150119-SACHS-01.jpg多くのモータースポーツファンを熱狂させるポロR WRC。その卓越したサスペンションを開発、供給するのがドイツのフットワーク技術集団「ZFレースエンジニアリング」社だ。

今回、SACHSブランドのインポーターである株式会社ハンズトレーディングの協力を得て、ZFレースエンジニアリング社の単独インタビューに成功した。 古くからのファンにはSACHS(ザックス)の名前の方がしっくり来るだろうが、現在SACHSはZFグループの傘下にあり、会社はZFに統一され、唯一ブランドとしてSACHSの名を残している。会社名はZF、その取り扱い製品がSACHSとなる。通称RS-1、正式には「ザックスパフォーマンスコイルオーバー(以下PCO)」と呼ばれる車高調整サスペンションセットの新製品情報を中心に、現場の裏話と、今後の展開についてテクニカルセールスのダニエル・ベッカー氏に話を伺った。

編集部:ダニエルさん、ようこそ日本へ! さっそくですが、秘密が多いZFレースエンジニアリング社の活動について教えてください。

ダニエル:わかりました。まず、われわれの母体であるZF-AGは自動車パーツサプライヤーの世界第2位のポジションにあります(1位はロバートボッシュ社)。年間売り上げ300億ユーロ(約4兆2000億円!)、総従業員数は13万8000人の規模です。多くのスタッフは、これから数年後に販売される車両の製品開発と、生産車両へのパーツの供給を行っております。供給する製品はエンジンセクションを除いた床下まわり全部です。

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編集部:えっ、ちょっと待って下さい......床下まわり全部ですか?

ダニエル:はい! 具体的にはトランスミッション(+トルクコンバーター&クラッチ)、ハイブリッドモーターシステム、ステアリングギアボックス&コラムリンケージ、プロペラシャフト、ディファレンシャル、ドライブシャフト、サブフレーム、各マウント&ベアリング、スタビライザー、ショックアブソーバー、コイルスプリング、各種サスペンションアーム。それと統合マネジメントソフトウエアですね。これでZF-AGがどういった企業なのかご理解いただけると思います。

さて、本題の私たちZFレースエンジニアリングについてお話しましょう。仕事は大きく別けてふたつあります。ひとつは研究開発です(レースエンジニアリング社は、ZFの研究開発部門直下に組織編制されている)。もうひとつはプロレース用製品の開発供給です。現在、従業員80名で、約半数のエンジニアが常時ZF研究センターに出向しております。残りの半数以上のエンジニアはWRC(フォルクスワーゲンモータースポーツ社)とF1(スクーデリアF1フェラーリ)の専任エンジニアです。ですからレースシーズン中のオフィスはとても静かですね(苦笑)。

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編集部:とても忙しそうですね。PCOサスペンションセットの新製品が、なかなかリリースされない理由が少し解った気がします(笑)。R&Dへの出向とレースサポートで各エンジニアさん達は手一杯と......。PCOサスペンションの開発と供給は今後どうなりますか?

ダニエル:将来、新型車に供給される純正パーツの開発と、レースサポート。これが最優先で今後も変わることはありません。しかし、昨年末から少しずつアフターマーケット製品への取り組みに変化がありました。私を含めた4人のセールスエンジニアが専任でオペレーションを開始します。おもな仕事は、「早く!早く開発して!」と、急かすことでしょうか(笑)。

現在ドイツのファクトリーでは、3月頃にリリース予定のMQB用PCOサスペンションのセットアップスケジュールがアップされています。製品は100%ドイツ・シュヴァインフルト(SACHSブランドのヘッドクォーター)ファクトリーにてハンドメイドで組み立てています。作業はポルシェカレラカップ&シロッコカップダンパーを担当する熟練エンジニアが兼任して製品をセットアップします。

今回は試作品の画像しかご用意できませんが、ほぼ実製品と同じです。外観は先代モデル(ゴルフ5や6用)とほぼ同じです。減衰調整ダイヤルは従来どおりダンパー下部にセットされていますので、ユーティリティもそのままです。一方、内部パーツは大きく変わりました。セカンドジェネレーション(第2世代)に相応しい進化ですよ。

WRCの功績をよくご存知の日本の皆さんなら、私たちがつくるサスペンションの優位性をご存知でしょう。販売開始までもうしばらくです。MQB用パフォーマンスコイルオーバーサスペンションセットをよろしくお願いします!

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編集部:ダニエルさん、今回はありがとうございました! 発売が近いMQB用ザックスサスペンションセット、大いに期待してます!

ダニエル:ありがとう! 次回は4月に来日予定です。ぜひ新製品を試してみて下さい。8speed.netのロードインプレッション記事を楽しみにしています。

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編集部より

ZFレースエンジニアリング社のダニエル氏、帰り際にWRCダンパーについて、少しだけ質問してみた。その内容をかいつまんでご紹介。掲載画像は2014年中盤戦まで使われていたリザーブタンクが下付けの製品。

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まずは4本の価格を聞いてみたところ、予想どおり、非売品。門外不出の秘密(フォルクスワーゲンモータースポーツとの契約か?)とか。仮に価格換算すると4本で1500万円以上になるそう。

次にこれは正立式なのか、倒立式なのか? ラリー用ダンパーは応力剛性が優れた倒立式がいいという定説はもはや最先端コンペティションでは通用しないらしい。画像を見るかぎり剛性の高い太いシャフトのWRCダンパーだが、実は正立式! 太いシャフトはケースにすぎず、中に細いシャフト(フリクションロスの少ない)のダンパーが搭載されているのだ。構造がわからないという方はマトリョーシカを想像してみて。

各諸元表には「4ウェイストラット」または「マルチウェイストラット」と表記されるが"ウェイ"って何? まず、WRCのレギュレーションでは、前後のサスペンション&ダンパーの形状が同じでなくてはならない。市販車とは異なり、リア側がダンパーとスプリングが別の場所にセットされるのではなく、フロントと同じ一体(ストラット)形状となっているのだ。そして、ウェイだが、これはダンパーの減衰調整チャンネルの意味。ほとんどの市販車のダンパーは非調整、つまりゼロウェイで、一方、4ウェイの場合はダンパーの伸び側と縮み側の減衰を、独立して調整可能。これが2ウェイ。さらに伸び側と縮み側の入力速度"低速と高速(低負荷、高負荷)"を独立して調整できる。これで2ウェイで合計4ウェイ。

実はポロR WRC用ダンパーにはもうひとつのすご制御があるらしいのだが今回は聞くことができなかった。次回来日の際には必ずや詳細を聞き出したい。

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