ドイツ人がCabrioletを“買い戻し”ている
今回は、イベントで会った空冷フォルクスワーゲン(VW)専門パーツショップの素敵な面々のお話を。
イタリア北部ボローニャで10月26日から29日までヒストリックカー見本市「アウトモト・デポカ」が開催された。同イベントは従来、同じ北部のパドヴァで開催されていたイタリア最大・欧州屈指の旧車ショーで、今回第40回を迎えたのを機会に、より広く、パビリオンも新しいボローニャに引っ越した。
その一角に、一軒のVW専門ショップによるスタンドを発見した。名前を「VW Store」という。あまりにストレートなネーミングに一瞬たじろいだが、見ているとお客さんが絶えない。
「Beetle Type1」用を中心に、ありとあらゆるリプロダクション・パーツが並ぶ。これはあそこ用、あれはあの場所用…とクイズのごとく思いを巡らせていると、時間を忘れてしまう。
横断幕には「部品販売、修理、レストア」と記されているが、会場では実際のレストア済車両も販売されていた。
黒白ツートーンの「Karmann Ghia Type1 Coupé」は1961年式。標準エンジンの1.2リッター仕様である。
1972年「T2」は9人乗りで、ウィンカーがヘッドライト下(後期型は、それがヘッドライト上に移る)に付いている前期型だ。
「今回陸送車で運んできた5台は完売。いずれもドイツ人が買って行きました」と話すのは、VWストアの共同経営者であるクラウディオ氏である。「生活に余裕がなく、古いクルマを維持できなくなったイタリア人が売りに出し、それをドイツ人が買う、というのが、ここ10年近く続く市場傾向ですね」と語る。
それにちなんで、クラウディオ氏はさらに面白い話を聞かせてくれた。同じく展示車だった「1303Cabriolet」に関してだ。
「Cabrioletは新車当時、実はイタリアでは、ドイツ以上に人気だったのです」。今日のイタリアでは温暖化が進んだこともあり、オープン人気が極めて限定的—各社とも現行モデルでスパイダーやカブリオレがほとんど見られないことからも、それはおわかりだろう—なのとは対照的だ。そうしたなか、今日ではドイツの人々が、いわば自国製品を“買い戻している”というのは、面白い現象である。
“恩師”へのリスペクト
VWストアの本拠地は、イタリア北部クーネオ県である。町こそ異なるが、初代VW「Golf」や同「Scirocco」のデザイナーとして知られるジョルジェット・ジウジアーロの故郷だ。
クラウディオ氏は1976年生まれ。実は、まったく別の業界からの転職だという。「前は精肉店で働いていたんだ」と笑う。しかし16歳で最初に手に入れたのがBeetleだったことで、その魅力に取り憑かれてしまった。
やがて同じVWへのパッシオーネ(情熱)で意気投合したジャコモ氏と2003年にVWストアを開業したあとも、「しばらく精肉店と兼業していましたよ」と振り返る。約2年後に専業となることを決意し、現在に至っている。
開業当時、イタリア国内に空冷VWのパーツ販売業は4軒しかなかったという。そうしたなか、2人に開業指導をしてくれたのは、本欄2015年7月29日公開記事に登場したショップ「デイ・ケーファー・サービス」の店主だった。イタリアのファンの間では神(実際、Deiはイタリア語で神々の意味である)と呼ばれているジョヴァンニ・デイ氏だ。世界は狭い。デイ氏は、自分の商売敵(がたき)が増えるにもかかわらず、熱心に業界のノウハウを、それも惜しむことなく教えてくれたという。
「デイ氏は何も言わなかったけど、敬意を払って、彼が出店するイベントにはボクたちは決して出店せずにやってきました」とクラウディオさん。
仁義に厚いのもVWパーツ商と確信した筆者であった。
(report:大矢アキオAkio Lorenzo OYA・photo:大矢麻里 Mari OYA/Akio Lorenzo OYA)