2013年6月3日からの3日間、ドイツのコンチネンタルがハノーファーにある自社のテストコースで「TechShow 2013」を開催。その先進技術を体験した。
フォルクワーゲンやアウディのオーナーにとって、コンチネンタルは身近な存在。それもそのはず、ヨーロッパの新車に装着されるタイヤでもっとも多いのがコンチネンタルなのだ。
世界的に見ても世界第4位のタイヤシェアを誇るコンチネンタルなのだが、同社の売り上げに占めるタイヤの割合は3割ほど。実は自動車関連部品の比率が高く、部品サプライヤーとして、自動車メーカーにはなくてはならない存在である。
そのコンチネンタルがハノーファー北部にある自社のテストコース「Contidrom」で、技術プレゼンテーションを開催した。Conidromがオープンしたのは1967年。当時でも70haの広さを誇ったが、1993年には160haにエリアを拡大。最大傾斜58度のオーバルコースをはじめ、スキッドパッドやハンドリング路、オフロードコースなどを備え、すべてあわせるとその長さは22kmにも及ぶ。私自身、一度は訪れてみたかった場所である。
ここを舞台に開催されたTechShow 2013では、コンチネンタルが手がける未来の技術が、世界各国のジャーナリストに披露された。これには、自動運転、パワートレインの電動化技術、高性能タイヤなどが含まれ、さらに、実際にコース内で先進技術を試すことができるなど、とてもエキサイティングな内容だった。
自動運転はコンチネンタルが重視するテーマのひとつ。より安全かつ快適な移動や、エネルギー消費を減らすには自動運転の技術が重要になってくると同社は考えている。すでに、ステレオカメラを使った運転支援システムを提供するコンチネンタルは、その技術を生かして、さらなる運転の自動化を目指している。実際、1300人以上のスタッフが自動運転の開発に携わっているという。
さて、今回、自動運転を体験したのはこのパサート。2012年、アメリカのネバダ州で公道テストを行った車両である。フロントガラスのステレオカメラをはじめ、小型カメラやレーダーを満載。われわれジャーナリストは助手席と後席に陣取り、お手並み拝見ということになった。
いつものパサートと違うのが、センタークラスターに設けられたモニター。右半分がカメラの映像で、それを画像処理すると左のようになる。クルマの周囲のグリーンが走行可能エリアだ。ちなみに、このときは前方の赤信号を認識して、青に変わるのを待っているところ。
走りだすと、あらかじめ決められた速度で道路を道なりに進んでいく。ステアリング操作は意外にスムーズ。速度標識があるとそれを確認して自動的にスピードを調節する。また、人間優先の設定なので、ドライバーがステアリングを操作すると、普通の手動運転に切り替わる。
これだけだと、最新のアダプティブクルーズコントロールとあまり変わらないじゃないか......と思われるかもしれない。実際、最初のうちは私もそう思った。
いくつかコーナーを抜けると、前方に30km/h制限の標識があり、さらにその先に道路工事のサインが並べられているのを発見。サインの列の間隔はそれほど広くない。果たしてドライバーはどうするのか? ところが、ドライバーはステアリングホイールから手を離したまま。パサートは自動運転で狭いサインのあいだを巧みにすり抜けていく。見事な腕前だ。どうやらパサートの自動運転を侮ってはいけないようだ。
しかし、パサートにとって、この程度のことは朝飯前。さらに難しい状況が待ち構えていたのだ。
直線の道路を走っていると、いきなり歩行者に見立てた人形がクルマの直前を横断するというシチュエーションだ。比較的低いスピードだったので、パサートには自動ブレーキがかかり、人形の手前で無事停止できた。
やれやれ、と胸をなで下ろすのも束の間、運転席のスタッフから「次はもう少しスピードを上げてみるよ!」の声。いったいどうなるのだろう。その答えは次の動画で!
速度が高く、止まりきれないと判断すると、自動運転システムがステアリングをまずは左に、そして、すぐさま右に切り返して、いわゆる"ダブルレーンチェンジ"をやってのけたのだ。なんてことだ! 人間よりも上手(うわて)である。さすがの私もこれには驚いた。
もちろん、この危険回避はテストコースという特殊な条件だから無事できたわけで、いますぐに現実の世界に持ち込むわけにはいかないだろう。クルマが避けた先に別のクルマや歩行者がいたら......。けれども、研究の先に、より安全なクルマづくりをサポートする技術があるのは確かだ。
コンチネンタルは、2025年までに段階的にクルマの自動化を進めていく考えだ。まずは2016年以降、30km/h以下のストップ&ゴーをサポート。次に2020年以降、30km/h以上の高速走行を目指す。ただし、いずれもドライバーが道路状況に気を配らなければならず、高速での完全自動運転は2025年以降というのが彼らのロードマップだ。これには各国の法環境が整うことも必要だが、事故防止や環境負荷を下げるという点からも、ぜひ前向きな対応を期待したい。
自動運転以外にも興味深いテクノロジーが目白押しだ。そのすべてを伝えることはできないが......。
たとえば、このアウディA3スポーツバック。コンチネンタルの技術を使って、プラグインハイブリッド化したものだ。フロントはエンジン駆動、一方、リアは追加したモーターで駆動する電動quattroである。満充電で50kmのEV走行が可能。うまく使えば、ふだんは給油せずに済んでしまいそうだ。
装着されているのは、EVおよびハイブリッドカー向けの「Conti.eContact」だ。低いころがり抵抗と195/55R20というサイズが放つ存在感が、新しい省燃費タイヤの方向性を示している。
こちらは48Vバッテリーとそれに対応するコンポーネントを装着することで、現在のスタート/ストップシステムやブレーキエネルギー回生という省燃費技術をさらに発展させようとする試作車だ。
12Vバッテリーの他に、容量の大きな48Vバッテリー(リチウムイオン)を搭載すれば、ブレーキエネルギー回生による電力をより多く回収できるし、また、48V対応のスターター&ジェネレーターを使えば、これでエンジンのアシストも可能。走行中にエンジンを停止し、惰力で走行する機会も増えるということで、いわゆる"マイルドハイブリッド"以上の効果が期待される。
このようなパワートレインの電動化を自動車メーカーの要望にあわせて提供できるのがコンチネンタルの強み。もちろん、高性能タイヤの供給も自動車メーカー、そして、エンドユーザーにとっては大切なことで、この日はウェットのハンドリング路で、ContiSportContact5と他のハイグリップタイヤの性能を比較することができた。濡れた路面で唐突にグリップを失い、また、水たまりで横滑りが発生する某社のタイヤに対し、ContiSportContact5は絶対的なグリップが高いうえにグリップの変化が緩やか。ハイドロプレーニングの発生も少ないため、おのずとペースが上がってくる。ウェットでも安心して飛ばせるスポーツタイヤだ。
そんなこんなでコンチネンタルの明日を垣間見ることができたTechShow 2013。タイヤだけでなく、クルマづくりの多くに関わるコンチネンタルだけに、その進化は自動車の未来そのものといえるだろう。
次はどんな技術が私たちのカーライフを豊かにしてくれるのか? コンチネンタルの取り組みに注目したい。
(Text by Satoshi Ubukata)
世界的に見ても世界第4位のタイヤシェアを誇るコンチネンタルなのだが、同社の売り上げに占めるタイヤの割合は3割ほど。実は自動車関連部品の比率が高く、部品サプライヤーとして、自動車メーカーにはなくてはならない存在である。
いま話題のゴルフ7にも、たくさんのコンチネンタル製のパーツが使われている。たとえば、シャシーやセーフティ関連では、エアバッグをはじめとして、ブレーキブースター、電動パーキングブレーキ、ESCなど。パワートレインでは、エアフローセンサーやタイミングベルト、ギヤボックスの制御ユニットなど。また、インテリアでは、インストゥルメントパネルや各種コントロール用のコンピューターなど、名前を挙げればきりがない。
そのコンチネンタルがハノーファー北部にある自社のテストコース「Contidrom」で、技術プレゼンテーションを開催した。Conidromがオープンしたのは1967年。当時でも70haの広さを誇ったが、1993年には160haにエリアを拡大。最大傾斜58度のオーバルコースをはじめ、スキッドパッドやハンドリング路、オフロードコースなどを備え、すべてあわせるとその長さは22kmにも及ぶ。私自身、一度は訪れてみたかった場所である。
ここを舞台に開催されたTechShow 2013では、コンチネンタルが手がける未来の技術が、世界各国のジャーナリストに披露された。これには、自動運転、パワートレインの電動化技術、高性能タイヤなどが含まれ、さらに、実際にコース内で先進技術を試すことができるなど、とてもエキサイティングな内容だった。
自動運転はコンチネンタルが重視するテーマのひとつ。より安全かつ快適な移動や、エネルギー消費を減らすには自動運転の技術が重要になってくると同社は考えている。すでに、ステレオカメラを使った運転支援システムを提供するコンチネンタルは、その技術を生かして、さらなる運転の自動化を目指している。実際、1300人以上のスタッフが自動運転の開発に携わっているという。
さて、今回、自動運転を体験したのはこのパサート。2012年、アメリカのネバダ州で公道テストを行った車両である。フロントガラスのステレオカメラをはじめ、小型カメラやレーダーを満載。われわれジャーナリストは助手席と後席に陣取り、お手並み拝見ということになった。
いつものパサートと違うのが、センタークラスターに設けられたモニター。右半分がカメラの映像で、それを画像処理すると左のようになる。クルマの周囲のグリーンが走行可能エリアだ。ちなみに、このときは前方の赤信号を認識して、青に変わるのを待っているところ。
走りだすと、あらかじめ決められた速度で道路を道なりに進んでいく。ステアリング操作は意外にスムーズ。速度標識があるとそれを確認して自動的にスピードを調節する。また、人間優先の設定なので、ドライバーがステアリングを操作すると、普通の手動運転に切り替わる。
これだけだと、最新のアダプティブクルーズコントロールとあまり変わらないじゃないか......と思われるかもしれない。実際、最初のうちは私もそう思った。
いくつかコーナーを抜けると、前方に30km/h制限の標識があり、さらにその先に道路工事のサインが並べられているのを発見。サインの列の間隔はそれほど広くない。果たしてドライバーはどうするのか? ところが、ドライバーはステアリングホイールから手を離したまま。パサートは自動運転で狭いサインのあいだを巧みにすり抜けていく。見事な腕前だ。どうやらパサートの自動運転を侮ってはいけないようだ。
しかし、パサートにとって、この程度のことは朝飯前。さらに難しい状況が待ち構えていたのだ。
直線の道路を走っていると、いきなり歩行者に見立てた人形がクルマの直前を横断するというシチュエーションだ。比較的低いスピードだったので、パサートには自動ブレーキがかかり、人形の手前で無事停止できた。
やれやれ、と胸をなで下ろすのも束の間、運転席のスタッフから「次はもう少しスピードを上げてみるよ!」の声。いったいどうなるのだろう。その答えは次の動画で!
速度が高く、止まりきれないと判断すると、自動運転システムがステアリングをまずは左に、そして、すぐさま右に切り返して、いわゆる"ダブルレーンチェンジ"をやってのけたのだ。なんてことだ! 人間よりも上手(うわて)である。さすがの私もこれには驚いた。
もちろん、この危険回避はテストコースという特殊な条件だから無事できたわけで、いますぐに現実の世界に持ち込むわけにはいかないだろう。クルマが避けた先に別のクルマや歩行者がいたら......。けれども、研究の先に、より安全なクルマづくりをサポートする技術があるのは確かだ。
コンチネンタルは、2025年までに段階的にクルマの自動化を進めていく考えだ。まずは2016年以降、30km/h以下のストップ&ゴーをサポート。次に2020年以降、30km/h以上の高速走行を目指す。ただし、いずれもドライバーが道路状況に気を配らなければならず、高速での完全自動運転は2025年以降というのが彼らのロードマップだ。これには各国の法環境が整うことも必要だが、事故防止や環境負荷を下げるという点からも、ぜひ前向きな対応を期待したい。
自動運転以外にも興味深いテクノロジーが目白押しだ。そのすべてを伝えることはできないが......。
たとえば、このアウディA3スポーツバック。コンチネンタルの技術を使って、プラグインハイブリッド化したものだ。フロントはエンジン駆動、一方、リアは追加したモーターで駆動する電動quattroである。満充電で50kmのEV走行が可能。うまく使えば、ふだんは給油せずに済んでしまいそうだ。
装着されているのは、EVおよびハイブリッドカー向けの「Conti.eContact」だ。低いころがり抵抗と195/55R20というサイズが放つ存在感が、新しい省燃費タイヤの方向性を示している。
こちらは48Vバッテリーとそれに対応するコンポーネントを装着することで、現在のスタート/ストップシステムやブレーキエネルギー回生という省燃費技術をさらに発展させようとする試作車だ。
12Vバッテリーの他に、容量の大きな48Vバッテリー(リチウムイオン)を搭載すれば、ブレーキエネルギー回生による電力をより多く回収できるし、また、48V対応のスターター&ジェネレーターを使えば、これでエンジンのアシストも可能。走行中にエンジンを停止し、惰力で走行する機会も増えるということで、いわゆる"マイルドハイブリッド"以上の効果が期待される。
このようなパワートレインの電動化を自動車メーカーの要望にあわせて提供できるのがコンチネンタルの強み。もちろん、高性能タイヤの供給も自動車メーカー、そして、エンドユーザーにとっては大切なことで、この日はウェットのハンドリング路で、ContiSportContact5と他のハイグリップタイヤの性能を比較することができた。濡れた路面で唐突にグリップを失い、また、水たまりで横滑りが発生する某社のタイヤに対し、ContiSportContact5は絶対的なグリップが高いうえにグリップの変化が緩やか。ハイドロプレーニングの発生も少ないため、おのずとペースが上がってくる。ウェットでも安心して飛ばせるスポーツタイヤだ。
そんなこんなでコンチネンタルの明日を垣間見ることができたTechShow 2013。タイヤだけでなく、クルマづくりの多くに関わるコンチネンタルだけに、その進化は自動車の未来そのものといえるだろう。
次はどんな技術が私たちのカーライフを豊かにしてくれるのか? コンチネンタルの取り組みに注目したい。
(Text by Satoshi Ubukata)