祝・拡張オープン!
イタリアでフォルクスワーゲン「T-Roc」が好調である。2022年7月の国内乗用車登録台数では3351台を記録し、全体では「フィアット・パンダ」、同「500」に次ぐ3位にランクインした。外国ブランド車では総合1位である。
Cセグメントに限定すれば、いずれもイタリア国内で生産されている「フィアット500X」「ジープ・レネゲード」を抑えて1位となった。2021年同期の登録台数である1949台からすると、1.7倍以上も増加したことになる(データ出典:UNRAE)。
依然以前続くSUVトレンドにおいて、イタリア人ユーザーの間に根づくフォルクスワーゲンブランドへの信頼が奏功していることは明らかだ。加えて、同じフォルクスワーゲンのSUV「T-Cross」と比較すると、ゆとりがあり、かつ日常使いしやすい全長4.2m台にとどまっていることが好評の背景にある。
ところで、2020年2月の本欄で訪問した、筆者が住むシエナのフォルクスワーゲン販売店「エウロモトーリ」が大改装を行ったという。それを機会にフォルクスワーゲン販売最前線の最新状況を知るべく、再訪してみることにした。
赴いてみると、しばらくの間使われていなかった下の階が改装されて大きな新車ショールームとなり、以前新車用だった上階は認定中古車「Das WeltAuto」専用展示スペースに変更されていた。
今回対応してくれたのは、ヴァレリア・ナルディーニさん。大学でロシア語を専攻したあと、他の外資系自動車販売店を経て、数年前エウロモトーリに転職した。現在は主に広報担当だ。「通勤には『ポロ』を運転して、毎日往復40kmを走っています」と自己紹介してくれた。
同色のフォルクスワーゲンが街に多い理由
最初に、気になる国際的な半導体不足やロシア-ウクライナ情勢による部品不足の影響について。それに関してヴァレリアさんは「一部の装備やアクセサリーが欠品状態です」と答える。実際、パワーウィンドー関連の部品が無いという理由だけで、デリバリーできない車種もあるという。
そこでショールームでは、即納可能な在庫車両を顧客に積極的に薦めている。ティグアンこそ在庫薄だが、ポロやT-Crossなどは柔軟に対応できるそうだ。
「ただし、ほとんどのお客様は、注文した仕様どおりの車両が納車されるのを待ってくださいます」と話す。フォルクスワーゲンファンは辛抱強いようだ。
ショールームの外に「ID.3」が展示してあるので、EV車の販売状況について聞いてみる。
それに関してヴァレリアさんは、「私たちの販売店エリアでは、まだ市場が形成されているとはいえません」と率直に答える。そして理由を「公共充電インフラが十分でないことです」と分析する。たしかにトスカーナ一帯の場合、その設置場所は旧市街に集中していて、郊外になると、いきなり数が減少する。故障している場合も少なくない。
「いっぽうで人気の仕様は」と彼女は続ける。「(ガソリンと切り替え可能な)天然ガス仕様です」。それを裏付けるように、2022年1-7月のイタリア国内天然ガス車登録台数で、「Polo」は1184台で3位、「Golf」は873台で4位、「up!」は862台で5位を占め、全台数を合わせると全ブランド中トップである。隠れた人気フォルクスワーゲン車なのである。
なお、up!に関していえば、2022年1-7月のセグメントA(シティカー)登録台数で7位(3840台)に入っている。イタリアではフィアット・パンダが2012年、同500に至っては2007年にそのデビューを遡る。長年にわたり定評あるクルマが登録ランキングの上位を占めるこの国で、11年選手のup!も奮闘しているのである。
ボディカラーの売れ筋は? 「やはり追加料金不要の塗色ですね」とヴァレリアさんは証言する。
イタリア仕様の場合、“無料色”は限られている。2023年モデルイヤーのPolo 1.0TSIを例にとると、「アスコット・グレー」1色で、あとは450〜1015ユーロ(約6万2千〜14万円)のプラスだ。
Golfの「Life1.0TSI」仕様の場合も追加料金不要なのは「ウラン・グレー」1色で、他色は425〜1120ユーロ(約5万8000〜15万4000円)が別途必要となる。イタリアの路上を走る新車フォルクスワーゲンに同色が多いのは、こうした背景がある。
孫のおかげでWe Connectもすんなりと?
思い起こせば2020年から2022年春まで、イタリアでは新型コロナウィルス対策として外出制限をはじめとする厳しい規制が数回にわたり実施されてきた。そうしたなかで、お客さんの変化は?
そのような筆者の質問に対して、ヴァレリアさんは「私どもへのコンタクトの方法が、明らかに変わりました。2年前までは電話もしくはメールオンリーでしたが、最近はSNSが明らかに増えました」と語る。
印象的なのは、シニア層のお客さんだという。
「例として、ある70代のお客様は、(オンライン会議システムの)ZOOMを巧みに使いこなしておられるんです。伺ったところ『外出制限期間中に、離れて住む孫と話すうちにスキルが向上したんだよ』と教えてくださいました」
実はヴァレリアさんは広報のほか、会社からもうひとつ仕事を任されている。モバイルオンラインサービス「We Connect」の機能説明だ。装着車の納車時に、アプリのダウンロード、ユーザーアカウントの作成、車両内でのアクティベーション、ナビゲーションへの連携といった作業を手際よく、かつやさしく解説する。「約1時間要する車両説明のうち、半分をWe Connectに費やしてしまうときもあります」
お客さん、とくに前述のようなシニアになるほど、最新デバイスを駆使できたときの満足度は高いだろう。それを実現するのがヴァレリアさんの役割だ。インフォテインメントが日進月歩で高度化するなか、彼女の仕事の達成感は、より増してゆくに違いない。
(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)