴルフやポロの流れを受ける 操縦安定性と乗り味と質感を持っている。
従来のスモールカーは、高速操縦安定性を確保するためにサスペンションを引き締める傾向があった。しかし、up! のそれはサスペンションストローク、つまり上下動をスムーズにストロークさせたうえで、ショックアブソーバーで上下動を減衰させる。というごく当たり前の ことが自然なクルマの動きとして行われている。
特に好印象なのは、リヤのサスペンションストローク量と接地性の高さにある。リヤが粘るように接地安定するからフロントは、つまりステアリングをラフに操作しても挙動変化に不安がない。まさに4輪で大地を捉え、路面の凹凸の変化に見事に追従しながら進んで行く。
タイヤの縦方向の撓みとサスペンション・ストロークやが絶妙に同調して路面からの衝撃を角張らず丸く"いなし"ながら吸収。もちろんリヤからの突き上げ感や跳ねるなどの不快な動きは皆無。懐の深い安定性や安心感があるからこそ、道路状況に応じて高速ハンドリングや安定性、果ては最高速にチャレンジする勇気が沸く。
エンジンは日本仕様と同じ75ps/9.7kgmの、いわゆるパワフル仕様。3気筒独特のサウンドと振動を感じながらフル加速すると、3速まではリミットの6500rpmまで回り50/90/140km/h。最高速は5速ではなく4速6000rpmまで回り170km/h! 下りで175km/h!!まで伸びて頭打ち。欧州のカタログ値と同等の最高速を実感した。
驚きは高回転になるほど機関が同調するのか、回転がスムーズになりノイズが軽減され回転バランスも振動も見事に整い静粛性が高まる点。それをバランサーシャフトの類なしに達成したことに再び驚く。3気筒の存在感を一気に高めてしまった。
さすが、というべきはこの最高速域でも平然とステア操作ができるということ。Wレーンチェンジを不安なくこなし、高速コーナリング中もクルマの挙動はい たって安定姿勢。不穏な動きをいっさい感じないからこそできるステア操作である。
こんな走りを展開しながらイタリアを横断してスイス・ジュネーブまでの山 岳路や高速道路を含めた燃費は、加減速が多い山岳路で17〜18km/L。130km/hでクルージングし、時に170km/hオーバーまで引っ張った高 速走行で19〜20km/L。ストップ&ゴーが圧倒的に少ないとはいえ、ハイブリッドカーの実燃費と同レベルのup! の実用性の高さに改めて衝撃を覚える。
どうしてスモールカーのup!に、ここまでの完成度が必要なのか? 開発のトップ、Drウルリッヒ・ハッケンベルグによると、中国やインドはこれからマイカーブームになる。そうして起こるあらゆる状況に対して、現状のスモールカーの安全基準(衝突安全)では、大変な問題が起こる。事故やトラブルに対応したスモールカー。up!の完成度の高さが、スモールカーを持つ世界中のメーカーに激震が走ることは間違いなく、そこでスモールカーの安全性が引き上げられることを切望する。
5〜30km/hの範囲で制御するシティ・エマージェンシー・ブレーキ(レーザーを使う自動完全停止)など、続発する人的ミスによる痛ましい事故を防ぐことにも効果的。日本へは9月頃に上陸予定。