【イタリア直送 大矢アキオのかぶと虫! ビートル! マッジョリーノ!】
レトロモビルは今年で第42回。東京ドームの1.4倍にあたる広さの会場に、5日間で昨年を8パーセント上回る約11万8200人が訪れた。
欧州のオークションというと、スーパースポーツカー、往年のコンセプトカーやF1、または戦前の超高級車のイメージがある。だが近年はより敷居を低くし、かつバラエティに富んだ内容にするため、珍しい商用車やポピュラーな車も積極的に扱われるようになった。
シュネラスターは第二次大戦後の1949年に誕生した、いわば今日におけるワンボックス・バンの祖先である。
「レストアを楽しむのに格好の素材」とアピールされていたものの、どこから手をつけたらいいかわからないコンディションにビビった人が多かったのか、レアな知名度が祟ったかは不明だ。結果として、想定価格の下限1万5000ユーロ(約180万円)を下回る1万1920ユーロ(約143万円。手数料込み)で落札された。
初代タイプ2の世界では、「15ウィンドー」といわれるモデルが珍重されるが、今回の出品車はそれを上回る21ウィンドーだ。そのうえサンルーフ付きである
現オーナーは25年前に入手以来、2015年まで丹念なフルレストア作業を重ねてきたという。
跳ね上げ式のフロントウィンドーを含め、ガラスもすべて新品に替えられている。
参考までに、今日でもアルプス以北の新車販売台数におけるサンルーフ仕様車の比率は、アルプス以南のイタリアを圧倒的に上回る。
欧州屈指のヒストリックカー・ショー「レトロモビル」が2017年2月8日から12日まで、フランス・パリで開催された。
レトロモビルは今年で第42回。東京ドームの1.4倍にあたる広さの会場に、5日間で昨年を8パーセント上回る約11万8200人が訪れた。
会期3日めには、恒例の公式オークションがアールキュリアル社によって催された。落札金額の総額は3553万ユーロ(約42億6千万円)に達した。
欧州のオークションというと、スーパースポーツカー、往年のコンセプトカーやF1、または戦前の超高級車のイメージがある。だが近年はより敷居を低くし、かつバラエティに富んだ内容にするため、珍しい商用車やポピュラーな車も積極的に扱われるようになった。
今回のレトロモビルにおけるオークションもしかりだった。その一例が、1961年DKWシュネラスター800Sである。ご存じの方も多いと思うが、DKWはアウディの前身であるアウトウニオンの1ブランドで、今日アウディがグループ本社を置くインゴルシュタットを本拠地としていた。
シュネラスターは第二次大戦後の1949年に誕生した、いわば今日におけるワンボックス・バンの祖先である。
量産車としては事実上初の前輪駆動車を第二次大戦前に発売していたDKWの製品らしく、このシュネラスターも前輪駆動だ。そのおかげで、広くフラットな荷室を実現できた。
エンジンもこれまたDKWが戦前から得意としていた2気筒2ストローク・エンジンだった。
今回出品されたシュネラスターは、さらに"ひねり"が効いていて、当時スペインでライセンス生産された7人乗り仕様である。2015年までずっと現地にあったものという。
「レストアを楽しむのに格好の素材」とアピールされていたものの、どこから手をつけたらいいかわからないコンディションにビビった人が多かったのか、レアな知名度が祟ったかは不明だ。結果として、想定価格の下限1万5000ユーロ(約180万円)を下回る1万1920ユーロ(約143万円。手数料込み)で落札された。
いっぽう内覧会場で、シュネラスターの隣にあったのは、1964年初代フォルクスワーゲンタイプ2トランスポーターである。
初代タイプ2の世界では、「15ウィンドー」といわれるモデルが珍重されるが、今回の出品車はそれを上回る21ウィンドーだ。そのうえサンルーフ付きである
15ウィンドーおよび21ウィンドーの違いについては、筆者が描いたこちらのイラストを参照のこと。
現オーナーは25年前に入手以来、2015年まで丹念なフルレストア作業を重ねてきたという。
パーツ選択にあたっても、純正もしくは、フランスの「メカテクニーク」や米国の「ヴォルフスブルク・ウェスト」といった著名VWパーツ・スペシャリストで厳選したものが使われている。
跳ね上げ式のフロントウィンドーを含め、ガラスもすべて新品に替えられている。
オークションでは、なんと想定価格の上限である10万ユーロに近い9万7744ユーロ(約1172万円。手数料込み)まで競り上がってハンマープライスとなった。
フォルクスワーゲン・トランスポーターの根強い人気を見せつけた。
しかしながらイタリアに住む筆者には、「15ウィンドー」や「21ウィンドー」の気持ちが痛いほどわかる。
イタリアからアルプスを越えてドイツに向かうと、たとえ夏であっても急に太陽が弱くなる。本格的な夏も短い。そうしたなか往年の自動車ユーザーたちは、陽光を浴びて解放的な気分になろうとしたに違いない。
参考までに、今日でもアルプス以北の新車販売台数におけるサンルーフ仕様車の比率は、アルプス以南のイタリアを圧倒的に上回る。
強度やボディ剛性にビクビクしつつ、ユーザーの期待に応えるべく太陽がさんさんと差し込む車を造ろうと窓を増やしていった往年の設計陣がしのばれるのである。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢麻里 Mari OYA)