画像: レトロモビルの公式オークションであるアールキュリアル社の内覧会で。一番手前は1973年「911Carerra 2.7L MFIタルガ」。

レトロモビルの公式オークションであるアールキュリアル社の内覧会で。一番手前は1973年「911Carerra 2.7L MFIタルガ」。

特集はGT3

ヨーロッパを代表するヒストリックカー・ショーのひとつ、「レトロモビル」がフランス・パリで2025年2月5日から9日にかけて開催された。第49回を迎えた今回は、4輪・2輪合わせて2000台以上が展示され、前回を12%上回る14万6千人以上の来場者で賑わった。

メーカーやインポーターの出展は過去最高の17ブースに及んだ。フォルクスワーゲン(VW)グループはVWブランドこそ欠席したものの、前年に続きポルシェとシュコダが参加した。

画像: ポルシェの公式ブースに展示された1973年「911Carerra 2.8 RSR」。プライベーターによって1973から76年にかけて毎年ル・マンに挑戦した車両である。

ポルシェの公式ブースに展示された1973年「911Carerra 2.8 RSR」。プライベーターによって1973から76年にかけて毎年ル・マンに挑戦した車両である。

今回ポルシェの特集は2024年に誕生25周年を迎えた「GT3」であった。おさらいしておくと、その源流は1973年の「911 Carerra RS」であった。レーシングカーに限りなく近い感動をロードゴーイングモデルに与えるのがコンセプトだった。名称は、FIAの競技カテゴリーに由来する。初めてその名前が冠された1999年のモデルは、996の1バージョンとして発表された。ニュルブルクリンク北コースを8分未満で公式ラップした初の量産車だった。

高回転の自然吸気フラット6エンジン、後輪駆動、軽量構造、洗練された空力特性、そしてサーキット重視のサスペンションとブレーキシステムは、25年の歴史を通じてこのモデルの特徴として受け継がれた。GT3は今や911史の燦然たる一部である、とメーカーは定義する。

ブースの一角には、パリ郊外ヴェリジィにある「ポルシェ・クラシック・パートナー」のコーナーも設けられていた。開設から10年。パリ一帯の古典ポルシェ・エンスージアストのために、レストアサービスを提供してきた施設だ。

車体板金責任者のクリストフ・ダ・シルヴァ氏は「この業界には、車体製作をはじめ、たいへん腕の良い職人が数々いることはたしかです」と認めながらも、「私たちは純正パーツを使用し、メーカー本社のアーカイヴを参照しながら修復を進めてゆくことができるのです」と自社サービスのメリットを強調した。

ポルシェ・ワールドの広さを実感

公式オークションであるアールキュリアル社のセールは、2日間にわたって開催された。今回の呼び物のひとつは、1972年「911Carrera RS 2.7」だった。500台が造られたうち初期の1台であるこの車両は、41万7200ユーロ(約6520万円。税・手数料込み)でハンマープライスとなった。

「バックデイティング」の出展も見つけた。"Backdating"とは、新しい車両をベースに、より古いように見せる改造手法である。一般的に外板や内装、そして一部の機構を取り替えてレトロ風の外観を実現する。

フランス西部アンジェのガレージ「GTパッシオン」は、ロラン・ゲラン氏が25年にわたり主宰しているガレージである。約8年前にバックデイティングに進出。これまでに12台を納車した。今回は、1985年「Carerra 3.2」を基に、初代タルガ風の内外装を施した車両を公開した。主要な顧客は、すでに歴代ポルシェを所有しているコレクターが少なくないと語る。筆者が考えるに、洒落た普段使いとして最適だろう。

他にも、以下のような興味深いポルシェを広い会場内で発見できたので、写真とともに紹介しよう。

ふたたびポルシェの公式ブースを覗くと、若者たちの順番待ちができていた。何かと思えば、GT3 RSのシミュレーターだった。仲間がプレイする様子をスマートフォンのカメラに収める青年もいる。ポルシェは未来の顧客予備群の心もしっかりつかんでいる。

画像: ポルシェ公式ブースの一角で。GT3 RSのシミュレーターに興じる若者たち。

ポルシェ公式ブースの一角で。GT3 RSのシミュレーターに興じる若者たち。

フランスではポルシェ・ファンのことを「ポルシスト(porschiste)」という。歴代モデル、最新型、オブジェ、バックデイティング、レストアそしてゲーム…ポルシストたちによるアプローチは人それぞれだ。別の見方をすれば、さまざまな楽しみ方に応えられるという点では、レトロモビルのなかで最も豊かなブランドのひとつではなかろうか。

帰りに乗ったパリ市電T3aでのこと。隣に座る老紳士は、水色とオレンジのガルフカラー・ブルゾンを羽織っていた。スマートフォン画面を「ムフフ…」という顔で眺めている。こっそり覗いてみると、レトロモビル会場で撮ってきたばかりの「908“ラングヘック”」の写真だった。パリでは興奮醒めやらずにネズミ耳を付けたまま帰路をたどるユーロ・ディズニーの来場者をときおり見かける。そのおじさん版のようで、なんとも微笑ましかったのであった。

画像: 908“ラングヘック” 004。初期のコンフィグレーションでは現存する唯一の車両である。ルクセンブルクを本拠とするスペシャリスト、アート&レヴスが出展した。

908“ラングヘック” 004。初期のコンフィグレーションでは現存する唯一の車両である。ルクセンブルクを本拠とするスペシャリスト、アート&レヴスが出展した。

(text & photo:大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)

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