2022年5月21〜22日、イタリア北部コモ湖畔で自動車イベント「フォーリ・コンコルソ」が開催された。今回の主役は、ずばりカスタムメイドのポルシェたちだ。

画像: イタリア・コモで2022年5月に開催された「フォーリ・コンコルソ」で。今年の主役はポルシェのパーソナライズ。

イタリア・コモで2022年5月に開催された「フォーリ・コンコルソ」で。今年の主役はポルシェのパーソナライズ。

911クラシック・スポーツ、初のパブリック・デビュー

コモのヒストリックカー・イベントといえば、1929年に起源を遡り、BMWクラシックが後援する「コンコルソ・ヴィラ・デステ」が有名だ。いっぽうフォーリ・コンコルソは2019年、ミラノの高級紳士アパレル・レーベル「ラルスミアーニ」のグリエルモ・ミアーニ会長によって創設された若いイベントである。彼が目指すのはFuori concorso(コンクールの外)の名前が暗示するとおり、まったく新しい視点で自動車文化を楽しもうというものだ。

画像: 「フォーリ・コンコルソ」オーガナイザーのグリエルモ・ミアーニ氏。

「フォーリ・コンコルソ」オーガナイザーのグリエルモ・ミアーニ氏。

第1回でベントレーの1世紀を祝った際は、1990年代の比較的若いスペシャルモデルに焦点を当てた。続く2020年には、コモも含むイタリア北部で、ターボチャージャー装着車限定の走行会を企画。コースの途中にはトリノにあるフィアット・ランチアそしてアバルトのメーカー歴史資料館見学を楽しんだ。同年夏には、サルデーニャ島のコスタ・スメラルダでビーチカーやキャンパーなどを地中心とした“オン・ザ・ビーチ”と題したミーティングを企画。メインのイベントは基本的にヴィラ・デステのカレンダーに合わせているが、そこでも走行会を組み合わせるなど、より「静」と「動」を組み合わせているのが特徴といえる。

さて、2022年の第1特集は、メイン会場のヴィラ・オルモで展開されたトリノ自動車博物館のコレクション展示、および一部車両の実演走行だった。オーガナイザーによれば、今後も毎年さまざまなミュージアムとのコラボレーションを展開してゆくという。

画像: 3カ所ある会場のひとつ、ヴィッラ・グルメッロと筆者。

3カ所ある会場のひとつ、ヴィッラ・グルメッロと筆者。

そして第2特集は、ポルシェのパーソナライズ部門「エクスクルーシヴ・マヌファクトゥーア(Porsche Exclusive Manufaktur)が手掛けた歴代車両である。こちらは別の2会場であるヴィラ・デル・グルメッロおよびヴィッラ・スコータで展開され、展示車両は、個人蔵とポルシェ・ミュージアム蔵を合わせて30台以上に及んだ。

門をくぐって最初にビジターを迎えてくれたのは、今回世界初の一般公開となった「911スポーツクラシック」だ。4月28日にリリースされたばかりのこの車両は、当サイトの別ページで解説されているとおり1250台の限定生産である。イタリア国内価格は285,863ユーロ(約3877万円。付加価値税込)から。イタリアのディーラーへのデリバリーは2022年7月になるとみられる。

911スポーツクラシックに続いて、邸内の坂道や庭園に沿って、エクスクルーシヴ・マヌファクトゥーアが手掛けてきたクルマたちが歴史絵巻のように展開されていた。

画像: 陶芸絵付け作家ネルソン・アキシーヤ氏。さまざまなポルシェ911のサイドビューを制作中。

陶芸絵付け作家ネルソン・アキシーヤ氏。さまざまなポルシェ911のサイドビューを制作中。

カラヤンや王族も魅了した

そこで、同部門の歩みを振り返ってみよう。その前史は、1948年にフェリー・ポルシェ氏が「356」のリミテッド・エディションを製作したことに遡る。コンラード・アデナウアー首相の356カブリオレのためには今日でいう自動車電話を装着。ドイツ屈指の鉄鋼メーカー「クルップ」創業家のアルフリート・クルップ・フォン・ボーレン・ウント・ハルバッハの同じく356には、当時としては先進的な試みであったリヤウィンドー・ワイパーを試みている。

1971年になると、本社工場内にリペアショップとプライベートのレーシングドライバー向け部門を創設。「911カレラRSR」や同「RS3.0」を製作した。並行してポルシェ家やピエヒ家のメンバーのため、ポルシェのデザイナーたちが内外装の特注車を製作している。

そして1970年代後半には、今日のエクスクルーシヴ・マヌファクトゥーアの直接の起源となる「ゾンダーヴンシュSonderwunsch(特別の願い)」プログラムをスタートした。ちなみにゾンダーヴンシュの名称は、近年のポルシェ製カスタマイズドカーにもたびたび用いられている。また、今回のイベントでもサブタイトルに選ばれた。

その後、世界の自動車界でチューニングが盛んになると、外部チューナーの品質に満足しないファンたちがポルシェ本社の扉を叩くようになった。そうしたクライアントを救うべく、ポルシェはさらにカスタムメイドに力を入れた。「935グループ5」にイメージを得た「911ターボ」のフラットノーズ化はとくに好評を得た。1980年代にはターボルックと称するカレラ風カスタマイズに多くのオーダーが集まった。1986年には「ポルシェ・エクスクルーシヴ」に発展。これは後年、他のドイツ系プレミアムブランドが同様のカスタマイズ用プログラムを充実させるのに一歩先駆けていたといえる。

カーナビゲーションの黎明期には、それを取り込んだダッシュボードをオーダーする顧客が増えたというのも時代を象徴する話だ。

セレブリティも魅了してきた。例としてポルシェ・ファンで知られたオーケストラ指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンには「911ターボ3.0」のライトウェイト・バージョンを、カタールの王族には、ポルシェのロゴを24カラット・ゴールドの家紋に付け替えた「959」を製作し納車している。

後年も「550スパイダー」にインスパイアされたテールをもつ「ボクスター」などを製作。2000年代に入ると、今回の911スポーツクラシックにも採用されたダックテールのリアスポイラーなどレトロルックのオーダーが増えたという。さらに2012年には、ポルシェ・クラブの創立65周年を記念して、「911クラブ・クーペ」を13台製作している。

いっぽうで、限りなくレーストラック仕様に近い、公道走行用ホモロゲーション取得可能な車両も得意としている。

現在、ツッフェンハウゼン、アトランタ、ロサンゼルス、ドバイそして上海にコンサルテーション用ルームが設けられている。

ポルシェづくりに自動参画していた!?

参考までに当日の解説員によれば、ポルシェ・エクスクルーシヴ・マヌファクトゥーアは納車まで2〜3年に及ぶことがある。ただし、大半のオーナーは辛抱強く待つという。ツッフェンハウゼンまで受け取りに行くのを楽しみとするユーザーと、地元のポルシェ・センターで納車を希望するユーザーは半々といったところらしい。

加えて、会場では「928」の5ドア仕様、「カイエン」のクーペといった、計画されながらも市販が叶わなかったプロトタイプたちも華を添えた。それらの意外なスタイリッシュさは、もしも実現していたら、という想像を膨らませてくれる。

当日の天気予報は30℃を超える夏日だったが、湖から吹き上がる風と木陰で、会場は心地よい空気に包まれていた。なにより、カスタマイズされたポルシェを囲んでくつろぐファッショナブルなビジターたちが醸しだす雰囲気は、911クラシックが目指した1960年代ムードそのものだった。

画像: 湖畔から吹き上がる風を浴びながらくつろぐビジターたち。手前は1989年911スピードスター・ターボルック(930)[個人蔵]

湖畔から吹き上がる風を浴びながらくつろぐビジターたち。手前は1989年911スピードスター・ターボルック(930)[個人蔵]

最後に「エクスクルーシヴ・マヌファクトゥーア」に話題を戻せば、1985年ル・マンで優勝した「956」を模したペインティングの「GT3」に目がとまった。聞けば、元F1ドライバーであるパオロ・バリッラ氏が3年間をかけてエクスクルーシヴ・マヌファクトゥーア部門と構想を練り上げた結果という。60歳の誕生日祝いにオーダーしたものであった。自分へのプレゼントである。それを示すように、リア・スポイラーには「PB60」のレンダリングが施されている。

パオロ氏は現在、パスタで知られる食品メーカー「バリッラ」の副会長を務めている。バリッラのパスタといえばイタリアに住むわが家の主食である。筆者自身も間接的に、至高のポルシェづくりに参画していたと考えれば楽しいではないか。

画像: 2021年911 GT3“ゾンダーヴンシュ”の前で。丁寧に解説してくれたトリノ自動車博物館のファブリツィオさん、そしてリンダさん。

2021年911 GT3“ゾンダーヴンシュ”の前で。丁寧に解説してくれたトリノ自動車博物館のファブリツィオさん、そしてリンダさん。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA / 写真=Mari OYA, Akio Lorenzo OYA, LARUSMIANI)

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