コンセプトとしては、量産も視野に入れたという1リッターカー"L1"、近未来シティカーのあるべき姿を追求した電気自動車"E-Up!"の2モデルが発表され、市販モデルとしては、第2世代ブルーモーションを搭載したポロ、ゴルフ、パサートの3台、あのT2から始まる歴史を受け継ぐワンボックス"トランスポーター"(日本名ヴァナゴン)の新型、そしてシロッコ20Rに続くRシリーズとして"ゴルフ20R"、そしてすでに発表済みだが、ポロの3ドア版がショーデビューを果たした。まずは、コンセプトカーから紹介しよう。
■1リッターカーへの技術革命、L1
2004年の4月に発表されたコンセプトカー、L1の発展モデル。第1世代に進化したこのL1は、全長3813mm、全幅1200mm、全高1143mmというディメンションで、Cdが0.195という驚異的な値。初代および2代目L1プロトタイプの開発に当たり、まずボディ構造でエネルギーを最小限に抑えるためにはどのようなものが適切かが検討され、その結論としては、軽量で、優れた空力特性を持ち、さらに最大限に安全性を確保するクルマ、すなわち細長いCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製ボディのタンデム2シーターだったという。
ボディ素材にCFRPが採用された理由は、重量と強度に優れるためという。その車両重量は380kgとしているが、その内訳は、122kgがドライブトレーン、79㎏がシャシー、35㎏が内装、20kgが電装で、ボディ重量はわずか124kgに過ぎないそうだ。興味深いのは、フォルクスワーゲンが、これまでは小規模生産品への使用に限定されていたこのCFRPの、量産にも適したコスト効率に優れた製造方法を確立したと明言している点。
エンジンは、TDI2気筒と電気モーターを組み合わせるハイブリッド。主な駆動源となる2気筒コモンレール直噴ディーゼルは新設計で、標準のエコモードと、スポーツモードの2モードで作動。エコモードでは20kW(27ps)/4000rpm、スポーツモードでは29kW(39ps)/4000rpmを発揮し、最大トルクはどちらのモードでも100Nm(10.2㎏-m)/1900rpm。10kW(14ps)の電気モーターとクラッチで構成されるハイブリッドモジュールは、7速DSGのハウジングに組み込まれ、TDIユニットとDSGギアボックスの間にレイアウトされる。電力は車両フロント分に搭載されるリチウムイオンバッテリー。制動時には、電気モーターが発電機として機能し、制動エネルギーを回収する仕組みともなっている。
注目のパフォーマンスは、最高速度が160km/h、0~100km/h加速が14.3秒。燃料タンク容量は10リッターと極端に少ないが、燃料消費率は1.38リットル/100kmで、まったく問題はなさそう。CO2排出量が39g/kmと、大幅に低減されていることも見逃せない。
1リッターカーとは、エンジンの排気量ではなく、100km当たりの燃料消費量を1リットル以下に抑えるというコンセプトが元となるネーミング。フォルクスワーゲンは、「革命的でありながらも現実的なコンセプトカーとして量産に近づいてきた」としていて、近い将来の量産化も匂わせるが、果たして? 少なくとも、このクルマの開発で得た技術は市販車に応用されることになると思われるが・・・。
■21世紀のビートルを目指して、E-Up!
マルティン・ヴィンターコルンVWグループ会長は、「このコンセプトカーは、フォルクスワーゲンが電気自動車をどのように捉えているのかを技術的、視覚的、そして実用的なサイズなどから、かなり現実に即してお見せするものです」というから、要注目。
ベースは、2011年のデビューが予定されているフォルクスワーゲンのニュースモールファミリーのモジュール。ボディサイズは全長3199㎜、全幅1641㎜、全高1468㎜で、ホイールベースは2190㎜。フロントに搭載されるモーターは、最高出力60kW(常時出力:40kW)で、発進直後から210Nmの最大トルクを発揮するという。そのパフォーマンスは0~100km/h加速が11.3秒、最高速度が135km/hというもので、特に市街地走行で多用する30~50km/h加速はわずか3.5秒。キビキビした走りを実現しているという。
こうした性能には電気モーター特有のトルク特性だけではなく、車両重量が1055kgに抑えられていることも大きく貢献している。アンダーボディに搭載されるリチウムイオンバッテリーだけで240kgの重量があることを考慮すると、驚異的な軽さ。すべてのドライブアッセンブリーと補器アッセンブリーを一体型としフロントエンドのエンジンコンパートメントに搭載、軽量化のほか、ドライブユニットのスペース上の問題も解決したとのこと。インテグラルドライブと呼ばれるこのユニットは、140kgと軽量。スペース効率の高さ、理想的な静粛性と、高トルク/ハイパワーの実現で優れたパフォーマンスを得るなど、電気駆動に課せられる要件をほぼ理想的な形で満たしているという。
バッテリー容量は18キロワット(kWh)で、1回の充電での航続距離は、市街地走行や一般的な通勤には必要十分な130kmを確保している。充電は、自宅のガレージ、一般の駐車場、そして将来的にはICカードによって利用可能となる公共充電ステーションの3つの方法が考えられ、1時間程度のバッテリー総容量の最大80%の充電が可能という。
ご覧の通り、E-Up!は、すでに発表されている次世代フォルクスワーゲンのスモールカーファミリーとの視覚的類似性を感じさせるデザインだ。ただ、注目したいのは、E-Up!が将来の生産車両との関連性をより密接に感じさせると、フォルクスワーゲン自らが語っていることだ。フロントエンドには、フォルクスワーゲンの新しいブランドフェースを採用しながら、V字型のボンネット、その中央にVWのロゴを配するなど、ビートルへのオマージュも見受けられる。バウハウスの理想、「レス・イズ・モア」を採り入れ、シンプルさと純粋さを同時に追求するスタイリングも狙ったとしていて、意図的にグラフィックエレメントの数を抑えつつ、デザインと革新技術を融合させたという。
室内もユニーク。インストルメントパネルは内部部品を小型化することで、通常よりも前方のエンジンコンパートメントよりに配置したこと、また3+1シーターというレイアウトを採用したことで、インテリアスペースは開放的。助手席を50mm前方に配置したことで、助手席および助手席後ろのリアシートには、大人ふたりに十分な空間が確保されたとのこと。一方、ドライバーシート側のレッグスペースには限りがあるため、そこはスペアシートとして設計されている。で、3+1シーターというわけだ。
ヴィンターコルン会長は、こうも語っている。「我々は段階的に未来型モビリティに移行していきます。市街地では、E-Up!のようなクルマが既存テクノロジーを補完することになると考えています。それが始まるのは2013年頃でしょう」
■1リッターカーへの技術革命、L1
■21世紀のビートルを目指して、E-Up!
(Text by M.OGURA)