フィレンツェで開催される世界最大級の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」。2020年1月7日から10日に開催された第97回には1200以上のブランドが参加した。

ピッティ・イマージネ・ウオモ97会場にて。
今回も、世界各国の目利きバイヤーたちが、2020-21年秋冬物アイテムを熱心にリサーチしていた。
会場の一角における筆者。気がつけばピッティ取材歴15回。
会場内で、「リセウム」と呼ばれる建物は、比較的新しいブランドが多数集うパビリオンであった。そこで、買付交渉をしようとする人々が絶えない、ひとつのスタンドを発見した。
出品されたTシャツ、ポロ、ベルト、キャップなどに描かれたイラストは、ポルシエ356や初期型911を想起させた。バッグに選ばれたハウンドトゥース柄も911の伝説的シート地を連想させずにはいられない。そもそもブランドロゴからして、1966年に発表された911Sの5本スポーク・アロイホイールを匂わせる。

5本スポークのマークを発見した途端、車好きの香りを感じた。
ブランド名は「オリジナルレース(Original Race)」。本拠地は、イタリア半島にある小国・サンマリノ共和国だ。
バイヤーたちが一瞬途絶えたのを見計らって、スタンドにいた人物のひとりを捕まえるのに成功した。幸運にも、相手はデザイナー兼共同創業者のダヴィデ・ケーリ氏であった。

「オリジナルレース」のデザイナー兼共同創業者、ダヴィデ・ケーリ氏。53歳。
ピッティには、2回めの出展という。カシミア、コットンは常に最上級のものを厳選。アパレルのラインはメイド・イン・イタリーが原則と、彼は説明する。

ブランド名は「オリジナルレース」。エンスージアストの泣かせどころを押さえたデザインだ。

クオリティ感漂うセーター。一部には、スペック表まで記されている。
ケーリ氏本人について、もう少し詳しく聞く。
彼は、イタリア屈指のビーチリゾート、リミニで1966年に生まれた。前述の911Sやランボルギーニ・ミウラと同い年である。「実際にミウラは子ども時代の僕にとって、夢の車だったね」
ボローニャ大学で学んだのち、グラフィックデザイナーとして活動してきた。
ベルトにも走る、走る!
最初の車は? 「親父のお古のルノー4だった。2日後には放置したよ」と笑う。
いっぽう、自分で手に入れた最初の車はマツダMX-5ミアータだったという。
MX-5で操縦の楽しさを知ったキアリ氏が、自動車遍歴を重ねるうちに究極のドライビングプレジャーを与えてくれるマシーンとして到達したのは、ポルシェ911初期型(901)だった。
「もちろんランボルギーニにも惹かれた。でも個人的にはGTよりも、レースのマインドに魅せられたことから、よりポルシェの世界に入って行ったんだ」と振り返る。
仕事でも、レッジョ・エミリアを本拠とするレーシングチームのポルシェ・カレラカップ参戦車両の車体グラフィックデザインを手がけるようになった。
自動車を通じて仲間もできた。そのうちのひとりをビジネスパートナーとして2019年に立ち上げたのが「オリジナルレース」であるという。

シャシーナンバー風にシリアルナンバーが刻印されたコレクション。

背裏には、マキシマム感覚を示す8200rpmを指した回転計が。

同じく回転計付きのワッペン付きキャップ。

フレグランスも。ケーリ氏いわく、古い車やレザーが発する香りのイメージを狙ったという。
現在ガレージには5台のポルシェをはじめ、オリジナルMINI、ロータス・エリーゼなどが収まる。
11歳の息子がいる。ちなみにイタリアでも、子どもの自動車に対する関心が薄くなって久しいが? それに対しケーリ氏は、「いくら自動車が一般化しても、それが紡いできた文化は絶やしてはならない」と語る。

ディスプレイでは、デザイン作業中のケーリ氏の姿が上映されていた。コレクションの一部は、日本でも「モトーリモーダ」を通じて販売されている。
このファッションイベントに、筆者はかれこれ15回も通っているが、ここまで熱いクルマ好きと出会ったことはなかった。
そして彼は、こう締めくくってくれた。
「電動化の時代が到来しても、フラット6が奏でるサウンドは永遠の魅力。ちょうど音楽におけるオペラのようにね」
(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)