クルマは乗ってみなければ分からない。もっといえば、ある程度長く乗らなければその本質は分からない。初めての我がゴルフは、改めてこんな思いを強くさせてくれた。
Ⅲの乗り始めの印象はあまり芳しいものではなかった。ボディ重量がⅡに比較して増えたせいか、乗り心地はまあまあ。が、静粛性はその割にもうひとつ。4速オートマチックは例のあまり賢くないヤツで、普通に加速していくと60㎞/hあたりまで3速をキープ、4速に上がったとしても、車速が落ちるとすぐ3速にシフトダウンするという、街中では少し煩わしく感じられるセッティング。パワーだって、十分ではな い。率直にいえば、シンプルで軽快な走りが光ったⅡと比べると、際だつものがない凡庸な性格と思えた。


しかし、そうした印象は乗り続けるうちに大きく変化していく。たとえば、そのボディの高い剛性感は、知らず知らずのうちに国産車では得難い包まれ感、安心感を生み出していることを知る。高速道路を長時間走ると、その直進安定性やシートのよさが、ドライバーにほんとんど疲れを覚えさせないことを知る。アウトバーン育ちであることを意識させるのは、その後の燃料補給。意外と、高速巡航燃費が優れていることに気づくのだ。やや鈍くさいと思えた操縦性にしても、少なくともワインディングの下りだったら、なかなか切れ味の鋭いところを見せることに気づく。凡庸に見えて、侮りがたい実力を持つクルマであることが、次第に分かってきたのだ。

「ゴルフって面白い」と思い始めると、その思いはすぐに仕事にも反映され、その名も"VW GOLF"(直球過ぎ?)というムックを製作することに。もう10年以上昔の'98年のことだ。我がゴルフは、GLiのマニュアルに変わっていた。それに加えて、2ドアのCLiマニュアルも購入。GLiで是非やってみたかったのは、コックスのSZチューン。CLiでは、2ドアのそのスポーティな外観を活かして主にコスメティックを楽しむことにする。もちろん、記事にするためもある。仕事といえば仕事。でも、なんだかんだと実際にやってみて生まれる変化が楽しくてしようがない。結果的に、オグラはゴルフのチューニング、モディファイの楽しさに、のめり込むことになってしまったのだ。

またこの頃から、Ⅱにも手を出し始める。Ⅱは、中古車価格が下がっていたこともあって、格好のチューニング、モディファイ素材となっていた。Ⅱのパーツ、アクセサリーはそれこそ山のようにあって、なんとでも好みの仕様にすることができた。背景のひとつとしては、数年前から、輸入車による、ライセンスを必要としない"コンビニ・レース"が興隆、ゴルフでもワンメイク・レースが行なわれる展開になったことも挙げられる。オグラも当然、それに参加する。そして'99年、またもやムック、"VW GOLF FAN Vol.2"を製作、そのⅢとⅡのなんやかやを掲載した。ゴルフを触ることの楽しさを、もっともっと広く理解してもらいたいという、その一心ではあった。モディファイを楽しむ、その変化を楽しむといったことは、クルマを理解する上で重要。こういうモディファイ大好き人間を指す"モディ君"なる愛称(?)を作って、初めて打ち出したのは、このVol.2だった。

「ゴルフって奥深い」と思い始めたのは、こうしてⅡやⅢを触りまくって、ゴルフには驚くほどの耐久性、いい替えれば余裕があるということを実感したからだ。そればかりではない。様々な設計、デザインは、クルマの長い耐用年数を見据えて、開発時点での流行に左右されることなく、なにが必要であるかが実によく考えられて行なわれていることも理解し始めていた。やや大げさにいうならば、フォルクスワーゲンという名にふさわしい造りがなされているということがジワジワ分かってきたという ところだろうか。

フォルクスワーゲン、ゴルフへの傾倒は、何度かドイツ本国での取材を重ねるうちに、やがて確信のようなものに変わっていく......。