3月末にバンコクモーターショーに行ってきました。このショーにはほぼ毎年行っていたのですが、ここ3年間、例の新型コロナの影響で欠席。久しぶりの取材でした。
毎年モーターショーに行く意味は、純粋にショーの取材というのもありますが、定点観測でその国や地域の移り変わりを見ることができる点も挙げられます。
とくにASEANを取り巻く自動車は、その地域の発展度合いと先進国の事情が絡まり合って、なかなか興味深いものがあります。
タイは日本の自動車メーカーの工場がたくさん作られています。部品調達率によって税率が大きく変わる=クルマの価格が安くなるので、タイでは現地生産車が庶民の足にとして定着しています。ところが、今年バンコクモーターショーに行ってみると中国自動車メーカーがブイブイ言わせているのです。
調べてみると、中国とタイはAFTA(アセアン・フリー・トレード・エリア)によって関税が0になんです。さらに、タイではEV車の物品税が2%と破格に安く設定されていることからEVでタイ市場に攻勢をかけているのです。更にはタイにも生産拠点を作って、東南アジア全域への足場固めを行っているのです。
ちなみに充電方式はというと、CHAdeMO方式とCOMBO方式が併用されています。聞くところによると、チャデモで統一しようとしていたところ、欧州メーカーがコンボ方式でのBEVを発売してしまったのだとか。そんなことがあるのかどうかわかりませんが、ともかく併用する形になって、チャデモとコンボの急速充電器が併設されているのです。
いろんな意味で混沌としているバンコクモーターショーであり、タイのBEV市場なのです。まあ、混とんとしているのはタイに限ったことではなく、欧州でもまだしばらくごたごたが続きそうな気配です。
というのも、前回ちょっと触れた“ドイツ工業会が欧州委員会に対してEV以外の選択肢を求める働きかけ”が通って、『再生可能エネルギーを使って合成したe-FUELの使用を認める方針を固めた』というニュースが大きく報道されました。
e-FUELを使った内燃機関という但し書きは付くのですが、BEVのみという流れは一旦撤回されることになったのです。
だからと言って内燃機関復活!! と喜ぶ(?)のは早計です。この動きには当然反対意見も出ています。例えば製造コストです。現在e-FUERUの製造コストは5~6ユーロ/Lくらいかかるのだそうですが、量産化が進めば1~2ユーロのコストダウンが図れる(イーフューエルアライアンス)と言っています。それでも庶民には高すぎます。仮に燃料に税金がかからなかったとしても4ユーロ/Lですから、庶民の燃料として現実的とは言えません。
またe-FUELを作るのに大きなエネルギーが必要だ、という声も上がっています。まあ“大きなエネルギー”に関しては、2次バッテリーを作るのにも必要なので、どっちもどっち。それからバッテリー製造に必要なレアメタルを中国に牛耳られている現状をどう打開するのか、そもそもレアメタルはレアな資源なので大量にEVに使っていいものなのか。というBEVが抱えている問題もまだ全然解決されていないのです。
NHKのwebニュースによると、「これまで積極的にEV化を推し進めていたフォルクスワーゲンは、傘下のポルシェが合成燃料の生産に取り組んでいることを踏まえたうえで、EVシフトを進めていることを強調するものの、緊急車両や傘下のポルシェの一部モデルに合成燃料を追加することは妥当だと考えている」としています。また、2030年までにすべての新車をEVにすると言っているメルセデス・ベンツは、合成燃料の使用について「化石燃料の割合は確実に減らすことができるがエネルギー効率を考えると再生可能エネルギーをバッテリーに充電することが最適だ。再生可能エネルギーを合成燃料に変換すると効率は低下する」とコメントしています。
これらの報道については、誰かがそういうコメントをしたのは間違いないだろうと思いますが、公式コメントなのかどうかは疑問です。ドイツ工業会のEU委員会に対する働きかけを踏まえて考えると、回答にだいぶ温度差があるように感じるからです。
例えば、日本の自動車工業会が政府への働きかけを行ったとして、これに反対するようなコメントをどこかのメーカーの広報部なり経営陣が発言するのか? ということで、これはちょっと鵜呑みにはできないですね。
ともあれEV化への動きは中心地となっているEUでも未だ混沌としていて、いろんなところで綱引きされているような印象はあります。調べれば調べるほど(と言ってもそれほど深く調べているわけではありませんが)いろんな思惑が入り乱れて、釣りでいうところのお祭り(糸が絡まってしまうやつ)になっているような気がします。
こんな状況のいま、我々はどんなクルマを選ぶべきなのでしょうか。
社会性を欠いた発言と言われるかもしれませんが、“いま”だからこそ自由にクルマを選んでもいいんじゃないか、と思います。EVの現在を実感するもよし、ガソリン、ディーゼルエンジンの内燃機関独特の鼓動感を楽しむもよし。そんなクルマ選びがまだぎりぎり許容される状況にあると思うからです。
(Photo & Text by Satoshi Saito)