ひょんなことから、横浜ゴムのタイヤ工場が見学できることになりました。その工場とは、愛知県にある新城(しんしろ)工場。ハイパフォーマンスタイヤの「ADAVAN」を中心に、「BluEarth」などの乗用車タイヤを製造している工場です。

画像1: 大人の社会科見学〜「雨に強いヨコハマタイヤ」の理由を探る

ヨコハマタイヤといえば「雨に強い」、すなわち、ウェット性能に優れているというのが強みのひとつ。タイヤのウェット性能を示すラベリング制度において、最高ランクの「a」を取得したタイヤは350サイズ(2020年2月現在)を数えます。そのなかには、ポルシェやアウディの認証タイヤとして身近なハイパフォーマンスタイヤ「ADVAN Sport」や、低燃費タイヤ「BluEarth-GT AE51」など、さまざまなブランドがあります。なかでも、低燃費タイヤでは低転がり抵抗性能とウェット性能がトレードオフの関係にあることから、その両立は難しいといわれています。

最近は女優の深田恭子さん出演のCMが話題になっていて、あの笑顔に釘付け……というのはさておき、「どうしてヨコハマタイヤは雨に強いのだろう?」と疑問を抱いていた私にとって、その謎を解き明かす絶好のチャンス到来です!

新城には、1964年に建設の新城工場と、2004年にスタートした新工場の新城南工場があります。今回はより生産技術が進んでいる新城南工場を見学することができました。ただし……

画像2: 大人の社会科見学〜「雨に強いヨコハマタイヤ」の理由を探る

新城南工場は基本的には公開されておらず、一般向けの「工場見学ツアー」なども受け入れていません。それだけ機密性が高い工場ということで、中の様子をお伝えする写真がほとんどないことをご容赦ください。

工場では、おおまかに5つの工程でタイヤがつくられます。

  1. 混合工程……さまざまな原材料を混合
  2. 材料加工工程……カーカス、ビード、トレッド、ベルトといったパーツを用意
  3. 成型工程……各パーツを1本のタイヤの形に組み上げる
  4. 加硫工程……組み上がった「グリーンタイヤ」(生タイヤ)を加熱・加圧
  5. 検査工程……できあがったタイヤをチェック

新城南工場は1日あたり8,500本、新城工場は同40,000本の生産能力があるということですが、検査工程で全数をスタッフがチェックするのをはじめ、思った以上に手間をかけてつくっているんだなぁ……というのが、素人の率直な感想でした。

さて、肝心の「雨に強いヨコハマタイヤ」の理由ですが、その鍵を握るのが「シリカ」。シリカは二酸化ケイ素(SiO2)ともいわれ、タイヤのコンパウンド(ゴム)に配合されることで、ウェットグリップを向上させる働きがあります。

「一般的に、ウェット性能を良くしようとすると、転がり抵抗が悪くなります。この相反する性能を早くから両立できたので、『雨に強いヨコハマ』を謳うことができました」とは、新城工場技術1課長の亀田慶寛さん。「私たちは、いちはやくシリカをたくさん配合できる技術が開発できました」。

ただ、ゴムとシリカは“水と油”のような関係にあり、コンパウンドのなかでシリカを均一に分散させることはとても難しいといいます。コンパウンドのなかでシリカが“ダマ”になってしまうとそこで発熱し、転がり抵抗が悪くなるというのです。そこで、横浜ゴムでは、「シリカ分散剤」や「高反応カップリング剤」などを用いるとともに、粒子の小さいシリカを使うなどして、より多くのシリカをコンパウンドに練り込んでいるそうです。

画像: 横浜ゴム独自のコンパウンド配合技術 ⓒ YOKOHAMA RUBBER

横浜ゴム独自のコンパウンド配合技術

ⓒ YOKOHAMA RUBBER

その際に重要になるのが、混合工程での材料の混ぜ方。混ぜすぎると熱などの影響で、ゴム本来のしなやかさが失われてしまうのです。そこで、横浜ゴムでは独自の材料混合技術を開発して、目指す性能のコンパウンドをつくっています。

下の写真が、トップシークレット(!?)のミキサーから、練り上がったゴムが“のし餅”のように出てくる様子。当然、タイヤの性能にあわせて、コンパウンドは調合されており、低燃費タイヤからハイパフォーマンスタイヤまで、さまざまなコンパウンドがこの機械で混ぜ合わされています。

画像: 原材料を混ぜ合わせるミキサー

原材料を混ぜ合わせるミキサー

もちろん、タイヤのトレッド部もウェット性能を大きく左右します。トレッドパターンや溝の深さをどうつくるかに加えて、タイヤの接地面にできるだけ均一に圧力がかかるようにすることも大切。それにより、より高いウェットグリップ性能が発揮できるようになるからです。

「タイヤがうまく接地できていないと、せっかくの性能を生かすことができません。その点、私たちは、シミュレーションなどを活用して、接地特性を最適化することができました。たとえば、ドライハンドリングの良さで欧州メーカーに多く採用される『ADVAN Sport V105』では、ウェットをはじめ、さまざまな性能をまんべんなく引き上げることができたのです」とは、新城工場/新城南工場副工場長の川瀬博也さんの言葉です。

取材を終えて、あらためてタイヤづくりの大変さを感じる一方、手間暇かけてつくられるタイヤが愛おしくなりました。

「せめて空気圧くらいはちゃんとチェックしよう」

そう心に誓い、新城をあとにした私でした。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Satoshi Ubukata,YOKOHAMA RUBBER)

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