欧州を代表するデザイン・イベントのひとつ「ミラノ・デザインウィーク」が2022年6月6日から13日まで開催された。国際家具見本市に連動し市内各地で行われるもので、フルスケールでのリアル開催は2019年以来、実に3年ぶりである。

画像: 2022年ミラノ・デザインウィークにおけるポルシェのインスタレーション「The art of dreams」。解説はのちほど。

2022年ミラノ・デザインウィークにおけるポルシェのインスタレーション「The art of dreams」。解説はのちほど。

従来4月に開かれてきたが、今回は夏の開催となった。そのため筆者が訪れた日も34℃に達した。感覚的には蜃気楼を見た気がする暑さだった。それでも新型コロナウイルスに関する大半の規制が撤廃されたことも手伝い、夕方になるとデザインファンも、そうでない人も双方が街に繰り出し、おおいに賑わった。

フォーリ・サローネの別名でも知られるこのイベント、Fuorisalone.itのファイナルレポートによると、催しの数は800以上、1061ブランド、1,380デザイナーが参加した。

四輪・二輪ブランドは、筆者が確認しただけでも14に及んだ。今回はその中からアウディとポルシェによる出展を紹介しよう。

大理石内装のアウディ登場

「アウディ」は「ハウス・オブ・プログレス」を、ミラノの名所・大聖堂にほど近い20世紀初頭の旧銀行本店を借り切って展開した。

画像: アウディが会場とした旧銀行本店「パラッツォ・クレジット・イタリアーノ」。閉幕後は高級レストランへの大改装が始まるという。

アウディが会場とした旧銀行本店「パラッツォ・クレジット・イタリアーノ」。閉幕後は高級レストランへの大改装が始まるという。

メインテーマは「Re-generate」で、入った直後には、アウディのリサイクル&リユースに関する取り組みが解説されていた。

ただし最も興味深かったのは、高級家具ブランド「ポリフォーム」とのコラボレーションだ。アウディが中国都市のユーザーを想定して製作した2022年のEV「アーバンスフィア・コンセプト」を基に、ポリフォームが独自のインテリアをデザインし、ヴァーチャル上で提案したものである。

画像: 2022年「アウディ・アーバンスフィア・コンセプト」 (Photo=Audi)

2022年「アウディ・アーバンスフィア・コンセプト」 (Photo=Audi)

ブースでは、ポリフォームのスタッフが対応してくれた。プロジェクトはアウディからのアプローチで、レベル4自動運転におけるサロット(客間)を模索したという。

ケミカル不使用のレザー、再生コットンなどコンテンポラリーな素材とともに、テーブルには大理石も用いられている。

やがて同じスタッフが「これもポリフォームが提案しました」と言いながら、1枚のガラスプレートを見せてくれた。それは2枚のガラスに繊維をラミネートしたものだった。

こうした斬新なアイディアの数々は、アウディのデザイナーをおおいに刺激したに違いない。

“ポルシェの庭”に野バラ付きドローン襲来

ポルシェは、アウディから数分の距離に出展していた。こちらは18世紀の館「パラッツオ・クレリチ」が舞台だ。そこではベルリンを拠点に活躍する庭園アーティスト、ルビー・バーバーによるインスタレーションが展開されていた。

画像: ポルシェがインスタレーションを展開した「パラッツォ・クレリチ」のエントランス。ブランド名の表示は、きわめてさりげない。

ポルシェがインスタレーションを展開した「パラッツォ・クレリチ」のエントランス。ブランド名の表示は、きわめてさりげない。

これは2021年秋にポルシェが開始したエキシビジョン「ザ・アート・オブ・ドリームズ」シリーズの第2弾で、共通タイトルEverywhereness(偏在・あらゆる場所に存在すること)が示すとおり、第1回はフランスの作家による巨大アート作品をパリとシンガポールで展示している。

最初の中庭には、無数のバラが植えられ、その間に迷路状の通路が設けられていた。イベントのカタログでバーバーは「不思議の国のアリス」の一節である「夢は現実ではないが、どちらがどちらであるかは誰が決めるのだろう?」を引用している。鏡状の床材による、目眩がするような太陽のリフレクションも手伝って、まさに仮想と現実が交錯するような視覚的世界が出現していた。

そうしたムードのなか、一日数回プロによるヨガの時間や、パフォーマンスも実施された。後者を待っていると、瞑想を思わせる音楽が流れるなか、赤や白のバラをぶら下げたドローン12機が飛来。花の水分補給も兼ねたミストの上を、シンクロナイズしながら上下し続けた。目指したものは、自然と人工の空間、そしてテクノロジーの3つへの思い、という。

奥の中庭にも、ふたたびバラが植えられていたが、その中央には1972年製「ポルシェ911 S 2.4
タルガ」が据えられていた。この車両は、ポルシェ・デザイン社の50周年を記念してレストアされたものだ。

メーカーによる、これ以上のクルマに関する解説はない。しかし筆者が独自に解釈を付け加えるなら、もしこれが「タイカン」であったとしたなら、その威圧的ともいえる存在感に花たちが負けてしまっただろう。もしくは逆に、911時代とははるかにレベルが異なる保安基準の呪縛を受けながら造形されたそのフォルムは、自由に咲き誇るバラと対照的に、哀れなものに映ってしまったかもしれない。

いっぽう、半世紀前の911は、不変の美の出発点という意味で、バラと共通のハーモニーを醸し出すことに成功していた。そうした意味では、絶妙な車種のセレクトであった。

男が(ほぼ)いない

花の美しさゆえだろうか。そのポルシェによるインスタレーションは筆者の訪問日、女性来館者がきわめて目立った。小学校から大学まで女子比率が高い音楽系の教育機関で育った筆者でさえ、一瞬狼狽した、と記せば現場の状況をおわかりいただけるだろうか。デザインウィークの他イベントと比較しても、格段に女性比率が高かった。

彼女たちの多くは花の迷路に入って、スマートフォン内蔵カメラで自撮りをしたり、友達と撮り合っていた。脇を見れば、さらにそうした行為に特化したと思われる撮影スペースも設営されていた。ちなみに自動車メーカーでは「レクサス」も、花こそなかったが同様のエリアを設けていた。来場者のインスタ映えを意識したブースは、この世界的デザインイベントでもmustなのかもしれない。

それはともかく、従来男性ユーザーのイメージが強かったポルシェというブランドが「女子力」「ジェンダーレス」を静かにアピールし始めたかと考えると、なかなか画期的なことである。また、そうした意図があるとすれば、モーターショーと比較にならないほどの効果があった。

インハウス・デザイナーを奮起させ、新たなマーケティング手法をさぐる。かくもデザインウィークは、自動車ブランドにとって意義あるものといえる。

画像: 自撮りに最適と思われる、さらなるスペースも用意されていた。Everywherenessとは、ポルシェが2021年に開始したThe Art of Dreamsの共通タイトルである。

自撮りに最適と思われる、さらなるスペースも用意されていた。Everywherenessとは、ポルシェが2021年に開始したThe Art of Dreamsの共通タイトルである。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=Akio Lorenzo OYA, Audi, Porsche)

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