昨今SUVは欧州の誰もが認めるトレンドだが、「T-Cross Breeze」は、クラス初のオープントップSUVとしてその存在意義を強調している。
フォルクスワーゲンブランドのヘルベルト・ディース会長は、「コンバーティブル・モデルを実際に市場投入する可能性を視野に入れている」とコメントしている。同時に開発コンセプトのひとつに「手頃な価格」を挙げていることも、このモデルの市販化を期待させるに十分だ。
エンジンも極めて実現可能な選択である。1.0TSI 110psガソリン直噴ターボエンジンの理論上の航続距離は800kmで、会場のジュネーブからモンブランを越えて南仏コート・ダジュールのカンヌまで無給油到達できるとフォルクスワーゲンは胸を張る。
同時に、意欲的な電子化が図られている。7段のDSGデュアルクラッチ・ギアボックスは、バイワイヤ方式で制御する。
さらに各種コマンドは、操作レバーとウィンドー/ソフトトップ開閉スイッチを除いて、タッチパネルおよびジャスチャー・コントロールに委ねている。フォルクスワーゲンは「近い将来の市販車はこのようになる」と断言している。
実際に見ると、ボディは全長約4mクラスで、デザイナーのヘルベルト・ディースが強調するとおり、ショート・オーバーハングである。サイズからして、おそらく次期ポロも、同様なデザイン・ランゲージが反映されるだろう。
中世・ルネッサンス時代からの狭い街路が多く、また大都市の駐車場バトルが日常茶飯なヨーロッパで、「SUVはスタイリッシュだけど、日常使いにはちょっと」と躊躇していたユーザーに、「T-Cross Breeze」はかなり訴求力がありそうだ。そのためか、プレスデイ1日め午前からジャーナリストやカメラマンにさっそく"包囲"された。
ふたつめの話題は、デビュー5年めにしてマイナーチェンジが施されたup!である。
最もパワフルなエンジンとして90PS TSI 直噴ガソリンターボ3気筒が追加された。最高速185km/h、0-100km加速10秒というそのスペックに関して、フォルクスワーゲンは「初代ゴルフGTIに匹敵」と、洒落た言い回しを選んでいる。
装備も充実が図られた。ダッシュパッドにスマートフォンを設置し、Bluetoothで通信することにより、ナビ付きインフォテインメントシステムを利用できる。
さらに、「up! beats」仕様は、BeatsAudioによる300Wサウンドシステムを搭載している。ちなみにBeats Audioは前述の「T-Cross Breeze」にも搭載されている。
いにしえのフォルクスワーゲンファンにとって"ビート"といえば空冷フラットツインが発するバサバサ音だったが、今や世界で最もエキサイティングなオーディオ・ブランドがその役割を果たすわけだ。
3つめのトピックは、ゴルフGTIの40周年アニバーサリー・モデル「GTIクラブシュポルト」だ。
アクセレレーション・ペダルをキックダウンしてブーストモードを選択すると、一時的に290psまで馬力を引き上げられる。
エクステリアでは、フロントバンパーをはじめとするディテールの改良により、エアロダイナミクスを向上させている。ドイツにおける価格は34,500ユーロ(約448万円)からという。
さて、モーターショーといえば、コンパニオンである。こう言ってはなんだが、フォルクスワーゲンブランドのコンパニオンは、常に質実剛健ムードが溢れている。クルマにたとえれば、2代めゴルフや2代めポロあたりといったところか。
ところがどうだ。今回2日め朝、フォルクスワーゲンブランドを再び訪れると、あるコンパニオンが「あなた、昨日も通りかかったでしょ。よく眠れた?」と、笑顔とともに声をかけてきた。
接客マニュアルにはけっして載っていないであろう、こうした対応こそビジターの心をつかむ。
加えていえば、カローラさんというそのコンパ二オン(下の写真の右側)、研修で覚えたばかりと思われるGTIクラブシュポルトのスペックを懸命に説明してくれた。
以前記したがフォルクスワーゲンブランドは2014年パリサロンで、ブース外にいるオペレーターと液晶画面を通じて対話できる自走式2輪ホイールの導入を試みた。だが、やはり人力対応は捨てたものじゃない。
かくもジュネーブのフォルクスワーゲンブランドブースは、クールなハイテクノロジーと心温まる「アドリブ対応」が共存していたのだった。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)